テレビは改革を求められている(写真:すとらいぷ/PIXTA)

民放各局はコア(ターゲット)とも称される若い世代に向けた編成・制作方針にシフトしていると言われるが、依然としてテレビと親和性が高く、人口も多いシニア世代をどう扱うべきなのか。世代研究、マーケティング分析に定評ある原田曜平氏に伺った。

Z世代の特徴は 「Chill&Me」


『GALAC』2022年11月号の特集は「Z世代とシニア世代」。本記事は同特集からの転載です(上の雑誌表紙画像をクリックするとブックウォーカーのページにジャンプします)

「Z世代」と「シニア世代」を考えるうえで、まずZ世代と「ゆとり世代」を比較してみます。この2つの世代は時代背景がまったく異なっていて、ゆとり世代が高校生、大学生のとき、ちょうどリストラという言葉が流行りました。彼らは生まれたときから不景気で、クルマ、お酒、恋愛、旅行から離れてしまった。ひと言で表すと「Small Life」。消費金額、行動範囲ともに上の世代よりも小さくなっているのが、ゆとり世代の特徴です。  

一方、Z世代になると状況が一変します。アベノミクスには賛否両論ありますが、彼らの世代には追い風になりました。就職活動は超売り手市場で、成績の良くない先輩でも大手企業に入社しているので危機感はなく、転職もしやすい。スマホやSNSも発達し、綺麗な写真や面白い動画を投稿すればフォロワーが増えてプチスターになれて、検索すればすぐに答えがわかるようになった。

Z世代はスマホとSNSを中学3年生ごろから使い始めた最初の世代で、複数のSNSを使いこなして発信欲も自意識も高い。彼らを表すと「Chill&Me」(まったりとして自意識が高い)が特徴と言えます。

ひと括りにできないシニア世代  

そしてシニア世代ですが、シニア世代のなかにも世代論があることを理解する必要があります。 シニア世代の一番上を「昭和ひと桁世代」とすると、この世代は戦争に負けて、焼け野原の貧困状況から世界第3位の経済大国にまで上りつめました。モーレツ社員と言われ、ひたすら働いた世代です。

日本的な家父長制、男尊女卑が色濃く、例えば『巨人の星』の星一徹のような男性像がイメージされます。長男だけが優遇され、次男や三男、そして女性は家庭内での地位が低いのが当たり前でした。ようやくテレビ、ラジオが普及し、時代を象徴した映画『青い山脈』で、女学生が他校の男子生徒と一緒に歩くだけで大騒ぎになってしまうという時代でした。

その下の世代が「戦後焼け跡世代」。「もはや戦後ではない」という有名な言葉とともに思春期を迎えた世代です。右肩上がりのいざなぎ景気を経験しています。男性はまだモーレツ社員で、3C(自動車、クーラー、カラーテレビ)が憧れ。映画『太陽の季節』や『狂った果実』が流行り、郊外の団地に住むカルチャーを作りました。

その下が「キネマ世代」(タモリに代表されるプレ団塊世代)。戦後復興期に育ち、青年期に高度成長期、40代で迎えたバブル経済の崩壊まで右肩上がりの成長を続けました。一番幸せな世代と言えます。彼らが若い頃に空前の映画ブームがあり、みながアメリカに憧れました。ただ、この世代まではお見合い結婚が多く、家父長制も続いています。

その下が「団塊(の)世代」(ビートたけしの世代)で、ベビーブーム世代とも言われます。とにかく人口が多いので競争意識が強く、封建制と革新性が彼らの特徴です。学生運動が盛んでしたが、多くの人は上の世代が作った企業に入り社長を目指しました。

第一次テレビっ子世代として欧米文化(ビートルズやマクドナルド)を自分のものとして取り入れ、『週刊少年マガジン』などに代表される若者文化、子ども文化が作られ始めた世代でもあります。統計上は初めて恋愛結婚がお見合い結婚を抜いた世代で、都会ではこの世代から女性の専業主婦化が進んだと言われています。

