リーマンショックを境に「負のスパイラル」に陥った日産

 国内の販売台数を振り返ると、1962(昭和37)年までは日産が販売1位のメーカーでした。その後トヨタに1位を譲りますが、長らく2位の座は守りました。
 
 しかし今では、国内5位に転落してしまっている状況です。日産で何が起きているのでしょうか。そして打開策はあるのでしょうか。

2022年中の正式発表が期待される日産の新型「セレナ」[写真は先行公開のもの]

 1990年代の後半、日産は業績が悪化しましたが、2000年代に入ると「ティーダ」、2代目「キューブ」、3代目「マーチ」などが堅調に売られシェアを維持し、2位のポジションをキープします。

【画像】復活は新型「セレナ」から始まる!? 日産のニューモデルを写真で見る(43枚)

 ところが2008年以降、状況が変わりました。リーマンショックによる経済状況の悪化で、新型車の投入が滞ったからです。

 この時代には、どのメーカーも苦戦して商品開発が影響を受けましたが、日産は極端でした。

 国内で発売される新型車が1年に1車種程度に減り、2015年と2018年は、新規投入やフルモデルチェンジがおこなわれていません。

 新型車の発売が滞ると、販売実績に甚大な悪影響が生じます。設計の古い車種が増えて、話題性も乏しくなるからです。

 クルマを買おうとする時に「日産」の社名が思い浮かばないと、購入の候補に入れてもらえません。

 逆に新型車が登場すると、波及効果も狙えます。例えばコンパクトカーの「マーチ」がフルモデルチェンジをおこなうと、これを目当てに来店した顧客が、別ラインナップの「ノート」の良さに気付いて購入の対象を変えることもあります。

 従って新型車は、定期的に投入することが好ましいのです。ひとつのメーカーがマイナーチェンジを含めた改良を短期間に集中しておこなうことがありますが、これはもったいないことです。

 そして日産は、新型車の発売を滞らせた結果、国内の販売台数を大きく減らしました。

 日産の国内販売台数(軽自動車を含む)は、2007年は72万台でしたが、2010年は65万台に下がり、2015年は60万台、2020年は47万台、直近の2021年は45万台でした。

 2021年における日産の国内販売台数は、2007年の63%にすぎません。

 近年の国内販売は、日産に限らず減少していますが、国内販売総数で見ると、2021年は445万台で、2007年は535万台だったため83%です。日産の63%という落ち込み方は、国内の全体推移と比べても大きなものになりました。

 その結果、国内販売ランキングの順位も大きく下がりました。

 かつてはトヨタに次いで2位でしたが、2021年は、トヨタ、スズキ、ホンダ、ダイハツに次ぐ5位です。近年の日産の国内販売は5位が続いています。

「そのタマ数で戦っているのはすごい」とトヨタの営業マンからも同情の声

 国内5位に転落した日産の現状について都内近郊の販売店に尋ねると、営業スタッフは以下のように話します。

「以前は本当に売るクルマがない状態でした。

 トヨタの販売店で働く友人から『あの品ぞろえで頑張っているのは立派。今の日産の販売力は、マジでトヨタ以上かも知れない』といわれたほどです。

 ただし(高級ミニバン)『エルグランド』は設計が古くなり(現行型の発売は2010年)、前期型のお客さまに後期型に乗っていただきましたが、さすがに同じクルマを3台買ってくださいとはいえません。

 また(高級セダン)『シーマ』や『フーガ』も古くなって生産を終えました。(2020年春に販売を終えたコンパクトハイトワゴン)『キューブ』は安定して堅調に売られていたので、後継車種がないのはつらいです」

2022年に市場投入され好評を博している日産の人気SUV 新型「エクストレイル」

――では新型車の投入が続く最近の状況はどうでしょうか。

「新型のノートと上級仕様『ノートオーラ』が登場して、状況が変わりました。

 全体的な車種数は減りましたが、ノートとノートオーラはバリエーションも多彩で好調です。

 軽自動車も(売れ筋のスーパーハイトワゴン)『ルークス』と(ハイトワゴン)『デイズ』、そこに電気自動車の『サクラ』も加わって人気を高めました。

 そして小型/普通車では、(SUV)『エクストレイル』に続いて、(ミニバン)『セレナ』もまもなくフルモデルチェンジを受けます」。

――まもなく登場が予定されている新型セレナの動向はどうでしょう。

「新型セレナの先行予約受注は、11月に入ると開始されました。

 大量の受注に備えているので今のところ納期は短く、11月中旬に契約されたお客様の場合で、納車は早くて12月下旬から2023年1月頃の模様です。

 ただし正式に発表されると受注も急速に増えるため、納期が半年以上に延びることも考えられます。新型セレナを買うなら、早めに商談を開始すると良いでしょう」

――そうなると今の日産に不満はないのでしょうか。

「セレナとノートの人気は長く続くでしょう。ノートとノートオーラの納期も約3か月で、比較的購入しやすい車種です。

 課題は、日産が得意とするEV(電気自動車)です。

 好評なサクラが受注を停止しました。2023年に入ると生産再開の日程が分かると思います。また(クロスオーバーSUV)『アリア』も納車が滞り、お客様に迷惑をお掛けしています」

新型車投入が続き好転の兆しも 飛躍のカギは「セレナ」と「EV」

 日産ではセダンやコンパクトカーを中心に車種が減り、売れ筋車種も限られています。それでも軽自動車のデイズが2019年、ルークスは2020年に新しくなり、現行ノートは2020年、ノートオーラも2021年に投入されて好調です。

 2022年中にフルモデルチェンジが見込まれる新型セレナも、豊富な乗り替え需要に支えられ、受注台数を伸ばすでしょう。

 今の日産は、新型エクストレイルを含めても少数精鋭ですが、国内販売が好転する兆しも見えてきました。

国内日産販売の飛躍のカギを握る軽EV「サクラ」

 今後の日産の課題は電気自動車です。半導体を始めとする各種の供給が滞り、厳しい状態にあります。

 それでもサクラが実現した軽自動車のサイズと電気自動車は親和性が高いものです。

 軽自動車にはセカンドカーのニーズが多く、長距離移動にはファーストカーを使うため、「1回の充電で走行できる距離が短い」という批判を受けにくいです。そうなると電気自動車には、軽自動車のサイズが最適です。

 また電気自動車のコンセンプトはエコロジーですから、その世界観に基づけば、長距離移動にはエネルギー効率の優れた公共交通機関を使います。

 電気自動車は地域内の移動手段に相応しく、その意味でも軽自動車サイズは適性が優れています。

 少なくとも日本では、サクラは電気自動車の本質を突いた商品ですから、納車が順調におこなわれれば売れ行きを伸ばせる可能性があります。

 その一方で、補助金は時間が経過すると減額されるため、車両価格を抑える必要も生じます。

 今後は納期を含めて電気自動車に力を入れ、商品の充実を図ることが大切でしょう。

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 最近ではトヨタ「シエンタ」などのコンパクトミニバンや、「ルーミー」といったコンパクトハイトワゴンの人気が高まっています。

 しかし今の日産の事情を考えると、補完できる新規の車種数を一気に増やすことなど無理な相談でしょう。

 そこで、開発や生産のコストを抑えられる既存車種の有効活用が重要になります。

 例えばセレナの内装に撥水処理などを施し、外装をSUV風に仕立てたクロスオーバーモデルを追加したり、エクストレイルにスポーティなハイウェイスターやNISMOを設定するなど、工夫の手段はあるはずです。