2023年WBCメンバー予想
高木豊

 新型コロナウイルスの影響で延期された「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)の第5回大会が、2023年3月に開催される。栗山英樹監督が率いる"侍ジャパン"は、2009年の第2回大会以来となる3度目の世界一に挑む。

 10月4日には、11月に行なわれる『侍ジャパンシリーズ2022』(オーストラリアと2試合)に臨むメンバーが発表された。WBC本番では大谷翔平などMLBの選手が招集される可能性もあり、激しいサバイバルが予想される。

 来年3月、日本代表のユニフォームに袖を通すのは誰になるのか。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、2004年のアテネ五輪では日本代表の守備走塁コーチを担った高木豊氏に、WBCの侍ジャパンのスタメン予想や理想の戦い方について聞いた。


WBCに参加するかどうかが注目される大谷翔平。二刀流での起用はあるか

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── 今回のWBCで最も注目されているのが、大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)。同僚のマイク・トラウト選手がアメリカ代表の主将として参加することが発表されたこともあってか、大谷選手もWBCへの出場に意欲を見せています。

高木豊(以下:高木) 以前、WBCを現地で取材をした時に知ったんですけど、メジャーのチームは所属する投手に対して球数制限があるんです。各国の代表に選ばれた選手に対して、「この投手はよくても悪くてもここまで投げさせてくれ」とか、チームの調整法を課してるわけです。そういう感じで気を使わないといけないのであれば、いくら大谷とはいえ、メンバーに入れるのを躊躇してしまいます。

 打者としても、たとえば「2打席だけにしてくれ」ということがあると、チームがしらけてしまう。それでも呼びたい選手ですが......3月は日本もそうですけど、オープン戦の時期です。しっかりと仕上げてきてくれるんだったらいいですが、オープン戦の代わりに試合に出るといったモチベーションであれば、ちょっと違うかなと思います。

── もし大谷選手の参加が決まった場合、気になるのは起用法です。二刀流でいくのか、野手か投手のどちらかに専念するのか。高木さんはどう考えますか?

高木 先ほども言ったように投げるほうで気を遣わないといけないことが多いなら、打者に専念してもらってもいいんじゃないかと。DHだけで、盗塁もガンガンしてもらう。それがOKなモチベーションであればウェルカムですよね。打者でも投手でも一流なので、どうしても二刀流で使いたくなりますけど、打者・大谷がいるだけでとてつもない戦力ですから。

── 現状で考える、侍ジャパンのスタメンは?

高木 1番はセンター・塩見泰隆(ヤクルト)です。足が速くてパンチ力もある。それと、ああいう性格の人間が1番に入るとみんなが明るくなるというか、いい意味で"引きずられる"ような感じがします。

── では、2番を任せるのは?

高木 2番はDH・大谷。"2番最強論"などと言われたりしますけど、大谷を2番に置けば、それだけで相手は怖いです。日本は基本的に細かい野球が得意ですが、「細かいだけじゃないよ」と、他国にハッタリをきかせておきたいです。

── クリーンナップはどうでしょうか?

高木 3番はライト・鈴木誠也(シカゴ・カブス)ですかね。プレミア12や東京五輪で4番を務めていますし、国際大会の経験と実績も十分。それなら、なぜ4番じゃないんだって話ですけど、今なら4番はやはり村上宗隆(ヤクルト)になるでしょう。

 日本人最多本塁打記録を更新する56本塁打、史上最年少での三冠王など、誰も異論はないと思います。僕は日本でプレーしている選手が4番を打つべきだと思っていますし、東京五輪の決勝のアメリカ戦でホームランを打ちましたよね。あのような特別なプレッシャーのかかる試合で、シーズンと変わらない打撃ができる。あれを見たら、やっぱり村上ですよ。

 5番はファースト・浅村栄斗(楽天)です。鈴木同様、プレミア12、東京五輪を経験してきていますし、いざという場面での集中力、気合いの入り方がいい。これまでの国際大会同様に5番が最適だと思います。

── 次に6番ですが、東京五輪では柳田悠岐(ソフトバンク)選手が任されていました。

高木 6番は五輪同様に柳田で。五輪ではセンターでしたが、塩見をセンターに入れているのでレフトにしました。五輪でレフトを守っていた吉田正尚(オリックス)も当然候補ですが、守備力を考えて柳田にしました。

── 7番以降はいかがでしょうか?

高木 7番はショート・坂本勇人(巨人)で、9番がキャッチャー・甲斐拓也(ソフトバンク)。この2人は実力も経験もありますし、特にキャッチャーは経験がいるポジションですから。

 8番・セカンドは山田哲人(ヤクルト)か菊池涼介(広島)、もしくは牧秀悟(DeNA)もいますが、守備のことを考えると牧のスタメンはないですね。山田か菊池、どちらか調子がいいほうを使えばいいかなと思います。

── 次に投手ですが、柱となる投手は?