その下が「しらけ世代」(ポパイ・JJ世代、明石家さんまの世代)です。政治に対して距離を置き、とにかく人生を楽しもうという世代です。サザンオールスターズ、ユーミン(松任谷由実)などおしゃれな音楽が流行し、上の世代とはガラッと志向が変わります。ニュートラ、ハマトラ、そしてDCブランドブームなどファッションの流行を牽引して消費の担い手になりました。トレンディドラマが流行し、自由恋愛になった世代とも言えます。

シニア世代のメディア環境を俯瞰してみる

次に、シニア世代のメディア環境を見てみます(下図参照)。シニア世代のメディア環境は、地上波テレビが圧倒的です。テレビの利用率は93.7%に上ります。利用時間帯も6〜23時と一日中視聴されていて、視聴ジャンルも多岐にわたります。


一方で、新聞の利用率は56.2%と約半数にまで減っています。すでにシニア世代の約4割が利用しているLINEに新聞が抜かれる時代も近いと思います。この状況をテレビも他人事と思っていると、新聞と同様の道を歩む可能性もあります。シニア世代にとってLINEは、情報ツールというよりは孫、子どもとの連絡ツールですが、その存在は大きくなっています。

地上波の次に利用率の高いBS放送は、夜帯の時代劇や映画、ドキュメンタリーが視聴されています。一方で、テレビ録画もプレゼンスが減ってきて、録画してまで視聴したい番組が少なくなっているとも言えます。利用率ではGoogle検索、Yahoo!検索が次に続きます。高齢者も約3割が検索していることがわかる。そしてユーチューブは高齢者の25.7%が使っています。これはテレビにとってはかなりの脅威でしょう。

特に、団塊世代は定年退職の間際にPCに触れているので、デジタルとの親和性がギリギリあります。ユーチューブなどにも触れやすいことから、令和の時代はよりテレビ離れが加速する可能性があるということになります。また、各メディアの利用率はシニア世代の中でも、団塊世代を境にきっぱりと数値が分かれることもわかっています。

Z世代は必ずしもテレビを見ないわけではない

一方、Z世代のメディア利用を考えるうえで外せないのがSNSの存在です。フェイスブック以外のSNSは圧倒的にZ世代が利用しています。SNSはZ世代のものと言っていいでしょう。

ただ、Z世代のテレビの利用率も、中高年とあまり差がありません。「若者のテレビ離れ」と言われますが、この世代は実家に住んでいる率も高いため、テレビに触れている人はいまだに多いのです。ただし、中学3年生でスマホを持つと徐々にユーチューブの利用率が高くなり、女性は高校生、男性は大学生ごろにテレビを上回っていきます。

次にテレビの視聴時間に注目すると、利用率は中高年とさほど変わらないものの、視聴時間が短くなることが明らかになっています。つまり特定のコンテンツだけを視聴するスタイルになっている可能性が高いと思われます。そうなると、コンテンツに多額の制作費をつぎ込める動画配信サービスに比べて、制作費が下がっているテレビは不利です。しかもそのコンテンツ選択はグローバル競争のなかで起こっているため、日本のテレビにとっては非常に厳しい状況だと言えます。

ただ実は、ユーチューブは夜帯しか視聴されておらず、それ以外の時間帯はテレビが強いんです。また視聴ジャンルを見ると、テレビではバラエティ、ニュース、国内ドラマ、アニメなどで、ユーチューブでは音楽(MV)、ゲーム実況、ユーチューバー動画と、視聴されるジャンルが異なることもわかっています。

シニア世代を切り捨て若者を狙う方針は再考を

テレビがシニア世代を繋ぎ止めるためのキーワードは、「シニア」と「ファミリー」の2つです。まず「シニア」についてですが、これまでさまざまなシニア世代にインタビュー調査を行ってきましたが、多くの人が「テレビはつまらなくなった」と言っています。それは当然で、事実としてシニア向けのコンテンツがテレビからどんどんなくなっています。

