どうすればいい転職ができるのか。コンサルタントの土谷愛さんは「『自分には強みがない』と悩む人が多いが、そこでの『強み』のイメージはそもそも大きく間違っている。企業側は学歴や実績といった要素はほとんど重視していない」という――。
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■間違ったイメージに踊らされる「強み迷子」

一般的に「強み」というと、「人より突出した才能」や「高難易度の資格や大きな実績」などがイメージされ、「限られた人しか持っていないもの」と考えられています。

それゆえ、たとえば「学歴がない」「資格がない」などの理由から「私には強みなんてない」と感じてしまう人が後を絶ちません。

一方、不思議なことに、「高学歴」「部活の全国優勝経験」など学生時代に輝かしい実績を持っていたとしても、実際に働き始めると自分のスキル不足などに直面し、「仕事で求められるスキルがない」「結果が出ない」などの理由から「自分には強みがない……」と落胆してしまう人も少なくないのです。

しかし、多くの人が持つ「強み」のイメージは、そもそも大きく間違っています。

私がお伝えする「強み」の定義とは、「目的達成に有利に働く特徴」です。

ですから、「転職をしたい」という目的を達成したいとき、その目的に「1ミリでも有利に働く特徴」があれば、あなたの転職を実現させる「強み」となるのです。それが「人より秀でた才能や仕事の大きな実績」ではなくても、です。

■「どんな場面でも使える最強の必殺技」は存在しない

たとえば、ゲームのRPGの世界を思い浮かべてみてください。

RPGではメインキャラクターを選択し、次々に現れる敵キャラを倒しながら目的地をめざして冒険します。

このとき、メインキャラの使えるワザが「火を吹く」だった場合、現れた敵が「氷タイプ」のような性質であれば当然勝てることでしょう。しかし、「水タイプ」「岩タイプ」など、火に強い性質の敵であれば、「火を吹く」というワザの効果は劣ってしまいます。

つまり、基本的に「どんな場面でも使える最強の必殺ワザ」は存在せず、同じワザでも戦う敵によって「強いワザ」になったり「弱いワザ」になったりするのです。

「強み」というのも、このゲームの世界の構造によく似ています。

「憧れのIT会社の採用試験に受かりたい」と思ったときにアピールするべき「特徴」と、「今の会社の営業部で昇進を狙いたい」と思ったときに使える「特徴」は違います。

基本的に前者はITのスキルや知識が求められるでしょうし、後者では営業としての実績や部下のマネジメントスキルが求められるでしょう。

このように、たとえ同じ人であっても、「目的」が変われば、使うべき「特徴」も自ずと変わる、ということなのです。

■「強み=人よりも秀でた才能」ではない

もちろん、一般的な強みのイメージである「人より秀でた才能」や「高難易度の資格や仕事の実績」などを持っていれば、「強み」として活かせる場面もあります。しかし、それらがないからと言って、必ずしも「目的が達成できない」とは限りません。

上記の転職の例であれば、仮に「才能」がなくても「コツコツ真面目に取り組む性格への安心感」を感じてもらえれば採用されるかもしれません。仮に「大きな実績」がなくても「独学で学んだITスキルの高さ」を評価してもらえれば採用されるかもしれません。このように「目的=転職活動で内定を得ること」が達成できさえすれば、「才能」や「実績」がなくてもよいのです。

したがって、自分が「この目的を達成したい」と思うことに対して「1ミリでも有利に働く特徴」があれば、それは紛れもなくあなたの「強み」です。

このように「自分の特徴」が使い方によっては「強み」になるものだと考えると、「強みは限られた人にあるもの」ではなく、「すべての人にあるもの」だと私は考えています。

「強み=人より秀でた才能」などのように限定的なイメージで捉えてしまうと、途端に「強みがわからない」と悩む「強み迷子」が生まれてしまうのです。

■「自分の特徴」から目的達成に使えるものを選ぶ

それでは、実際に「強み」はどのように見つけていけばよいのでしょうか?

