本拠地の高雄で始動!林統括コーチは「3年以内の優勝」の目標掲げる

 台湾プロ野球(CPBL=中華職業棒球大聯盟)に来季加入する新球団「TSGホークス(台鋼雄鷹)」が9月24日「CAMP IN KAOHSIUNG」のスローガンのもと、本拠地となる台湾南部、高雄市の澄清湖球場で始動した。TSGは今年3月2日にCPBLと「加盟意向書」を締結、審査を経て4月末には正式にリーグ加盟が認められ、6月8日に加盟セレモニーを行った。来季は2軍戦を戦い、2024年に1軍リーグ参戦を予定する。台湾プロ野球が6球団となるのは2008年以来だ。

 2019年にリーグに再参入した味全ドラゴンズが、実質的には1999年に解散した球団の「復活」であったのに対し、完全にゼロからのチームづくりとなるTSGホークスは3月末、元CPBL職員で「日本通」の劉東洋氏をGMに指名した。6月には、モンキーズ(lamigo及び楽天)でいずれもヘッドコーチを務めるなど、豊かな指導経験を持つ林振賢氏が統括コーチに、そして7月には、統一7-11ライオンズで監督経験もあるCPBLの通算盗塁記録保持者、黄甘霖氏が外野守備コーチに就任した。

 原石を発掘しようと、CPBLが開催するものとは別に独自の新人トライアウトを実施、7月11日のドラフト会議では30人の選手を指名した。このうち29人と契約、さらに育成扱いで3人と契約し、合計32人が初代メンバーとなった。この中には、9月に米フロリダ州で行われた「第30回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」で2位となった台湾代表メンバー3人も含まれる。

 キャンプ初日には、米国から帰国し隔離中だったW杯代表の3人、兵役中の1人を除く28選手が参加。熱心な野球ファンもつめかけた中、選手たちはプロになった喜びと緊張とが入り混じった初々しい表情でキャンプインセレモニーに臨んだ。

 あいさつに立ったTSGグループの謝裕民会長が「5年以内の優勝」を目標に掲げ、球団首脳も「3年以内のプレーオフ進出」とつけ加える中、現場を預かる林統括コーチは、選手にとってはプレッシャーこそが力になると強調、「3年目でのプレーオフ進出では少し遅い」として、自身の経験をもとに「昔、lanewベアーズ(楽天モンキーズの前身)は、ここ高雄を本拠地として、3年目で優勝した。みんな3年以内に優勝しようじゃないか」と呼びかけ、ファンの喝采を浴びた。セレモニー、簡単な練習を終えた後には、サイン会やグッズ販売も行われ、ファンと交流した。

井端氏を臨時コーチに…守備やバント、走塁の強化を期待

 TSGホークスは来季まず2軍公式戦に、2024年からは1軍公式戦に参入する。残り1年半の間は戦力の底上げをしながら、ハード面の改善・強化を進め、興行面でもゼロからファン、スポンサーを開拓していかなければならない。残された時間は多くはなく、劉GMは目の回る忙しさとなるだろう。

 台湾プロ野球はかつて、八百長などの不祥事によるチーム減が続いた。6チーム体制の復活は、連盟にもファンにとっても悲願だった。TSG自身の努力はもちろんだが、CPBLや地元・高雄市も協力して盛り上げていってもらいたい。林統括コーチが優勝目標として掲げた3年目の2026年シーズン、TSGホークスがどのようなチームに成長しているのか、そして、澄清湖球場がどのような球場に生まれ変わっているのか、今から楽しみだ。

 最高齢で25歳、高卒選手はじめ10代の選手も多いTSGホークスにとっては、何よりも育成が重要だ。劉GMの話からも、指導者の人選、育成に対する重視ぶりがうかがえる。就任時点から日本人指導者の招聘プランを明らかにしており、8月末には秋季キャンプに、客員守備コーチとして元中日の井端弘和氏を招くと発表した。

 現役時代、日本球界を代表する守備の名手として知られた井端氏を招聘した理由について劉GMは、ドラフト会議で1巡目1位で指名したショートの曾子祐をはじめとした内野の守備強化を挙げた。また、バントや走塁についても自身の技術を伝えてほしいと期待を示した。