令和の時代にはかつてないほど高齢者の人口が多くなります。にもかかわらず、テレビ業界がシニアを切り捨てるかのような方針を示したのが本当に良かったのか、大きな疑問があります。

たしかに、平成の時代はシニア世代の消費が予想より伸びず、広告主が離れてしまいました。ただ、令和の時代は消費欲が旺盛なしらけ世代や新人類世代によって、日本で初めてアクティブシニア市場が生まれ、広告主がシニア向けに広告を打てば物が売れるという時代が来るかもしれないんです。世代別に貯蓄率を見ても、新人類世代やバブル世代は貯蓄率が低く、お金を消費している。だからこそ、高齢者切り捨ての(に見える)コア視聴率への方向転換はまったく時代に合っていません。

これから消費欲が高い世代が高齢者になることを考えれば、人口が多いところにマーケティングするのが王道です。むしろなぜ簡単なことができていないのか不思議なくらいで、迷走しているようにも感じます。Z世代はゆとり世代に比べて消費するとはいっても、インスタ映えするカフェに行く程度で、クルマを買ってくれるわけではない。消費欲も高い世代を切り捨ててZ世代を狙っていくのが本当にいいのか。改めて方針を検討する必要があると思います。

また、コア視聴率に舵を切ったため若い世代向けのコンテンツが多く制作されましたが、どれもヒットに結びついていないのが現状です。それは制作側が「若い人たちは同世代の若い人を見たい」と勝手に思い込んでいるからでしょう。

昨今、ニュース番組などで若いコメンテーターが増えていますが、視聴者はあえて経験値の低い若い人の話を聞きたいでしょうか? しかも若い世代の感覚をきちんと研究しないまま番組が制作され、ポイントがズレてしまっていて、結果としてZ世代もシニア世代も見ないという状況が生まれてしまっています。Z世代に人気のTikTokでは、おじさんティックトッカーがブレイクしていて、若い世代も経験値のあるおじさんの話を聞きたいと思っています。

新しくて懐かしい世代を繋ぐファミリー番組に活路を

そして、「ファミリー」というもう1つのキーワード。先日「ダウンタウンvs Z世代」(日本テレビ)という番組が話題になりましたが、これが1つの正解だと思いました。つまり、上の世代も下の世代も幅広い世代が家族で視聴できるような番組です。

Z世代は親世代とも仲が良く、例えば映画『シン・ウルトラマン』や『トップガン マーヴェリック』は親子で見にいくケースも多かったといいます。親世代はノスタルジーを感じ、Z世代は新しさを感じるコンテンツが一番効率がいいということです。コロナ禍にTikTokで流行った山下達郎や竹内まりやなどのシティポップもその例で、そういった番組をもっと作っていく必要があると思います。

またサービス面では、TVerをいまだに見逃し視聴と考えているテレビマンが多すぎます。データからもZ世代にとってはスマホが第一です。スマホ上ですべての番組が視聴できない、1週間しか見逃し視聴ができないサービスでは、ネガティブに捉えられてしまいます。民放各局は個別に動画配信サービスに取り組んでいますが、はっきり言って非常に愚かな施策だと感じます。スマホでアクセスできるプラットフォーム上に全番組が視聴できるサービスを早急に作る必要があります。

そうすれば、もちろんチャンスはあります。地上波テレビのクオリティはまだまだ高いですから、スマホで好きなときに、好きな場所で、好きな人と、いつでもテレビ番組が視聴できるとなれば、Z世代ももっと視聴します。一方で、いつまでもそうしたサービスができなければどんどんテレビから離れていってしまうでしょう。(談)

原田曜平(はらだ・ようへい)広告業界で各種マーケティング業務を経験した後、2022年4月より芝浦工業大学教授に就任。信州大学特任教授、玉川大学非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究およびマーケティング全般。「さとり世代」「マイルドヤンキー」「Z世代」「伊達マスク」などの言葉の生みの親。

インタビュー・構成/西川博泰

(原田 曜平 : マーケティングアナリスト)