「試合を見ながら神経が逆立って、とてもじっとしていられなかった。なぜ、長年かけて積み上げてきた選手編成をがらりと変えて、重要な一戦に挑んだのか? にわかには信じ難い光景で、まったくわからなかった」

 スペインの目利き、ミケル・エチャリはそう言って、日本がコスタリカに0−1と黒星を喫した試合を呆然と振り返っている。

 エチャリはレアル・ソシエダ、エイバル、アラベスでさまざまな職を歴任。現在のレアル・ソシエダのイマノル・アルグアシル監督は"教え子"である。バスク代表監督(FIFA非公認)という最高の栄誉も与えられている。

「私の知っている日本代表とは、まったく別の顔をしていた。なぜ、こんなことになってしまったのか。この気持ちをどう表現すべきなのだろう」

 4年間、森保ジャパンをスカウティングしてきたエチャリは憤慨し、散々な光景に目を覆った。


ドイツ戦からガラリと変えたコスタリカ戦の先発メンバーは適切だったのか

「私がまず驚いたのは、先発メンバーである。ケガ人などの状況は知らない。しかし、ベストメンバーを組むべきだっただろう。たとえば相馬勇紀という選手は、単純に南野拓実、久保建英、三笘薫の代わりになる選手に思えなかった。ターンオーバーだとしても、この3人はドイツ戦で、誰も90分近くプレーしていないはずだ。

 案の定、日本の立ち上がりはひどかった。意思疎通も薄いのだろう。パスをつなげても横や後ろばかりで、深みを作れない。テンポがスローで簡単に読まれ、プレスの餌食になった。開始早々、酒井宏樹の代わりに出た山根視来を筆頭に、自陣内でのファウルを繰り返した。相手の勢いにも負けていた。危険なファウルを与えてしまうのは、能力の問題もあるし、経験不足で浮き足立っているのだ。

 チームの悪い流れに引きずられたのか、この日の鎌田大地は目を疑うほど精彩を欠いた。ろくにボールも止められない。簡単なパスまでずれた。前半途中までのカウントで、15回のプレーで5回ミス。これではチームの攻撃が成立するはずはない。自らのポジションや周りの選手との噛み合わせに、居心地の悪さを感じていたのだろう。

代わってよかったのは守田英正だけ

 鎌田はコスタリカ戦では中盤でプレーすべきだった。トップに抜擢された上田綺世との間に連係が生まれず、トップ下では完全に孤立。自分自身でリズムを悪くしていた。守田英正と近い距離を作ったほうが、もっとボールを受けられるはずだったが、逆に守田は遠藤航と近すぎた」

 エチャリは無念そうに指摘した。彼自身、2009年から日本代表をスカウティングし、日本代表に「我々」という主語を使うほどなのだ。

「日本は前半終盤から3バックにしていたが、後半は選手交代ではっきりと3−4−2−1になった。システム変更を否定するつもりはないが、山根、相馬、伊藤洋輝などは苦戦していた。伊藤はこのレベルでプレーする選手としてのエネルギーを感じなかった。酒井、三笘、冨安健洋はどうしたのだ?(エチャリには選手のコンディションに関する情報などは入れていない)

 ターンオーバーと言うなら、遠藤や鎌田のほうが、コンディションは悪かったと言えるかもしれない。

 ドイツ戦の先発から代わってよかったのは、守田だけだった。ミスもあったが、プレーに強度も与えていた。基本的な技術が高く、個人的に好感を持てるMFだ。

 後半途中、三笘、伊東純也が入って、ようやくプレーが動き出す。鎌田も伊東、三笘のクロスに入るなど、得点の匂いが漂った。攻守のバランスが整ったように見えた。

 80分だった。日本は守備のインテンシティが弱く、満足にクリアもできない。そこを狙われてゴール正面でボールを奪われると、フリーで受けた選手にシュートを打たれてしまった。当たり損ねだっただけに、GK権田修一は防げるはずだったが、ジャンプのタイミングが悪く、弾き出せない。これが決勝点になってしまった。

 日本は終盤、三笘が2度にわたって好機を作っている。なぜ、これを始めからしなかったのか。結果論ではなく、それだけ前半の出来はひどかった。後半に入って、ペースを取り戻し、勝利できたかもしれないが、それでも腑に落ちない先発とシステム変更だったと言えるだろう。

 南野は今のチームの立ち上げからの選手である。多く得点も記録してきたし、それだけの実力の持ち主と言える。はたして、彼を外してまで使う選手はいたのか?」

 エチャリは温厚な性格で、常にポジティブな面を探す人物である。監督の仕事を最大限にリスペクトしている。しかしそうであっても、謎の陣容と采配だったのだろう。最後に、こうメッセージを送った。

「スペイン戦で日本はすべてを出し尽くすしかない。力はあるはずなのだ。最高のゲームになることを心から祈っている」