おひとりさま需要を開拓し急成長を続ける焼肉ライクですが、会社の顔である有村壮央社長のツイートがプチ炎上し、2日経たないうちにツイッターをやめると表明。しかし、筆者は「悪手」だと指摘します(撮影:梅谷秀司)

焼肉屋で外食するよりも、スーパーで買った肉を家で焼いたほうが安い。そんなSNS投稿に「イラッとした」という、大手焼肉チェーン店経営者のツイートが、大きな論争を呼んでいる。

インターネットでは時折、原価やコスパ(コストパフォーマンス)が議論になる。そのたびに当事者からの反論はあるが、今回の件については、さすがに過剰な反応なのではないか、との声が続出。最終的に経営者は、ツイッターをやめると発表した。件の投稿から、わずか1日半後のことである。

企業トップによるSNS投稿は、ブランド価値を高める効果があるが、一方でイメージを毀損することもある。筆者はネットニュース編集者として、約10年にわたり、あらゆる「炎上」を見てきた。

その経験からいうと、「自社プロダクト(サービス)への強すぎる自信」が火の元になるケースが多々見られる。

「焼肉ライク」社長のツイートがプチ炎上

今回話題となっているのは、「焼肉ライク」の有村壮央社長だ。


1人1台の無煙ロースターが、新たな食空間を創造している(写真:編集部撮影)

焼肉ライクとは、1人1台割り当てられたロースターで楽しめる、全国92店舗(2022年10月28日現在、公式サイトより)を展開する外食チェーン。基本メニューは、肉とごはん、わかめスープ、キムチ。品ぞろえをシンプルにすることで、注文から3分以内の提供を売りにしている。

近年の「おひとりさま」需要を追い風に、フランチャイズ(FC)展開にも積極的で、2018年には中華料理チェーンの幸楽苑ホールディングスともFC契約を締結。

コロナ禍では多くの外食店が苦戦しているが、個食・黙食ブームに加え、焼肉店では珍しいタッチパネルでの注文形式や、席ごとの無煙ロースターで換気できることなど、圧倒的な利便性を武器に、その勢いを増している。


焼肉店では珍しい、タッチパネルでの注文形式(写真:編集部)

また、期間限定で行われた「すき焼ライク」のように、1人1台のロースターを軸に、あらたな商品開発にも取り組んでおり、多くの外食ファンを驚かせている。

そんな立志伝中の有村氏、ツイッターアカウント開設は2010年と古いが、今年に入って、その存在感を強めた。7月に、フィットネスジム通いをするユーザーに対して、焼肉にサラダ(ごはんでも可)、プロテインドリンクをセットにした、サブスクリプションサービス(月額課金)に興味があるかと問いかけ、3万もの「いいね」を獲得。得られた反響をもとに、一部店舗で「焼肉フィットネス」としてメニュー化された。

「イラッとしました」投稿がプチ炎上

その後も商品紹介とともに、経営哲学をツイートする有村氏。そんななかで投稿されたのが、「『焼肉ライク行くよりスーパーで買った肉を家のフライパンで焼いた方が安いんだよな…』というつぶやきがイラッとしました笑」とのツイートだ。

無煙ロースターの設置費用や、調理・後片付けといったスタッフへの給料を理由にあげて、価格設定への理解を求める内容となっている。


いわゆる原価厨に、理解を求める内容ではあったが…(出所:有村壮央氏ツイッター)

続くツイートでは「イラッとしてないですよ笑」とトーンを和らげつつ、焼肉を通じてイノベーションを起こす目的に向けて、「まだ価値を感じてもらえてないレベルだということです。ただプライドをもって変えていきます」と決意を新たにした。

しかしながら、これらの投稿に対して、ツイッターユーザーの風当たりは強かった。「そこまで腹を立てる意味がわからない」「店舗で食べたいと思わせるのが仕事なのでは」「イラっとしました、のあとの笑にイラッとした」「思っても、言わないほうがいいことなのでは」といった、安さや原価とは関係のないものも含む、さまざまな角度からの批判が寄せられた。

このような反応を受けて、翌日には「昨日のツイートがプチ炎上していて反省」「手段に溺れて、大事な理念目的を忘れないようにしたい」などと自戒の念もつぶやいたが、件の投稿から約1日半後に、有村氏はツイッターの終了を表明した。

「ツイッターをやめることにしました。10年以上、唯一の趣味がツイッターでした。いつかこんな日が来ると思っていました。ひとつだけお願いがあります。まだ焼肉ライクを利用したことない方はぜひ一度体験し意見を聞かせてください。より良くしていきます」(10月28日の有村氏ツイートより)