まず前提となるのが、「強み」を見つけるには、「強み探し」を先にしないこと。ここで言う「強み探し」とは、「強みになりそうな特徴だけを見つけよう」と考えて自己分析を行うことです。

そうではなく、まずは「強みになるかどうかわからない(強みにならないかもしれない)」としても、とにかく「自分の特徴」を大量に列挙することから始めましょう。次のステップとして、「自分の特徴」の中から「目的達成に使えそうな特徴」を選ぶことで、初めて「強み」に変わるのです。

とはいえ、「自分の特徴の列挙」と言われても難しいですよね。そんなときには「特徴」をさまざまな項目に細分化してみるとよいでしょう。

たとえば、元来の「性格」の特徴や、後天的に身につけてきた「経験」「知識」「スキル」といった特徴。このように細分化することで、自分の特徴の列挙がしやすくなります。

すると、「真面目で責任感が強く、何事もコツコツと最後までやりぬく性格」や、逆に「短期集中でスピード感を持って仕事を終わらせる性格」など、人によって異なる「性格の特徴」が出てくるはず。あるいは「経験」を書き出してみるにしても、「IT業界」「旅行業界」「飲食業界」「教育業界」などさまざま。そこで得られた「知識」や「スキル」も、人とは違う自分ならではの「特徴」となっているはずです。

これらの活かし方を見つけることが、「強みを見つけること」に他なりません。

■「営業成績1位です」実績は材料の1つに過ぎない

私たちが「年収増の転職」を実現させたい場合、初対面の面接官に対して「その年収にふさわしい成果を出せること」を伝えて信用してもらわなければなりません。

写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

では、採用側は「成果を出せるかどうか」をどこで図るのかというと、応募者が「自分の特徴」をその仕事にどう活かせるのか? を明確に語れるかどうかです。

よくある誤解として、「東大卒です」「営業成績1位です」などのように「大きな実績」があれば転職が成功するかのように思われることがあります。しかし、「実績」は興味を引く材料の一つであって、採用の決定要素ではありません。以前の職場でどんな実績を出していようが、それがそのまま「自社での実績」につながるとは限らないからです。

そうではなく、「これまでの経験・知識・スキルがあったからこそ、次の仕事にどう活かせるのか」を語れることがとても大事なのです。

■未経験業界で主婦が年収150万円アップの転職に成功

たとえば私のお客様で実際に「150万円の年収増」の転職を叶えた方がいらっしゃいました。地方在住の主婦の方です。それまで小売業界、介護業界など様々な業界を渡り歩いていた彼女は転職を決意したものの、いわゆる「突出した実績や資格」といった一般的な「強み」はありませんでした。

土谷愛『自分だけの強みが遊ぶように見つかる 適職の地図』(かんき出版)

しかし、自己分析で自分の「特徴」を細分化して見つめたことで、「相手の表情などから感情や困りごとを読み取る敏感な性格」を自覚。また、それまでの仕事では業界や職種が変わっても、一貫して「お客様対応の経験」が長かったことがわかりました。彼女はそれらに気づいたことで、「お客様対応力」を求めている求人に応募し、未経験業界ながらも内定を獲得。見事150万円の年収アップに成功したのです。

転職活動は、自分の持つ「特徴」を希望の仕事にどう活かせるのか? を考えていくゲームです。今の自分が持っている「得意ワザ」や「アイテム」をどう使って敵に挑むのか?

このように、ゲーム感覚で考えてみると、自己分析がいっそう楽しくはかどることでしょう。

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土谷 愛(つちたに・あい)
強み発掘コンサルタント
社会人向け自己分析講座「アドバンテージゲーム」主宰。売上ビリの落ちこぼれ営業時代、ひょんなことから「自分の強み」を見つけて社内1位、最年少管理職に。退職後、「誰にでも輝く強みがある」という信念のもと、自己分析・強みの収益化・SNS発信などをテーマにオンライン講座を続々と開講。自分探しに迷う20〜30代の会社員や主婦が口コミで集まり、総受講者500名超、公式メルマガの読者は累計7000名を突破。著書に『自分だけの強みが遊ぶように見つかる 適職の地図』(かんき出版)など。メディアにも多数出演。
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(強み発掘コンサルタント 土谷 愛)