国の観光振興事業「全国旅行支援」が10月11日にスタートして、はや1か月。「第8波到来の前に」という駆け込み需要も伴い、各地の観光地は昨年同時期に比べるとにぎわいを取り戻しつつある。

【写真】飲み会・ドライブの“ワリカン”に関するアンケート結果はコチラ

飲み会ドライブのワリカン負けに嘆く人々

 斉藤鉄夫国土交通相は11月11日の閣議後記者会見で、「販売予約実績がコロナ禍前の同時期を超えた旅行会社もある」として、高い需要喚起の効果が表れているとの認識を示した。

 また、忘年会シーズンが近づくなか、飲食店もやおら活気づいている。キャリアに関する調査機関『Job総研』のリサーチでは、コロナ禍以降は多くの職場が忘年会を自粛している一方、今年は「実施する」の回答が31.4%となった。2020年の10.4%と比べても、徐々に回復傾向にあるといえるだろう。

 一方、旅行や飲み会の機会が戻ってきているなかで、忘れられかけていた“とある問題”も再浮上しつつある。

「これまで自粛してきた友人たちとの飲み会が、久々に開催されました。私はお酒を飲めないのでノンアルコールで参加しましたが、お会計はもちろん完全ワリカン。お酒をガブガブ飲んだ人と同額なのは少しモヤッとしましたが、そういえば飲み会にはこういう不満が前からあったことを思い出しました(笑)」(東京都・35歳・会社員)

 飲食店や旅行先など、多人数での会計の場には多少の不公平感がつきものだ。最近は割に合わないワリカンに対して“ワリカン負け”という言葉も生まれており、こういったワリカンでのモヤモヤを経験したことのある人も多いだろう。

 そこで今回は、20代〜50代の女性600人にワリカンにまつわるアンケートを実施。『ワリカンでイラッとしたことがあるか』という設問に対しては52.1%が「ある」と回答し、具体的なエピソードが続々と寄せられた。

飲食のワリカンこそ最大の懸念点!?

 アンケートで特に多く挙げられたのが、先述したようなノンアル派による“ワリカン負け”エピソード。

「飲み放題プランのついていない飲み会なのに、飲めない人も同じ額を請求された。ソフトドリンクと料理で8500円はさすがにありえない」(東京都・44歳・会社員)など、配慮のないワリカンに不満を抱えている人は多いようだ。

 同様に、「よく食べて飲む若い男性たちと、少食でお酒を飲まない自分が同じ額を払うのは、やっぱり納得がいかない」(神奈川県・51歳・パート)、「子連れの友人2人と一緒にランチに行ったとき、私だけ子どもがいないのに、彼女たちの子どもが食べた分まできちんと3等分で支払わされた」(兵庫県・28歳・会社員)と、負担額に不公平さを覚えるエピソードが目立った。

【飲み会ワリカンアンケート】
〜飲み会や食事会の費用をワリカンで支払うとき、適当と思う考え方を聞いた。多数回答が得られた上位5位まで紹介〜
1位 多く飲んだり食べたりした人が多く払うべき  242人
2位 男性も女性も平等に払うべき  179人
3位 男性は女性より多く払うべき  120人
4位 先輩は後輩より多く払うべき  102人
5位 先輩、後輩にかかわらず平等に払うべき  86人
(全国の20代〜50代の女性600人を対象に、2022年10月31日、Freeasyにて行ったアンケート。複数回答方式)

『飲食店でのワリカンで適当だと思うものはどれか』を尋ねた質問でも、「多く飲んだり食べたりした人が多く払うべき」が242人と最も多かったものの、なかなか公平なワリカンは難しいのが実情のようだ。この点について、京都大学大学院経済学研究科教授で経済学博士の依田高典さんは次のように解説する。

「たくさん食べた人やたくさん飲んだ人が、その分多く支払うことを“応益負担”といいます。また、給料をより多くもらっている先輩や上司など、支払い能力が高い人ほど多く負担することを“応能負担”といいます。

 一方、そういった経済負担の考え方は取り入れず、単純に人数で均等に割って負担しましょうというのを“平等負担”といいます。ワリカンは、応益負担や応能負担の考え方と平等負担の考え方のせめぎ合いの場といえるかもしれませんね」

