桁が足りず流札 1億円超は想定外?

11月17日木曜日、日本国内の自動車オークションにスカイラインR33 GT-Rをベースにした改造車「ニスモ400R」が出品された。

【画像】1億超は当たり前?【アメリカ上陸第1号車「ニスモ400R】 全10枚

ニスモ400Rは日産自動車のチューニング部門である「ニスモ」が手掛けた非常にレアな限定コンプリートカーである。


日本国内のオークションに出品されたニスモ400Rは自動流札になったが、その後商談成立となっていた。競り合っていたビッダー(入札者)に(出品者が)直接交渉したと推察される。なお、画像は出品車両とは異なる。

ベース車の日産スカイラインGT-R Vスペックが当時529.0万円で発売されていたのに対して400Rは何と1200万円。新車時の価格からしてすでにベース車両の2倍以上という設定だった。

スタート価格は5200万円とこれまたかなりの高額ではあるが、オークションを開始時点から見ていた知人の中古車業者によると、「9300万円位までずっと見ていましたが、その後、席を離れて戻ってきたら9999.5万円の表示があり、『自動流札』で終わっていました。オークション事業者もまさか1億円を超えるとは想定していなかったのでしょう」

「とてもめずらしいことですが『桁(ケタ)』が足らなくてそこで止まって自動的に流札となったと考えられます。ですが、その後見たら『商談落札』になっていたので、多分競り合っていたビッダー(入札者)に(出品者が)直接交渉したんでしょう」

ということで、いくらで落札されたのかは明らかにされていない(もちろん1億円超は確実)が商談は無事成立したようである。

それにしても、オークション価格の表示においてケタが足らないなどということがあるのだろうか?

前述の知人業者が続ける。

「過去にトヨタ2000GTを競った時は最初から1桁繰り上げて(1億円超えになっても対応できるように)競っていましたね。だから、億の単位でも競り合うことができたんですが、今回は予想外だったんでしょうね」

出品された400Rはどんな状態だった?

このたび億超えで落札に至った400Rはどのような状態だったのだろうか?

評価点は「4.5」と非常に高い。簡単に概要を記しておきたい。


新車価格が1200万円であることを考えると、5200万円スタートは「強気」設定ともいえるが、希少モデルにはスタート価格を大きく上回る入札があった。

初度登録:1996(平成8)年7月
型式:E-BCNR33改
グレード:ニスモ400R 4WD
走行距離:1万5676km
ボディカラー:白
評価点:4.5(内装B)

ユーザーからの直接買い取りであると明記されている。初度登録から24年以上が経過しているが、走行距離1万5676kmとは奇跡的な少なさだ。

内装に少し擦り傷などはあるものの、長年、屋内保管で大切に扱われてきたのだろう。外装は非常にきれいだ。

ところでなぜ、このクルマが1億円を超える価格で落札されることになったのか?

2021年7月に走行10kmの未登録R34スカイラインGT‐Rがヤフーオークションに出品され、こちらも今回と同様5000万円台からのスタートだった。

結果は6050万円でオークションは終了。アメリカの「25年ルール」(製造から25年経てばアメリカの保安基準であるFMVSSの規制を受けずに並行輸入車が輸入できるようになる制度)解禁を前に異常なまでの高騰を続けるR34の未登録車とあって、「もしかして億超え?」などの予想もあったのだが……。また、競り合う人の数も当初の予想よりは少なかった。

それに対して今回のニスモ400Rは、ベースがR33スカイラインである。

日本ではR32に比べると人気はいまひとつ。というのも、R32に比べてボディがやや大きくなりホイールベースも長くなったことで、扱いにくい、機敏さに欠けるなどの評価を得ているからだ。

ニスモ400Rも発表当初は「99台限定」としていたが、実際に生産・販売された台数は50台以下(44台説もあり)という情報もある。

1200万円という新車価格もニスモチューンとはいえ1996年当時の国産スポーツカーとしてはなかなか手が出せない高価格であったのかもしれない。

RB26ベースに排気量を2.8Lにアップ

ニスモ400Rとはどんなクルマなのか? 当時の資料をもとに、そのスペックを紹介しておこう。

ニスモ400Rは1996年1月の東京オートサロンの会場で正式発表された。


ニスモ400Rは、アメリカでは「スーパーカー」として扱われるほど非常に評価も価格も高い。

その1年前、1995年1月にやはり同じ東京オートサロンでデビューしたR33スカイラインGT-Rをベースにしたコンプリートカーとして1200万円という衝撃的な価格とともに発表された。

