株価が下がって損が出ているのに持ち続ける。どうすればうまく損切りの判断ができるようになるのか。経済コラムニストの大江英樹さんは「損をして売った後に株価が上がって大後悔するという事態を避けたいがために、人はどうしてもずるずると株を持ち続けてしまうのです。まずはそうした心理的な傾向があることを知ることが大切です」という――。
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■長年、投資をしているのに儲からない人

投資でよく起こりがちなことに買った株が下がってもなかなか損切りすることができず、そのままズルズルと持ち続けることで損失が拡大してしまうということがあります。これは投資家の間では俗に“塩漬け”という状態で、結局長期にわたって損失を抱えたまま持ち続けることになります。

この“塩漬け”というのは基本、何も良いことがありません。なぜなら、投資した資金を先の見えないまま長期に寝かし続けることになるため、資金効率も良くありませんし、他の有望な銘柄に対する投資機会も奪ってしまうことになりかねません。損切りができずに大損したという人はあまりいませんが、長年にわたって投資をしてもちっとも儲からないという人の多くは損切りができないことに起因していると言ってもいいでしょう。

ただし、私はどんな場合でも下がったら損切りすべきだとは思いません。むしろ下がった時に深く考えずに気分が悪いからといって投げ売りをしてしまうのは最悪の行動で、大損した人はむしろこちらのパターンの人の方が多いと思います。最近でもコロナ禍、あるいは少し前ならリーマンショックの時に恐くなって売ってしまった人が結果的には大損をしているのです。

■早く売ってしまったほうがいいケース

では、損を覚悟でも早く売ってしまった方が良いというのは一体どういうケースなのでしょう。それは投資している企業自体の内容が悪化し、業績も財務内容も大幅に悪くなる場合です。こういう時は低迷が長く続くと考えられるため、早く見切りを付けた方がいいのです。

そして実は株式というものは、買う時よりも売る時の方が圧倒的に難しいのです。なぜなら買う前はその株を持っているわけではありません。仮に買おうと思っているうちに上がってしまっても多少の後悔はするでしょうが、実損はありません。ところが売る時というのは既にその株を持っている状態です。売った後に上がってしまったらどうしよう? とか、逆に売らずにいて下がってしまったらどうしよう? という不安は買う前と比べて比較にならないくらい大きいのです。したがって、株式投資において、本来ならば売るべき時に売れなくなり、前述した“塩漬け”の状態に陥ってしまうことはしばしば起こります。

■行きつけの美容院をなかなか変えられない

実はこうした人間の心理を表しているのが「現状維持バイアス」という概念です。「現状維持バイアス」とは、変えた方が良いとわかっていてもなかなか現状を変えることができない心理のことです。何かを変えるということは今までのものを捨てて新しいものを得る行為です。つまり変えることによって新しく得るものと、それまでにあったものを失うことを比べてどちらが良いかを判断しなければなりません。

新しいものがそれまでに比べて良いということが確実であればいいですが、実際にやってみないことには何とも言えない場合も多くあります。もし変えた結果が悪ければ大いに後悔することになってしまいます。そしてこの心理は日常生活や普段の仕事の中において意思決定が必要となるあらゆる場面で出てきます。

例えば何らかの理由で行きつけの美容院を変更するということはあると思います。でも行きつけの美容院を変えるというのはなかなか難しいという人が多いと思います。なぜなら、変えたお店が今までよりも確実に上手で、しかも自分のセンスに合っていればいいものの、それは変えてみないとわからない部分が大きいからです。したがって変えることを躊躇するということになりがちです。

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■効率的なシステムを導入しない上司の心理

これは仕事の場面でも起こります。あなたが業務の効率化のために新しいシステムを導入したいと考えたとします。そしてそれを上司に提案してもなかなかOKがもらえないということはよくあります。この場合、上司は自分の保身のために現状維持バイアスにかかっている可能性があります。「変えてもいいけど、コストをかけてもし変えても効率化が進まないという事態になれば自分の責任だ」「変えなければ、良くなることはないけど、少なくともこれよりも悪くなることはない」「だったら変えない方が無難だ」という心理が働くからです。

こういう上司を「ばかげている」と思うのは簡単ですが、美容院を変える時も同じような心理が働いているのかもしれません。「変えても良いけど、もし変えて前より変になったら最悪!」「今のままだったら不満はあるけど、それほど変になることはないわよね」「だったら、まだしばらく様子を見ようかしら」というのと同じことですね。特に美容院を変えるというのは自分の容姿に関わることですから、心理的に与える影響は何より大きいと言わざるを得ません。いくら友達の勧めでも、いくら雑誌で評判のカリスマ美容師がいるところでも自分で試してみないことには確実とは言い切れません。だとすれば慎重になるのもやむを得ないことでしょう。

■損切りができるようになるには

何か問題があることが予想されても、それをそのまま変えずに放っておいて悪くなった場合、それは環境や人のせいにすることができます。ところが明確な意思を持って変え、それによって悪くなった場合は変えた自分の責任になる。だからなかなか変えられないのです。

ビジネスのように結果が出るまでに時間のかかるものであれば、どこに責任があるのかが曖昧になることもあります。ところが投資や資産運用の場合、結果はあっという間に出てきます。何しろ株は上がるか下がるかのどちらかしかないわけですから、買ったり売ったりしたその直後から結果はすぐ出ます。だから見通しを誤って失敗した場合でも素直に自分の間違いを認めることができずなかなか損切りできないのです。しかも売った後に上がってしまうという恐れもあるとなればなおさらです。だからどうしても“売る”という行為に躊躇せざるを得ないのです。

これを防ぐにはまず投資する先の企業分析をきちんとおこなうことです。有価証券報告書、少なくとも決算短信ぐらいはきちんと読み込んで、自分なりの判断をした上でそれでも保有し続けるのが良いか、損切りしてしまった方が良いかを論理的に冷静に考えるべきなのです。

ただし、これは長期投資の場合の話です。短期売買で投機的に利益を得ようということであれば、一定のルールを作って機械的にそれを実行することでしょう。例えばよく言われている「10%ルール」のように買値から10%上がっても下がっても機械的に売却するといったやり方です。ただし、こういうやり方はあくまでも便宜的なものに過ぎず、それを繰り返していると最終的にはあまり利益を得ることはできないでしょうから、私は決してお勧めはしません。やはりある程度きちんと企業財務の基本を勉強してから株式投資は始めるべきだと思います。

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■人間の「損をしたくない気持ち」は強い

人間は本質的に損失回避性が強いと言われています。わかりやすい言葉で言えば「儲からなくてもいいから損をしたくない」という気持ちを強く持っているということです。したがって利益を得るためにチャレンジすることよりも挑戦した結果、損をすることの方を強く恐れるものです。いつもは会社の中で「上は事なかれ主義でチャレンジしない」とか批判はしているものの、いざ自分が美容院を変えるという決断に直面するとなかなか変えようという決断ができないのと同じことなのです。もちろんこれには個人差がありますから、一概には言えないものの、人間が持っている「現状維持バイアス」というのはかなり強い力を持っていると考えた方がいいでしょう。

ただ、リスクを取らない限りリターンは得られないというのも永遠の真実です。自分なりの考えを持ってきちんと判断した上でリスクを取るということは大切なことです。投資する上ではこれを決しておろそかにしてはなりません。

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大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)