人を見かけで判断してはいけない、とよく言います。けれど見かけをコントロールすることは、ビジネスパーソンにとって無視できないほどの効果を生み出すそう。人それぞれ異なる感覚に頼らず、戦略的に外見を役職にフィットさせる方法を「外見リスクマネジメント」の提唱者・石川慶子さんに伺います。
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■自分の姿、想像と現実はマッチしていますか?

例えばオンライン会議中の自分の顔を見て「想像と違う!」と思ったことはありませんか? 「こう見えたい」と思っているのに、相手からはそう見えない状態にあることを“外見リスク”と捉え、そのギャップを埋めることを「外見リスクマネジメント」と定義しています。心理学における「メラビアンの法則」によると、見た目と話す内容が一致していない場合、人は見た目を重視してしまいます。外見には情報量が想像以上に多く詰まっているのです。

■見え方へのこだわりは、もはやビジネスツールのひとつ!

ではビジネスシーンにおいて外見リスクマネジメントにはどのような役割とメリットがあるのでしょうか。

1970年代のアメリカで「ネクタイを着用した市場調査員は中流階級でもっとも応諾率が高かった」という実験結果が示されました。このことから「人は自分に似た服装の人に好感を持つ」といわれています。また「身なりを整えて清潔感のある魅力的な外見は人からの援助(ここではちょっとした人助けの意味)を多く受ける」という実験結果もあります。つまり外見リスクマネジメントには好感を得る役割があり、話に耳を傾けてもらいやすくなることがうかがえます。そしてそれはビジネスチャンスの拡大につながります。

さらに社会学者・ゴフマンは「言語と外見が不一致だと一貫した印象形成がなされにくい」という説を提唱しました。例えば、口では謝っているのに目が笑っていたら信用できませんよね。つまり見た目次第で人は誤解や非難などのリスクを負う可能性があるのです。逆に外見マネジメントで日頃から信頼を担保しておくと、何かあったときにリカバーしやすくなるのも人間の性。例えばいつも感じのいいタレントが泥酔して人に迷惑をかけたというニュースを見たら、一瞬不快に思っても、何か嫌なことでもあったのかな、などと寛大に考えたりしませんか?

またゴフマンの説は、外見を話す内容に一致させれば一貫した印象形成ができる、という可能性も示しています。すると相手に安心感を与えられるので「この人と一緒に仕事がしたい」と思わせることができ、ビジネスチャンスがここでもまた広がるのではないでしょうか。

さらに許す内容と外見が一致していると、伝えたいことがスムーズに伝わるのでコミュニケーションの速度が確実にアップ。仕事の効率化まで狙えます。

■人それぞれに備わっている魅力の最大化が最短ルート

外見への意識は、その人の価値を守り、チャンスを創造し、組織の業績や評判のアップにも貢献します。つまり外見リスクマネジメントは自身や組織の広報の役目を担っているのです。私は広報活動の目的を「理解、信頼、好感を得ること」と考えます。これに当てはめると女性リーダーが獲得すべき外見印象は「自信感」「信頼感」「清潔感」です。それらを獲得する方法は千差万別。各人の魅力が生きる方法が効率的でしっくりもくるでしょう。例えば指が長ければ、それを生かしたしなやかなしぐさで優雅な自信感を演出します。表情が豊かであれば、前髪を上げて顔全体を見せ、自信感や清潔感を狙います。

■気になるところからでOK。要素に分解して印象を操作

人それぞれ異なる感性に頼るのではなく、理論的に外見リスクマネジメントを行うには、外見をその構成要素へと分解します。そしてひとつずつ、必要な外見印象に寄与するよう見直すことが有効です。その要素とは「表情」「ヘアメイク」「服装」「姿勢」「動き」の5つ。それらすべてが作用して私たちの印象を決めています。どれも生まれつきのものではなく、自身でつくり上げていくことのできるものばかりです。

なかでも「表情」はオンライン会議の普及で、その重要性がより高まっています。目線や眉、口元の動きなどは自信感を左右します。「ヘアメイク」はコンプレックス解消のためというよりも、自身の魅力を引き立てるものとして捉えましょう。髪や濃いメイクで気になるシワや顔立ちなどを隠そうとしてしまうと、ビジネスシーンでは「暗い」「疲れている」などマイナスな印象を与えてしまいかねません。

「服装」「姿勢」「動き」は遠くから見られるときにも印象を演出できます。特に「姿勢」や「動き」に関しては慣れが必要。次で紹介するマネジメント方法で日頃から訓練してみてください。

■他人から見えている姿を再現し、魅力と課題の発見を

外見リスクマネジメントを行ううえで効率的なのは、自身の魅力は伸ばし、課題は修正する、というアプローチ。そこで有用なのが写真や動画を用いて自分を客観視する方法です。他人から見えている姿を再現し、外見を構成する5つの要素ごとに魅力と課題を洗い出します。家族や友人に見せて指摘してもらうのもオススメです。

特に課題については、「どう見られたいのか」という理想の姿を想像すると発見しやすいでしょう。その際、たとえ改善策がすぐに思いつかなくても心配する必要はありません。例えば「動き」に意識を向けるようになると、周囲やメディアの中から所作の美しい人に目が止まるようになるでしょう。それを参考に自身の動きに落とし込めばいいのです。恥ずかしいと思わずにぜひ楽しんでやってみてください。動画の中のあなたの姿がぐっと輝きだすはずです。

外見リスクマネジメントが成功すると、ビジネスにとってよいことがあるだけでなく、他者からの反応がよくなることで自己肯定感にもつながります。それは女性リーダーの生きやすさにもつながるのではないでしょうか。

■マネジメント方法❶

“写真”を撮って確認する

例えばプレゼンテーションで着用予定の服を着て、3方向から写真を撮影。外見を構成する5要素のうち、静止画では特に「ヘアメイク」「服装」「姿勢」をチェック。「例えば脚の形がキレイ、という魅力が発見できたら、もっとも美しく見える丈のスカートを探すのもいいでしょう。想像よりも猫背であったり、普通にしていると無愛想に見えたりするかもしれません。そのような場合は姿勢を意識したり眉の上下運動で表情をつくったり、といった工夫をします」(石川さん)

■マネジメント方法❷

“動画”を撮って確認する

さまざまな動きを取り入れた短い動画を作り、「表情」「姿勢」「動き」を重点的にチェック。過去のプレゼンの記録動画があれば、それを見直してみるのもよい。「立つときの動作がスマートか、歩き方は美しいか、お辞儀は短くないか、話すスピードはほどよいか、目線は落ち着いているかなどを確認します。魅力的だと感じられる部分が発見できれば自信を持って振る舞えるようになります。課題を感じたポイントについては日頃から改善できるように心がけを。慣れるまでは月2回のペースで動画を撮ることで、意識づけをしましょう」(石川さん)

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石川 慶子(いしかわ・けいこ)
広報コンサルタント
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。リスクマネジメントの国際規格のフレームワークに沿って独自の知見を体系化し、「外見リスクマネジメント」として提唱。政治家や企業の社長などの記者会見において外見コンサルティングを担当している。
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(広報コンサルタント 石川 慶子 構成=浪花真理子 イラスト=織田美涼)