歯の疾患は「口の中だけの問題」ではありません。たとえば歯周病は糖尿病、誤嚥性肺炎、心疾患など全身疾患に悪影響を及ぼすことが分かっています。このことから金子泰英氏(医療法人KANEKO DENTAL OFFICE 理事長・院長)は、医科と歯科が連携して患者の健康を考える体制を望んできました。しかし一方では、長年、医科歯科連携の難しさを感じてきたといいます。

最期まで生活の質を下げないためには「歯」が大切

■歯科と医科の連携を進めるには

今後、医科歯科連携がスムーズに行われるようにするには、そこにやりがいを感じる医師や歯科医を増やせるかどうかにかかっています。

私は歯科医なので、一般的な人から見ると命に関わる治療はしていないと思われています。しかし、私のオフィスで高濃度ビタミンC療法を受けることで延命できたり、がんが消えたり(個人の例です)、余命を宣告されてから歯を治して自分の歯でおいしいものを食べて終末期を過ごしたり、といった患者が大勢います。そういったプラスアルファの治療で、最期まで生活の質を下げないでいてもらえることに、歯科医としてやりがいや生きがいを感じています。

同じような考えの医師と連携して、歯科治療を積極的にまかせてもらえれば、患者にも喜んでもらえるはずです。最近では、歯科医による高齢者の在宅医療も増えてきており、とてもいいことだと思っています。口腔ケアはもちろん、嚥下機能が低下してうまく食べられない人に、うまく食べさせる機械をもっていく歯科医もいます。

70歳以上の多くが「歯を大切にすればよかった」と後悔

■厚労省の「8020運動」でも問題視される“日本人の残存歯数の少なさ”

プレジデント社が70歳以上の人に取った統計で、「何を一番後悔してるか」という質問に対し、「歯をちゃんと大切にしておけばよかった」と答える人が多かったそうです。そして「最後に何をしたいですか」という質問では、「おいしいものを食べたい」という回答が多かったのです。

高齢者にとって、噛めて、おいしく食事ができるというのは大きな楽しみです。それをかなえてあげられるのは医科ではなく歯科の分野なので、これからの超高齢社会では医科歯科連携を進めていくことは急務だと思います。

医師側も歯科と連携することによって、治療のスピードが上がると患者からの評価は高くなるはずです。口腔ケアに注目してもらうことでこれまで治らなかった病気が治っていくわけですから、医科にとってもメリットは大きいと思います。歯科との連携の大切さを訴えている糖尿病専門医の西田亙先生や認知症専門医の長谷川嘉哉先生は有名ですが、歯科医にはまだその認識が低い人もいます。昔に比べるとだいぶ歩み寄ってきたとは思いますが、まだまだだといえます。

一方で、糖尿病と歯周病の悪循環を断ち切るため、自治体を挙げて、医科歯科連携を進める動きも出てきています。愛媛県の宇和島市や青森県のようにポスターを作って啓蒙すると、高齢者にも浸透しやすく効果的です【図表】。

【図表】自治体の取り組み例 出典:宇和島市役所・青森県庁

コロナ禍でオンライン会議が広がりましたが、医師と歯科医の連携もオンラインであれば症例の共有をしやすくなるというメリットがあります。自分のところであった症例を報告して、それに対してディスカッションする場があれば、医科と歯科のつながりはもっと深まるのではないかと思います。

もっとも「歯の治療などたいしたことではない」という考えの医師もいますので、そういった医師にきちんと反論ができる歯科医になれるよう、知識を増やすことと実績を積むことは欠かせません。

「歯科医は歯だけを診ていればいい」という時代の終焉

■歯の治療が「病気の早期発見」につながることも

歯の治療をしていると、口の中の状態から全身の疾患が分かって、病気の早期発見につながるケースも少なくありません。出血が止まりにくい場合は、血液の病気の可能性がありますし、血圧や脈拍数が異常に上がる場合は、高血圧で危険ということもあります。

歯周病の治療をしているのに全然治らない場合は、「糖尿病だった」ということもあります。その際、病状がそれ以上進まないように、こまめに来院してもらい口腔の管理をこちらで行うといったこともできます。「歯磨きをしっかりしてください」と言っても、なかなかできない方もいるので、そういう場合はこまめに来院してもらって、口の中をきれいにするしかありません。糖尿病は進行すると、失明したり、足を切断したりすることになるので、口の中からそれを食い止めるのが歯科医の仕事でもあります。

また、私のオフィスは自由診療なので、患者のカウンセリング時間が長く、歯だけでなく、全身の病気の話までじっくり聞くことができます。お話を聞いているうちに、必要がない薬を飲んでいる患者が多いことに気づいたりもします。そういうときは私からかかりつけ医に連絡をして、文献やガイドラインを提示して、「本当に必要ありますか」と確認をすることもあります。医師からするとイヤな歯科医かもしれませんが、目の前の患者の健康を考えると、ほうっておくわけにはいきません。

私は歯科医ですが、患者からすると「体のことも相談にのってもらえる」という点が心強いようです。

飲んでいる薬が多い方のなかには必要がなさそうなものもあるので、「これは本当に飲まないといけないかどうか、医師に確認してみてくださいね」とお伝えしています。

今後、医科歯科連携が進めば、私のような歯科医が体の疾患への相談を求められる場面も増えていくと思います。予防の大切さが一般の方にもっと浸透すれば、「歯科医は歯だけを診ていればいい」という時代は、終わっていくはずです。

金子 泰英

医療法人KANEKO DENTAL OFFICE 理事長・院長