 今回の『飲食店でのワリカンで適当だと思うものはどれか』の回答を分析すると、応益負担、応能負担をすべきだという考えが6割、平等負担をすべきだという考え方が4割という結果だ。

「アンケート調査では応益負担、応能負担の考え方のほうが多数派でしたが、経済学的な観点でもこちらの考え方のほうが正しいといえますね。

 “平等”といえば聞こえはいいですが、実際には誰もが同じ量を飲み食いできるわけではないので、平等負担はどうしても不公平になりがちで、非合理的。だからこそ、平等負担を強いるワリカンの場合は割に合わないとモヤモヤする人が出てきてしまうのかもしれません」(依田さん)

 また、「男性も女性も平等に払うべきだ」という回答が2位にきている点も興味深い結果だと依田さんは指摘する。

「女性のほうがたくさん食べたり、支払い能力が高いという場合は平等負担でいいのですが、実際はそれだと女性が損をする場面のほうが多いでしょう。

 それにもかかわらず“平等負担をすべきだ”という考えがこれだけ多いのは、男女平等の考え方が根付いてきていることの表れなのかもしれませんね」(依田さん)

ドライブやポイ活で生じるモヤモヤも

 飲食の会計だけでなく、旅行などの際にも“ワリカン負け”は発生しているようだ。

【ドライブのワリカンアンケート】
〜友人4人でドライブ。運転手は自分の車を出し、ガソリン代、高速代を立て替えた場合の、適当なワリカンの方法を聞いた〜
1位 運転手は少なめに、残り3人が多めに払う  249人
2位 運転手は0円、全額を3人で割って払う  168人
3位 全額を運転手も含む4人で割って払う  97人
(全国の20代〜50代の女性600人を対象に、2022年10月31日、Freeasyにて行ったアンケート。複数回答方式)

「友人とドライブをした際、私の車で運転もしたのに、ガソリン代や高速代はきっちりワリカン。運転の労力を気遣って少しは安くしてほしかった」(埼玉県・22歳・学生)

「ママ友との旅行で、現地での細かな支払いは私が立て替えて出し、最後に精算することにしていた。ところが、計算が面倒だから端数は切り捨てにしてとゴネられ、立て替えた私が損をすることに……」(広島県・36歳・専業主婦)

 ほかにも、支払い方法で苦労したり、ポイントをどうするかなど、比較的新しいワリカン問題も浮上してきた。

「いつも幹事を率先してやってくれる友人が、実は会計のときに自分だけ安くなるように多めに徴収していたことがわかったときはガメついなと」(大阪府・50歳・専業主婦)

「みんな自分が使っている電子マネーで支払ってポイントを貯めたいと思っていて、個別会計ができない店では誰がまとめて払うかピリピリする」(千葉県・41歳・会社員)

「ドライブの例では、運転手の労力を応益負担としてどう捉えるかどうかがポイントですね。運転をしない同乗者はその分の利益を享受していると考えれば、ドライバーは肉体的な負担の分を金銭的に勘案して、少し安めにしてあげようという考え方が、経済学的にみて合理的な応益負担かなと思います」(依田さん)

 さまざまな場面で浮上するワリカン問題。みんなが納得できる解決策とは。

「やはり合理的なのは応益負担の考えに基づいたワリカンですが、会計の段階で誰がどれだけ食べたかを厳密に割り出すのは難しいですよね。

 支払いの際にバタバタと事後的に相談するのではなく、事前におおよその応益や応能を話し合っておいて、例えば最初の段階で男性2:女性1の割合で支払うなどとルールを決めておくことが、経済学的な合理性を反映しつつ“事前の公平性”を満たせる方法かなと思います」(依田さん)

 スマートで遺恨の残らないワリカンの極意は“事前交渉”にあり、ということだ。

依田高典(いだ・たかのり)●京都大学大学院経済学研究科教授。専門は応用経済学、情報通信経済学、行動健康経済学。『「ココロ」の経済学 ―行動経済学から読み解く人間のふしぎ』(筑摩書房・刊)など、著書多数

(取材・文/吉信武)