スキャナ市場に回復の兆しが見えてきた。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、テレワークが一気に普及。自宅で紙のデータをデジタル化するニーズも高まり、2020年初頭からスキャナの売り上げが拡大した。ところが需要が一巡すると反動減に見舞われ、足元では前年比マイナスが続いていた。しかしこの10月、販売台数前年比が106.2%とプラスに転じた。平均単価の下落に伴って、販売金額前年比は94.4%と依然前年を下回っているものの、台数が前年同月を上回ったのは21年2月以来19カ月ぶりだ。全国2300店舗の家電量販店やネットショップの実売データを集計するBCNランキングで明らかになった。

 スキャナ市場の落ち込みはこの1年大きく、昨年10月では前年比で台数75.2%、金額80.9%といずれも大きく2桁割れ。以降ほぼすべての月で台数、金額とも2桁割れが続いていた。前年比が最も落ち込んだのは、台数ではこの4月の62.2%、金額では6月の60.0%といずれも4割減の水準だった。市場構造も変化している。昨年10月時点でほぼ7割をシートフィード型の製品が占め、12月には84.8%まで構成比が上昇していた。しかしこの10月、構成比は53.4%と実に31.4ポイントも縮小した。

 シートフィード型は、一度セットするだけで複数の書類を次々とスキャンできるため便利だが単価が高い。この10月現在で平均単価は3万4000円(税抜き、以下同)だった。代わって売り上げを伸ばしているのがフラットベッド型のスキャナ。昨年10月時点では販売台数構成比が25.8%だったが、この10月には41.1%まで拡大している。シートフィード型に反してフラットベッド型は単価が安い。この10月時点で1万3500円と半額以下だ。書類をスキャンするには1枚1枚セットしなければならない。面倒で時間がかかるが、少量のスキャンであれば、これで十分。ちょっとしたスキャンに向いた製品だ。

 市場構造の変化は、メーカーシェアにも影響している。スキャナ市場のトップシェアメーカーはPFU。2010年から2021年まで販売台数の年間トップシェアを堅持しており、年間トップシェアメーカーを表彰するBCN AWARDを12年連続で受賞し続けている。同社の得意分野は独自のエンジニアリング力を駆使したシートフィード型のスキャナ。厚さが違う紙やカードを一気に読ませても紙詰まりしにくいと評判だ。ところが、シートフィード型の需要が下降線をたどると、同社のシェアも縮小に転じている。トップシェアであることには変わりないものの、昨年10月の54.7%からこの10月は36.3%まで下落した。一方、シェア30.2%で首位に接近しているのがエプソンだ。同社の得意分野はフラットベッド型。シェア23.7%でエプソンと2位を争うキヤノンも同様だ。こうした各社による戦略の違いがメーカーシェアに表れている。

 コロナ禍を経て、遅まきながら日本でも、いわゆるデジタル化、電子化のスピードは各段に速まっている。紙のドキュメントをデジタル化するニーズはデジタル化、電子化が一定程度に進むまでの端境期では継続するだろう。しかし、今後、紙のドキュメントが大幅な増加に転じることは考えにくい。終息に向かう運命を背負った製品とも言えるスキャナ。メーカーにとって難しい舵取りが要求される製品ともいえるだろう。(BCN・道越一郎)