シドニーでの「ウニベルソ・フェラーリ」におけるプロサングエ

フェラーリが初めて手がけた4ドア4人乗りとして話題になっているのが「プロサングエ」。新開発のV型12気筒エンジンに、4WDシステムの組み合わせ。「フェラーリ初のSUV」と取り沙汰されてきたが、フェラーリではこのクルマを「あくまでもスポーツカー」と呼ぶ。そこも面白い。

最初にお披露目されたのは、2022年9月初旬。イタリアはボローニャから40キロほど離れたマラネロという小さな町にあるフェラーリ本社にジャーナリストを集めて、うやうやしく(というかんじで)ベールがとられたのだった。


シドニーのロイヤルランドウィック競馬場に新設された「WINX」が発表の舞台

全高が1.6メートル近くある堂々たるサイズで、フロント22インチ、リア23インチと、超がつくぐらいの大径タイヤを履いている、その迫力はたいしたもの。

観音開きドアを採用した理由

ドアはフェラーリが「ウェルカムドア」と呼ぶ、観音開き。前後ドアを開くと、後席も前席のようなフルバケットシートがそなわっているのがわかり、たしかにけっこうスポーティだ。ただし、かなりぜいたくだけれど。


太いBピラーが剛性の高さを物語っている

「このドアを採用した理由を、あらためてお伝えすると、操縦性能に影響を与えるホイールベースをできるだけ短くしながら、乗降性を犠牲にしたくなかったからです」

そう語るのは、フェラーリ本社の役員で、スポークスパーソンを務める、チーフ・マーケティング&コマーシャルオフィサーのエンリコ・ガリエラ氏。舞台は、2022年の「ウニベルソ・フェラーリ」会場だ。


曲線をえがくフェンダーラインとリアコンビネーションランプの意匠が、フェラーリの2ドアモデルとの関連性を感じさせる

11月最終週の週末に豪州シドニーで開催されたウニベルソ・フェラーリは、ファンのために、フェラーリの(ほぼ)すべてを見せるイベント。

展示車両は多い。古くは、365GTB/4デイトナ(1968年)やF40(1987年)。同時に、296シリーズやデイトナSP3といった最新モデルもずらりと並べられた。さらに、フェラーリが力を入れているモータースポーツ活動の数々も、重要なコンテンツとして、しっかり紹介されていた。


ボディ上部と、カーボンファイバーの素材感が見えるフェンダーまわりとボディ下部とは、後で合体させたイメージとデザイナーは説明

「4ドアのフェラーリが欲しいという声は、早くも1960年代に、オーナーから寄せられていました。創設者エンツォ・フェラーリ(1898〜1988年)も4ドアを好んでいたのは事実です。でも、同時に、エンツォ・フェラーリは、本当のスポーツカーでないとフェラーリの名をつけるのを認めませんでした」

4ドアのフェラーリが出るまでには、その頃から60年ぐらいかかったことになる。プロサングエの発表にこぎつけたのは、「これなら”フェラーリ”にふさわしい走行性能を、電気モーターを使ったアクティブサスペンションが可能にしたからです」。マラネロでの発表会のとき、チーフ・プロダクトデベロップメント・オフィサーのジャンマリア・フルゼンツィ氏は教えてくれた。

コードネーム・プロサングエの意味は「サラブレッド」

「4ドアだけれど、100パーセント・スポーツカー。それを確信したとき、正式車名として、開発時のコードネームだったプロサングエをそのまま使用することに決めました。英語だとサラブレッドという意味です」。前出のガリエラ氏は説明する。

「シャシーの共用化はしない」と言い切るフェラーリは、3018ミリのホイールベースを持つモノコックシャシーを開発。65度のバンク角を持った6496ccV型12気筒エンジンを、前車軸より後ろに搭載した、いわゆるフロントミドシップだ。


フロントミドシップの6496ccV12エンジンは533kW/7750rpmの最高出力と、716Nm/6250rpmの最大トルクを発生

ドライサンプ化によって重心高を下げたこのエンジンは新開発。ターボチャージャーともハイブリッドシステムとも無縁の自然吸気型だ。533kWの最高出力と、716Nmの最大トルクでもって、リアに載せたトランスアクスル方式の8段ギアボックスを介して4つの車輪を駆動する。

車重は2トンを超えるものの、静止から時速100キロまでの加速には3.3秒しかかからない。ボディは「風の彫刻」とフェラーリがホームページで謳うように、徹底的に空力効果が追求されているといい、最高速は時速310キロに達するそうだ。


シンプルにまとめられたセンターコンソール

コクピットにからだを落ち着けると、センターコンソールが高めで、囲まれ感が強いのがまず印象的だ。ダッシュボードには「デュアルコクピット」なるテーマが採用されていて、助手席前のモニターが大きく、情報量が多いのは、フェラーリとして新しい。

後席も、バケットタイプのシートがからだを包む感じだし、2つの席のあいだには高めのセンターコンソールが設けられていて、タイト。でもスペースはしっかり確保されていて、けっこう快適そうだ。


プロサングエのデュアルコクピット

フェラーリはこれから変わっていくのだろうか。

「私たちは、(2025年に)ピュア電気自動車を出すと発表していますが、未来は予測不能との見解から、方向性を1つに絞りきっていません」

フェラーリはエンジン開発をやめない

スポーツカーの未来をどう考えているか、私の質問に対するガリエラ氏の答えだ。2022年6月の投資家向け「キャピタルマーケッツデイ」において、フェラーリ本社は「ガソリンエンジンの開発はやめない」と明言している。

2023年から2026年にかけて15のニューモデルを発表する計画も、同時に発表。生産台数はフェラーリの方針として絶対につまびらかにしないものの、デイトナSP3など「イコーナ」シリーズやスーパーモデルの比率は5パーセント、標準モデルをさらにチューンナップしたスペシャルシリーズは10パーセント、そしてプロサングエは20パーセントに抑える割合が発表されている。

プロサングエは、あまりにも人気が高く、一説によると、生産予定台数分はすでにすべて受注済みだとか。今回のウニベルソ・フェラーリの開催前の記者会見において、オーストラリア人の記者に確認されたガリエラ氏は、「そんなことはないですよ」と答えていたが。買えれば本当にラッキー、というのが世界中のフェラーリファンの共通認識なのだ。

プロサングエの価格は4760万円。庶民には到底手が出ないが、このクルマを買おうとするような超富裕層にとっては、何の問題もない価格なのだろう(ため息)。


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(小川 フミオ : モータージャーナリスト)