ニスモ400Rは、ベースとなるGT-Rモデルに対して、考えられるすべての部分で抜本的な改良が施されているといっても過言ではない。

「R」はレーシングを表し、「400」はエンジンの出力を馬力で表している。アメリカでは「スーパーカー」として扱われるほど非常に評価も価格も高い。

専用エンジン「RB-X GT2」

最大の特徴がこの専用エンジンで、ニスモの技術力すべてを注ぎ込んで開発された。標準となるRB26(2.6L)エンジンの排気量を2.8Lまで拡大したRB-X GT2はグループAレースで無敵を誇った日産技術の粋を集められておりニスモ400Rのためだけに設計・改造されている。

RB26DETTが最大出力280ps/6800rpm、最大トルク36.0kg-m/4500rpmであるのに対して、RB-X GT2は400ps/6800rpm、47.8kgm/4400rpmにパワーアップ。大容量インタークーラーや空冷式のオイルクーラーもニスモ400Rの専用装備となる。

このエンジンは日本を代表するチューナー「REIMAX」によって製造、および設計されており、約200ccの排気量アップに対応するため、ほとんどのエンジンコンポーネントがアップグレードされている。

頑丈なクランクシャフト、鍛造87mmピストン、より強力なロッドや研磨されたポートや高効率のオイルシステム、大型のエグゾーストマニホールドなど。レッドゾーンも標準モデルの8000rpmから9000rpmにアップしている。

専用外装

当時のGT500マシンを彷彿とするワイドオーバーフェンダー(+25mm)、ボンネットや可変式リアスポイラーはカーボンファイバー製で、センターフロントバンパー、ブロードサイドスカート、改良されたリアバンパーなどの400R専用エアロを装着している。

ホイールは18インチのニスモLM-GT1に高性能275/35/28ブリヂストンRE710タイヤを履く。後部の両サイドにはストライプに「400R」とデザインされている。

専用内装

インテリアはシンプルだが「NISMO」ロゴ入りのリクライニングバケットシートが目を引く。ホーンボタンには「400R」と刻印されており、スピードメーターは最高320km/h! と刻まれている。

ステアリング、チタン製シフトノブ、3連メーターなどもすべてニスモ400R専用として開発された。

昨年9月には第1号車がアメリカ上陸

ニスモ400R最初の製造は1996年である。

昨年が25年ルール初解禁となり、2021年9月に最初の1台がアメリカに渡った。


ニスモ400Rは昨年25年ルールが解禁となり、アメリカに渡った個体もある。

お披露目されたのは同年10月末にロサンゼルスにある「エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイム」の広大な駐車場で開催された第16回JCCS(日本旧車集会)であった。

出展会社は「スカイラインの神」と称されるショーン・モリス氏が在籍する「トップランクUSA」である。

さらにその数日後にはSEMAショー2021の会場でも同じニスモ400Rを見ることができた。

しかも展示場所は、SEMAセントラルという場所にあるお立ち台のようなスペースで、数千台の出展車両のトップとして華やかにお披露目されたのである。

ちなみに今年はこの場所にアメリカを代表するトップビルダーTJハント氏が手掛けた、VeilSide(ヴェイルサイド)のRX-7 Fortuneが展示されていた。2年続けて非常に価値のあるJDMが展示されることになった。

アメリカ第1号車のニスモ400RはトップランクUSAによって一般オーナーに販売されたが詳細は明らかにされていない。同社によると「1億円は超えています」とのことである。

「25年ルールで輸入解禁となった直後の昨年9月に日本から輸入し、ホームページに入荷したことを伝えた際には電話やEメールでの問い合わせがすごい数で来ていました。しかし多くの人々にとっては夢のまた夢のような金額に感じたと思います」

「また、最近ではアメリカで200万ドル超え(日本円で3億円弱)の価格を見ることもありますが、これはさすがに現実的ではないように感じますね」(トップランクUSA小菅ヤスカ氏)

ニスモ400RもR33スカイラインGT-Rも日本より海外の方がその価値が高く評価されている印象がある。

今回の1億円超での落札は今後の国内オークションにおける取引価格にも大きく影響するだろう。

「ニスモ400Rが中古車市場で値付けされて販売されることはまずありません。あったとしても『応談』でしょうね」

「非常に台数の少ない限定車ですから市場に出る前にオーナー同士の個人売買や専門店とオーナーの間で売買契約が完了しているケースが多いからです」(国内GT-R専門店)

今回のように公開オークションに出品されること自体が激レアなことだったようだ。

全部で50数台という希少な限定車ということもあるが、世界が電動化に向かう中、「高性能エンジンを搭載した日本製スポーツカー」の価値も国内外ですさまじく上がっている。

R34スカイラインGT-Rを含め、オークションなどでの価格動向にはこれからも注目していきたい。