炎上直後にツイッターをやめるのは「悪手」だ

筆者は外食の専門家ではないので、ここで原価について持論を述べるのは控える。だが、数々のネット事件を見てきた身としては、炎上直後のタイミングでツイッターをやめる選択をしたのは、正直なところ、かなりの悪手だと思えてしまった。

なぜなら、結論が出ていないのにもかかわらず、一方的に終了宣言してしまうと、ユーザーには「逃げた」ように見えてしまい、かえって悪印象を与えてしまうからだ。また、ここまでツイートが拡散されてしまえば、今回の騒動を機に、有村氏のことを知ったネットユーザーも少なくないだろう。ツイッターで失った名声は、ツイッターで取り戻すしかない。経営者による投稿であれば、なおさらだ。

この一件を見ていて、ふと思い出したのが、2019年に起きた、出版社・幻冬舎の見城徹社長をめぐるケースだ。同社発行の書籍を批判したために、自著出版を拒否されたとツイートした作家に対し、ツイッター上で議論を展開。その過程で見城氏が、作家の過去作について「初版5000部、実売1000部も行きませんでした」と投稿し、さらに火に油を注いだ。

本来は非公表であるはずの「実売部数」を、著者に無断で公表したことが、業界のタブーに触れたと、有名作家をはじめ、出版界隈を中心として、非難の声が上がったのだ。結果として、見城氏はツイートを削除したうえで、ツイッターそのものを終了し、謝罪した。このケースも「大炎上」した投稿から、わずか数日後での幕引きだった。

ツイッター史をたどると、ステーキを中心に外食チェーンを展開していた「ステーキハンバーグ&サラダバーけん」(通称「ステーキけん」。現在は事業譲渡済み)の井戸実氏も思い出す。2010年代前半、郊外の居抜きをメインに出店攻勢を掛けていた井戸氏。その勢いを原動力に、客からのクレームに対して、「たった1000円ちょっとの食事で30分もクレーム電話をし続ける奴の気が知れない。働け!」など強気の口調で批判投稿を繰り返し、一時はネットニュースの「常連」となっていた。

ちなみにその後、大手チェーンがステーキに続々参入し、経営を手放すことに。先日ちょうど「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)で、再起を図る様子が紹介されていた。

ここまで挙げた事例は、どれも「衝動的な発言」が、イメージに影響したものだ。意図的に起こした可能性もあるが、だとしたら思惑通りにはいかず、見込み違いだとしか言えない。おそらくいずれも、日頃から思っていたことが、ふとした機会に表に出てしまったのだろう。

その背景には、自身の経営理念や、提供している商品・サービスに対しての「並々ならぬ情熱」があると思われる。これだけ優れた商材なのに、受け入れられないのは、批判してくる相手が悪いのではないかーー。

そうした他責的な考え方が透けて見えると、すぐにネットユーザーは察知する。特にツイッターでは、そうした機微がバレやすいように思える。

「会社の顔」ゆえの慎重さ・真摯さが求められる

経営者は、従業員をまとめる立場であると同時に、対外的には「会社の顔」でもある。それは株主や取引先相手だけではなく、SNS上でもそうだ。広報部署が別にあったとしても、顧客接点のひとつを担っている意識が必要になってくる。

もちろん、ほどよいバランスを取れた論争ができるのであれば、イメージ戦略にも役立つだろう。批判にも真摯に向き合う姿勢を示せば、「昨日の敵は今日の友」。対応次第でアンチも、ごひいきになる可能性がある。

反対に「燃えても芸風」と開き直って、どんな批判を受けても、自分の信念を貫くのであれば、それはそれでアリだ。さすがに法に触れるようなことを言うのはマズいが、ある程度のリスクヘッジをしつつ、一本筋が通った「ブレない姿勢」を演出する。そのぶん強固なメンタルが必要になり、従業員からの理解も不可欠だが、知名度を高める術としては選択肢になりうる。

一般的に「社長」というと、ちょっと遠い立場の人々に思える。だからこそ、SNS上でフランクに交流できるとなれば、それまで興味がなかったネットユーザーを顧客として獲得できる。しかしSNSで炎上してしまい、本業のイメージダウンにつながってしまう危険性も併せ持っている。どこかのCMソングではないが、「焼肉焼いても家焼くな」の精神を保てるのならば、きっと優秀な営業ツールとして機能してくれるだろう。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家)