「ピッチングを教えるのは難しい」が口癖だった。

【写真】女子部員たちに檄を飛ばす男性顧問

 兵庫県姫路市の私立姫路女学院高校で、ソフトボール部の顧問を務める男性教諭(41)が部員の1年女子生徒(16)の左頬を1発平手打ちし、あごが外れる重傷を負わせた。女子生徒は口を開けにくくなり、食事にも苦労するなど『外傷性開口障害』で全治1か月の診断。叩かれた衝撃で口の中も切れた。

 体罰のきっかけは、県内他校のグラウンドで行われた公式戦の試合当日、被害生徒がユニフォームを忘れたから。

「帰れ」「おまえなんかいらん」

 などと暴言も浴びせた。

 被害生徒は帰るわけにもいかず、約5時間立ちっぱなしとなった。顧問は2人体制で男性教諭が監督を務め、コーチの若い女性教諭が近くにいたが、止められなかった。

 負ければ即敗退の県大会地区予選で、被害生徒は打撃力のある選手だった。

 学校側に詳細な経緯を尋ねると、寳谷亮介校長補佐は、

「まず、いかなる理由があろうと体罰は認められません。被害生徒には本当に申し訳なく、男性教諭も“手を出してしまった自分が全部悪いです”と後悔しています」

 と頭を下げて経緯を語る。

母親に予告「一発どつきますよ」

 体罰があったのは9月24日午前8時すぎ。被害生徒はユニフォームを忘れたことに気づき、母親に「持ってきてほしい」と連絡した。以前にも忘れたことがあったため、母親は甘やかさないようにそっけなく対応しつつ、一方でユニフォームを届けるため男性教諭に連絡を取ったという。

 男性教諭は母親に対し、「一発どつきますよ」とあり得ない予告をした。

 母親は、「お任せします」と答えたというが、この状況ではほかに返答しようがないだろう。体罰を加えるとは思いもしなかったようだ。

 一方、保護者の許諾を得たと思った男性教諭は堂々とビンタ。対戦相手のバッテリーは驚き、叩く音は相手側ベンチまで聞こえた。

「3年生が引退して出場できるメンバーは10人だけ。被害生徒は過去にもユニフォームを忘れたことがあり、男性教諭は“部員数がぎりぎりで切羽詰まって自分を見失ってしまいました”と話しています。また被害生徒は母親とのやりとりの中で、ユニフォームを忘れたことを男性教諭に伝えているような言い方をしましたが、実際には母親からの連絡で知ったといいます。そういう姿勢も許せなかったようです」(前出の校長補佐)

 母親が届けてくれたユニフォームに着替えてベンチで仲間を応援しようとしたが、男性教諭は許さなかった。

「あっちへ行け」「ベンチに入るな」

 被害生徒はひとりケガに耐え忍び、仲間と離れた場所で立ち続けることになった。

「まだおったんか」

 試合には勝ち、チームは翌日対戦する他校の試合を観戦。このときもひとりだった。

 男性教諭は合間で、

「おまえなんかおらんでもやっていける」「まだおったんか」

 などと言い放ったという。

 午後からのチーム練習への参加も認めなかった。見かねた女性コーチは部員たちに「(被害生徒に)声をかけてあげてよ」とうながしたり、本人にも「あしたのことを考えて自分で工夫して自主練習したらどう?」と提案した。しかし、男性教諭は自主練習も許さなかった。

「男性教諭は“振りかぶっては叩かず手加減した”と話していますが、男性だから強かったのではないか。翌25日の試合に被害生徒はユニフォームを忘れず姿を見せました。もともと周りに迷惑をかけたくないと考える責任感の強い生徒なんです」

 と前出の校長補佐。

 男性教諭は、試合に出すかどうかをコーチと相談し、出場させることに。試合前にスパイクに履き替えている最中、男性教諭は「ちゃんと反省しとんのか」などと言って尻を2発蹴り、頭をたたいた。冗談まじりであっても体罰だ。

 被害生徒は試合でタイムリーを打つなど活躍し、チームは県大会に進んだ。

 体罰が発覚したのは、被害生徒の保護者から面談を求められた男性教諭が学校に報告したため。同校は部の保護者説明会を開いて謝罪した。保護者からは、男性教諭が日常的に部員の頭や肩を叩いていたとする指摘があったほか、暴言も明かされた。男性教諭はじゃれ合いのつもりだったという。

「合同練習会で他校の監督に“こいつらクズなんですよ”と話すのを部員が聞いてしまい、ショックを受けたそうです」(前出の校長補佐)

毒舌なところもがあるが、生徒思いの先生

 定時制高校などを経て同校に着任して5年目。ソフトボールの指導は初めてだが、野球経験があり、バッティングや守備などを鍛えてチームを強化してきた。

 同校はアスリートコースがあり、サッカー部やバレーボール部、ソフトボール部などが強化部に指定されている。

 学校が事件後、全ソフト部員に男性教諭について聞き取り調査したところ、

「厳しい」「機嫌のいいときと悪いときがある」

 と指摘があった。

 また複数の部員から、「被害生徒には特に厳しくあたっていた」と共通意見が出たという。

 教師としてはどうなのか。

 同校の生徒は、「生徒思いのいい先生です」ときっぱり。同様の評価をする生徒はほかにもいた。

 しかし別の生徒は、「毒舌なところがある」と話す。

 生徒側は警察に被害届を提出。精神的ダメージもあり登校できていない。チームメイトには「もう私はソフトボールをやめる」と話しているという。男性教諭は謹慎中で「こたえました」と反省の日々を送る。同校は外部の有識者を入れて懲戒処分を検討する。

自分に厳しいから生徒にも厳しさを…

「被害生徒は辛い思いをしているはずです。ソフトボールが好きだから続けられる環境を整えてあげたい」

 と前出の校長補佐。

 学校には「おまえのアゴもはずしてやろうか」と脅迫めいた内容も含め、抗議の電話が鳴り止まなかったという。

 男性教諭のポリシーは「凡事徹底」。日々の積み重ねが自分を創る、という意味だ。

「自分に厳しい男だから生徒にも厳しさを求めてしまったのかもしれない。生徒がケガをしないように夜遅くまでマシンに乗って黙々とグラウンド整備する姿をよく見かけました」(前出の校長補佐)

 それで体罰でケガをさせるとは本末転倒。生徒を思う愛のムチだったとしても許されず、時代遅れも甚だしい。