 井端氏は10月初旬にも台湾入りし、8日にも指導を開始すると伝えられている。曾子祐も、井端氏から日本式の守備技術や、きめ細やかさを学びたいと期待している。今回は2週間の滞在が予定され、劉GMは来春も機会があればと「井端講座」の定例化を希望している。

 さらに9月16日、公式フェイスブックに「かつて台湾プロ野球で旋風を巻き起こしたあの男が高雄に帰ってくる」と投稿した。「豊富な国際経験」「簡単に三振をしない男」などのヒントもあったため「一体誰だろう」と大きな話題となった。

打撃部門を支えるのは「台湾のイチロー」と呼ばれた元助っ人

 監督が決定していないこと、また現役時代の三振数の少なさから、現在は富邦ガーディアンズで顧問をつとめる名将、洪一中氏の監督就任発表を予想する声も出たが、劉GMはこれを否定。17日に発表されたのは、1997年に「台湾のイチロー」と称され巨人入りしたルイス・デロスサントス氏の打撃コーチ就任だった。

 現在55歳のデロスサントス氏は、台湾プロ野球では「路易士(ルイス)」の登録名で、1994年から96年まで兄弟エレファンツ(中信兄弟の前身)でプレー。穴の少ないスプレーヒッターで、3シーズン平均打率.361、首位打者1回、最多安打2回、三塁手としてベストナイン2回と活躍、22試合連続安打、89打席連続無三振など数々の台湾プロ野球記録を打ち立てた。当時は呉念庭(西武)の父、呉復連氏ともチームメートだった。

 こうした好成績を評価し巨人が獲得したものの、日本では適応に苦しみ1軍では結果を残せなかった。翌98年に台湾球界に復帰、当時存在したもうひとつのリーグ「TML」で高雄エリアを本拠地とする雷公に入団すると、103試合で.打率358、リーグ1位の143安打、96打点と大活躍した。結局、台湾では5年計462試合で、通算打率.353、88本塁打、365打点をマーク。台湾のファンにとっては“レジェンド”外国人選手のひとりだ。

 韓国やメキシコ、イタリアなどでプレーした後、指導者に転じ、ブルワーズのマイナーリーグなどで主に打撃コーチとして活動。近年は、母国の野球スクールで20歳前後の選手の指導を担当していたといい、まさに若いホークスナインの指導者として適任といえる。本人は「現役時代とてもよくしてくれた台湾の人々に恩返しをしたい」と話し、すでに選手たちの映像をチェック。自らの打撃技術を全て伝えたいと意気込んでいる。

来秋には日本プロ野球チームとの交流も予定

 TSGホークスはさらに9月22日、30年以上のキャリアをもつ野球日本代表のヘッドトレーナー、河野徳良氏の国際顧問就任を発表した。球団トレーナーやフィジカルコーチの統括、人材育成のサポートのほか、将来的には河野氏の出身校である日体大との提携も検討しているという。河野顧問もキャンプに参加。選手たちはさっそく体幹強化を目的とした厳しいトレーニングを課せられており、悲鳴をあげながら充実した表情を見せている。

 劉GMはキャンプ初日、さらに日本人のトレーニングコーチを1人招へいすると発表し、10月末から11月初旬にかけて来台予定だと説明した。かつてメジャーリーグでプレーした某有名日本選手の専属トレーナー兼トレーニングコーチだったという。また、来春のキャンプで、投手と守備部門にさらに2人の日本人指導者を招く予定だともした。

 メディアにTSGホークスは「日本スタイル」のチームなのかと問われた劉GMは否定しなかった。ただ米国と日本、どちらのスタイルが良いかという話ではなく、台湾の野球、TSGホークスの選手たちに適したモデルをいかにしてみつけだすかどうかが重要だと強調している。

 さらに、日本のプロ野球チームとの交流プランもあるという。台湾はここにきてようやく、新型コロナウイルスの水際対策の緩和や国境開放に向け大きく動き出したところ。この秋から来春の交流は困難だというが、来年の秋季キャンプについてはすでに青写真を描いており、進展があった段階で公表したいとしている。

 選手たちには、一流コーチ陣の指導の下、めきめきと実力をつけてもらい、2024年シーズン、台風の目となることを期待したい。読者の皆さんにも、「日本通」GMが率い、日本人指導者や日本と縁のあるコーチが鍛える、台湾の「若鷹軍団」TSGホークスの動向に、ぜひ注目していただきたい。(「パ・リーグ インサイト」駒田英)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)