こんなことは、もう二度と起きないかもしれない。
 ドイツを下しただけでなく、スペインも倒した。
 しかも、またしても逆転勝ちである。

 グループステージは「総力戦」で勝ち抜いた。第1戦では守田英正、第2戦では酒井宏樹と冨安健洋、第3戦では酒井と遠藤航が、ケガの影響でスタメンを外れた。そのなかで、森保一監督はスタメンを入れ替え、システムを使い分け、ドイツとスペインを破ったのである。

 W杯アジア最終予選の主戦術だった4−3−3でなく、9月の欧州遠征で手ごたえをつかんだ4−2−3−1でもなく、3−4−2−1で勝利を引き寄せている。3バックは9月の欧州遠征で試しているが、実戦でトライした時間はごくわずかだった。アメリカ、エクアドルとの2試合は選手選考の意味合いを含んでいたから、トレーニングであらかじめ練り込んだとは考えにくい。

 森保一監督はサンフレッチェ広島を指揮した当時、3−4−2−1を採用していた。短期間でも落とし込めるノウハウがあるのだろうが、それにしてもW杯である。ドイツとスペインと同じグループで、2位以内を目ざす戦いである。実戦でのトライが限定的なシステムで臨むのは、かなりのリスクがあったと言っていい。

 評価されるべきは選手の柔軟性だろう。ドイツ戦の後半から3バックへ変更したことについて、三笘薫は「監督はその可能性を示唆していましたけど、ぶっつけ本番のところは正直ありました」と話している。

 そのドイツ戦で3−4−2−1に変更し、後半の2ゴールで逆転勝利をつかんだのは、大きな価値を持つ成功体験となった。コスタリカとの第2戦では前半終了を待たずに3−4−2−1に立ち位置を変え、残念ながら勝利には結びつかなかったものの、それもまたスペイン戦につながった。

 3−4−2−1でスタートから戦ったスペイン戦は、前半10分過ぎに失点したものの、どうやって守るのかが前2試合より整理されていた。森保監督の働きかけはもちろんだが、一人ひとりの戦術理解力の高さと、それを表現する実行力も評価されるべきだろう。伊東はウイングバックとシャドー、鎌田はシャドーとボランチといったように、複数のタスクを担う選手もプレーに迷いがない。

 そして、後半から出場した堂安律と三笘薫が、決定的な仕事をした。彼らのようなジョーカー的な選手は、短期決戦を勝ち上がる原動力になる。

 森保監督が選んだ26人は、必ずしも好意的に受け止められなかった。しかし、当事者たちは大会前から一体感を作り上げ、ベンチを含めてチーム全員で戦うことができている。26人が当事者意識を胸に刻んでいるのだ。主役を譲る形になっている選手も、表情に陰りはない。

 ラウンド16へ進出した過去3回に比べて、このチームには一体感と勢いを感じる。日本時間5日深夜のクロアチア戦が楽しみだ。