俳優の寺島しのぶが12日、新宿ピカデリーにて行われた主演映画『あちらにいる鬼』(公開中)の公開記念舞台あいさつに登壇。劇中、寺島は剃髪した姿を見せているが「最初からやると決めて臨んだわけではないんです」と葛藤があったことを明かした。イベントには、豊川悦司、広末涼子、廣木隆一監督も出席した。

 本作は、2021年に99歳で波乱に満ちた人生をまっとうした作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんをモデルに創作した直木賞作家・井上荒野の小説を、映画『母性』などの廣木監督が映画化。人気作家として活躍する長内みはる(寺島)が、講演先で出会った同業の白木篤郎(豊川)と恋に落ちていくさまを、篤郎の妻・笙子(広末)を交えて描く。

 たくさんの人で埋め尽くされた会場を見渡した寺島は「わたしが試写で作品を観たとき、人と人との縁や、出会った人と死ぬまで絡んでいくというのは、本当に尊くていとおしいことなんだなと感じました」と映画を観て感じたことを話すと「こういう大人の映画は、ある程度お客さんに入っていただかないと廃れてしまうので、どうか皆さんよろしくお願いします」と深々と頭を下げた。

 寺島の言葉に広末は「寺島さんはとても役に対して控え目にお話をされていますが、映画をご覧になればわかりますが、肉体的にも精神的にも、ものすごく大変な役を演じられていて、とてもつらかったと思います」と寺島を慮る。

 この言葉通り、劇中で寺島が演じたみはるの壮絶な生きざまには圧倒される。特に剃髪するシーンは、実際自身の髪をそって臨んでいる。寺島は「撮影に入る前から剃髪すると決めていたわけではないんですよ」と前置きすると「でも廣木監督とやるからには、監督のためにそるかなという気持ちになって……」と廣木監督の方を向き、「廣木監督が剃髪しているようなもんですからね」と軽くいじりつつ「僕もいるからねと励ましてくださいましたし、豊川さんもピリピリしているときに柔らかい言葉をかけてくださり、広末さんもそったあと、プリプリ触ってくれたりと、気持ちを和らげてくださったおかげで前向きになれました」と周囲に後押ししてもらったことを明かす。

 そんな寺島に豊川は「本人はウジウジしている瞬間もありましたが、彼女はとても男前な人なので、絶対やるだろうなと思っていました」と語ると、寺島は「こういうのがプレッシャーなんですよね」と苦笑い。それでも「やって良かったと思っています。やっぱりカツラをしてそった感じでやるのとは、心の動きが全然違ったと思う。説得してくださった皆さんのおかげだと思います」と感謝を述べていた。(磯部正和)