高木 やはり山本由伸(オリックス)、千賀滉大(ソフトバンク)、そして佐々木朗希(ロッテ)です。この3人が先発の柱になると思います。

── 佐々木投手の真っ直ぐとフォークが、メジャーの打者相手にどのぐらい通用するのか楽しみですね。

高木 過去には、ダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)や松坂大輔(元西武)の真っすぐが国際大会で通用しなかったんですが、佐々木の真っ直ぐは160km超え。なかなか初見で打つのは難しいと思いますし、向こうの打者は落ちる球に脆さがあります。160km超えの真っ直ぐと150km前後のフォークのコンビネーションはそうそう打てませんよ。

── 2番にDH・大谷というお話がありましたが、DHで起用してからクローザーで登板させる考えはないですか? もしくはメジャー同様の"大谷ルール"が認められるのであれば、先発投手として登板したあとにDHで試合に残り、打席に立つことも可能になります。

高木 使えるんだったら使いたいですよ。でも、開催されるのが夏場ならまだしも、
シーズン前の3月なので、やはり故障のリスクなども含めて二刀流では使えないですね。

── クローザー候補ですが、東京五輪のときは栗林良吏(広島)投手が全5試合に登板し、2勝3セーブと金メダル獲得に大きく貢献しました。

高木 今年の栗林はそんなによくありませんが、落ちるボールを持っているので、外国人打者を相手にごまかしはきくと思います。大勢(巨人)も変則投法でボールが動くので、すごくいいと思います。

 ただ、現状でクローザーを選ぶとすれば、平野佳寿(オリックス)です。今年は調子がよく、メジャーの経験もある。前回のWBCでも中継ぎとしていい働きをしていましたからね。

── 侍ジャパンはどう戦っていくべきですか?

高木 やはりスモール・ベースボールですよ。第1回と第2回の大会では優勝という結果を出していますし。日本人にも大谷のような選手が出てきましたが、チームとしてパワーで対抗していこうとするとやられますよね。日本の強みは何かといえば、やはり細かい作業なんで。

 足は使いたいです。なので、近本光司(阪神)や郄部瑛斗(ロッテ)を選んで、塩見と1、2番を組ませるとかもいいですね。外国人投手はけっこう隙がありますし、走れると思うんです。二盗も三盗もできますよ。だから、走れるチームを作っても面白いなと思うんですけど、それは国民が納得いかないでしょうね......それが代表チームの難しいところです。

── レギュラーの周りを固めるサブプレーヤーが勝敗のカギを握ることもあると思いますが、やはり足を使える選手になりますか?

高木 そうですね。先ほどスタメンを挙げましたけど、それ以外に連れていく選手は特長を持っている選手がいい。足があって守備がうまい選手であれば、源田壮亮(西武)、先ほど話した近本や郄部、それと周東佑京(ソフトバンク)もいいですね。やはり足を使える選手はほしいです。

 あと、坂倉将吾(広島)は、代表でもサードで使うことはまずないと思うんですが、ファーストとキャッチャーもできますよね。打撃がよくて代打でも使えて、ファーストの守備もうまくはないけどできる、それでいて本職はキャッチャーという選手。こういう広がりがある選手は必要だと思うんです。

── 東京五輪の時の栗原陵矢(ソフトバンク)のような位置づけですね。

高木 そうですね。栗原の場合はキャッチャーをやることはほとんどなかったと思うんですが、坂倉は今でもたまにマスクをかぶったりしていますから。さすがに国際試合でサードを守らせるのは怖いですけどね。ファーストがギリギリでしょうね。打てるキャッチャーを入れて打線を組みたいってことになれば、坂倉を使うのも面白いです。

 おそらくキャッチャーは3枚連れていくと思うので、甲斐は外せないとして、2番手が中村悠平(ヤクルト)か木下拓哉(中日)、3番手に入るのが坂倉だと思います。

── 前回のWBCでは青木宣親(2017年当時ヒューストン・アストロズ)が日本人メジャーリーガーとして唯一参加。リーダーシップを発揮してチームを牽引しました。メジャーリーガーはチームにいてくれたほうがいいですか?

高木 もちろんいてくれたら心強いですが、メジャーリーガーは故障とケガで気を使いますよね。そんなことを言っていたらスポーツにならないと言われるかもしれませんが、まだ体が出来上がっていない状態で使わなきゃいけないんで。もちろん出場が決まれば前倒ししてやってくれるでしょうけど、そのあたりが一番怖いところです。

 ただ、大谷の場合は投手での出場がNGになったとしても、打者としての出場が可能であれば心強いですよね。

── 侍ジャパンは前回、前々回と2大会連続でベスト4。2009年を最後に優勝から遠ざかっています。

高木 WBCには各国のメジャーリーガーも参加しますし、他の国際大会とは違う難しさがあると思います。厳しい戦いになると思いますが、優勝を目指して頑張ってほしいです。