小林雅英氏「木製バットに変わった影響が出ている」

プロ野球ドラフト会議 supporeted by リポビタンD」が20日、東京都内のホテルで行われ、支配下で69人、育成で57人が指名された。支配下指名の人数を見てみると高校生25人、大学生27人、社会人15人、独立リーグ1人、米大リーグ傘下1人。東京ガスを経てロッテや巨人、メジャーでもプレーした小林雅英氏(現・社会人エイジェック投手コーチ)は上位指名も少なく、6人が6位以下に集まった社会人選手について「数年前に比べて評価が低くなっている。このカテゴリーはアマの最高峰であってほしい」と願った。

 東芝・吉村貢司郎投手がヤクルト1位、3選手が2位指名されたが、5位に3人、6位に5人、7位に1人と下位になるにつれて、指名が増えていった。社会人を経て1998年ドラフト1位指名を受け、ロッテでも確固たる地位を確立した小林氏にとっては“もどかしい”ドラフトになったようだ。

「今、携わっているチームもそうですが、僕自身『プロに近いレベルでやりたい』『ドラフト上位でプロ野球選手になりたい』と思って、大学(日体大)から社会人へ進みました。期待を込めて入り、力をつけたリーグだったので、今回こういう形になったのは少し残念かなと思います。『社会人もっと頑張れよ』って感じです」

 近年では栗林良吏投手(トヨタ自動車)が2020年ドラフトで広島から1位指名を受け、新人王を受賞するなど、全く逸材が出ていないわけではない。だが、メジャーでも活躍した野茂英雄氏(新日鉄堺→近鉄)、シンカーを武器にした潮崎哲也(松下電器→西武)、豪速球が売りだった中日前監督・与田剛(NTT東京→中日)らが活躍していた20-30年前に比べると、社会人即戦力の存在感は薄くなっている。

「僕は木製バットに変わった影響が大きく出ているのではないと思います。木製バットになったことが悪いと言っているのではなく、今その打者を抑えられたとしても、プロのレベルに来たら、抑えることができなくなっています」

「1年から2年の経験を積まないと、1軍の戦力にならない」

 社会人では2002年には金属バットから、木製バットに変更された。成人男性が金属バットで放つ打球速度はとても危険であるということが大きな理由だ。その頃から世界大会レベルでは15歳以下の大会を除いて使用禁止となった。

 金属バットが使用されていた当時は、力のない打者でも本塁打を打つことが可能だった。一方、投手からすると金属バットを手にした打者を打ち取るためには、いかにバットにボールを当てさせないよう、空振りを取るかを考える必要があった。また、細心の注意を払いながら投球をしたり、分かっていても打たれない直球を投げる必要に迫られるため、高いレベルの投手が育った背景がある。

「私もオリックス、ロッテでコーチをしていた頃、社会人から入ってきた投手たちと携わることがありました。プロでは一段階も二段階も高いレベルの打者と対戦する。ストライクゾーンの違いもあり、なかなかすぐにパフォーマンスを出せる選手が少なくなっているかなというのは感じています。即戦力というよりも1年から2年の経験を積まないと、1軍の戦力にはならない」

 そういう力が抜きんでた投手がいない分、打者も育たない“悪循環”も生まれてしまう。

「僕がプロに入る前の話ですが、社会人出身の投手、五輪で活躍された方は新人王を獲得されたり、即戦力で活躍されたりすることが多かったというのが印象としてあります。そう考えると木のバットの影響は大きいのかなと思います」

社会人野球は「アマチュア野球の最高峰であってほしい」

 一方で、一度1軍に定着すれば、長く好成績を残すことができるのも社会人選手の特徴のひとつだろう。昨年のドラフトでは日本ハムに9位指名された上川畑大悟内野手が今季80試合に出場。堅実な守備や、サヨナラ安打を放つなど勝負強い打撃でインパクトを残した。

 一昨年ドラフトで6位指名の阪神・中野拓夢内野手はルーキーイヤーに盗塁王、同じく6位の日本ハム・今川優馬外野手も2年目の今季、94試合で10本塁打をマークした。今回のドラフトで指名が下位に集中したのも、昨今の社会人野球の選手の傾向を踏まえたものなのかもしれない。

「投手が良くなれば、打者も良くなると思います。今の社会人野球のレベルが低いわけではありません。僕自身が社会人でレベルアップしてプロに行きたいと思っていた人間ですから、社会人野球がそういう場所であってほしいと思っています。アマチュア野球の最高峰であってほしいです」

 力のあるボールだけでなく、野茂氏のフォークや潮崎氏のシンカーなど変化球も同じだ。そうしたボールに対して、どう立ち向かうかという工夫から打者も力をつけていった。小林氏も社会人で培った技術と精神力を持ってプロの世界に入り、クローザーとして活躍した。社会人野球には大きな魅力がある。だからこそ、可能性をさらに広げていけるようなカテゴリーになっていってほしい。(Full-Count編集部)