この記事をまとめると

■復活を目論むランチアがデザイン発表をオンラインにて開催

■新生ランチアのブランドロゴと2024年に新型イプシロンをローンチすることが発表された

■近い将来にランチアから発表されるモデルのスタイリングを示唆するオブジェも公開された

新生ランチアのキーワードは「EMOZIONE」

 先週、ただならぬ1通のメールが届いた。何でもランチアがデザイン発表をオンラインで催すから、日程を空けておくようにとのお達し。確か木曜にメールが来て翌月曜発表とか、そんなせわしなさ。10月にパリサロンに足を運んだとき、旧知のデザイナーから「ステランティス・グループ内ではいま、ランチアのスケッチをしまくっているらしい」というウワサは聞いていたが、まさかこんなに早く、何かしらの成果が発表されるとは。

 指定の時刻に繋いだ先の画面は、どうやらイタリアはパラッツォ・レアーレ・ディ・トリノ。旧サヴォワ王国の王宮内の、華麗なるイタリアン・バロック様式のギャラリーだった。そこにランチアのルカ・ナポリターノCEOが、粛々というよりは熱っぽいスピーチで、新生ランチアのキーワードを次々と語っていた。ランチアとは伝統的にイタリアン・エレガンスである、という認識に始まり、電動化やサステナビリティ、クオリティやオンラインを含むデジタル化といった昨今の流行りは当然おさえている。2024年の前半には新型イプシロンをローンチする予定とも。

 ところが、これだけキーワードを沢山挙げておきながら、「ランチアとは何ぞや?」は「ひとつの単語で言い表せる」ともいう。「最初から言ってよ!」とツッコみたくなる論法からして、すでにイタリアっぽいのだが……。

 それは「EMOZIONE(エモーツィオーネ、エモーションの意)」だという。ファッションでも建築でも音楽でも料理でも、イタリアなるものにココロ動かされる瞬間とはつねにエモーショナルな経験で、ランチアは自動車において「プログレッシブ・クラシック(進歩的な古典)」、つまり時代を先取りしつつ後には伝統的な存在になってきたと。

 新しいアイデンティティとして、ランチアの新しいロゴもお披露目された。これは1957年来のブランド・ロゴで、欠かせない要素となってきた盾、ステアリング、LANCIAの名が記された旗を抽出してモダンにしたものだという。

 ここで昨年夏より、ランチア・デザインのヘッドに就任して、ナポリターノCEOと新生ランチアのあるべき姿を議論し続け、ランチア・デザイン・デイの開催にこぎ着けたというジャン・ピエール・プルエ氏が登場した。彼は旧PSAグループ、次いでステランティス・グループの取締役デザイナーとして全ブランドのデザインチーフをまとめる立場にあり、ランチアは兼任というカタチでデザインの指揮を執っているのだ。

 彼は元々ルノーでキャリアをスタートさせてエクステリア・デザイナーとして初代トゥインゴを描き、フォルクスワーゲンやフォードを渡り歩いた後、シトロエンに移籍して、初代C4やC4ピカソをはじめ2000年代のシトロエン刷新に大きな功績を果たした。やがてフェラーリやロータスに移籍したドナート・ココやBMWの現デザインチーフ、ドマゴイ・デュケック、あるいはメルセデスでアドバンスト・デザインを手がけるアレクサンドル・マルヴァルらは皆、シトロエンでプルエの部下だった。

 それだけ影響力のあるデザイナーが開口一番、「ベルトーネからガンディーニにフィオラヴァンティまで、名だたるカロッツェリアが軒を連ねたトリノに引っ越して、イタリアを象徴するブランドのひとつであるランチアを手がけられる日々に興奮を覚える」と、そう顔をほころばせたのだ。

ランチアが公開したオブジェは果たしてクルマなのか?

 ランチアのようなブランドとしてアセットとして大きな資産を、ステランティス・グループのカルロス・タヴァレス会長が放っておくはずはなかった訳だが、プルエ氏の様子を見る限り、会長にやらされてトリノのチェントロ・スティーレに行ったのではなく、おそらくセルフ人事発動でやっている可能性がある。トゥインゴ、次いでシトロエンという総合自動車メーカーを経たあとにランチアということは、どれだけぶっ飛んだスーパーカー状態のデザインを手がけても、世間も会社もがっちり受け止めてくれそう、そんな仕事の自由度というか読みが、絶対にあるだろう。

 昨年の就任当時のリリースを再読してみたら、プルエ氏は比較的、若くて少人数のデザイナーのチームを指揮しているという。

 そしてこの日、新生ランチアのデザインにおける最初の成果としてアンヴェールされたのが、「PU+RA ZERO(ピューラ・ゼロ)」だ。名前の由来は、ピュアとラディカルを足したという造語だ。最初の1音節目は、ナポリターノ氏がいうとフェラーリのプロサングエよろしくイタリア風に「プー」なのだが、プルエ氏がフランス風に発音するとやっぱり「ピュー」。

 それはさておき、バロック宮殿の回廊に置かれたそれは、ホントにクルマか? というミステリアスな物体だった。低いというか、タイヤすら付いていない…。ストラトスは成層圏から現れたような、と形容されたが、さらに上の宇宙から降りてきたような、見れば見るほどナゾ過ぎる、そんなオブジェっぷりだ。

 辛うじて前に進む方向は、何となく示されているが、リヤの尖ったオーバーハング面の両端に、丸いテールランプのようなものが載っているところが、少しストラトス風でもある。天井の丸い窓は、ドゥオモのようなイタリアの古典建築で見られる灯りとりを彷彿させる。なるほど、幾何学的かつ建築的だ……。

 下の台は、クルマとしての一部ではなさそうだが、もしかしてコードレス充電の台でも兼ねているのかもしれない。ちなみにランチアはインテリアに関しては、デザイン家具の総合ブランドとして有名なカッシーナとパートナーシップを結んで進めている。

 いずれ、いまのところすべてに意味や仕組みを見出すのは不可能というか、ナゾを深めること自体が目的ではないか? タイヤすらないオブジェでもって、近い将来に発表される市販モデルのデザイン・ランゲージを主張すること自体、突拍子もないファーストステップともいえる。

 ジャン・ピエール・プルエのデザイナー・キャリアの究極はどこに向かっていくのか、新生ランチアの動向として見逃せなくなってきた。