国土交通省が無電柱化を推進する理由とは?

 国土交通省は、1986年から現在にかけて「無電柱化」を推進しており、現に実はかつてに比べると、年間に設置される本数は減ってきています。
 
 国土交通省は無電柱化を進める理由は何なのでしょうか。

実は日本の電柱は減っている? 国が進める「無電柱化」とはナニ? 現状の取り組みとは

 街中で必ずといってもよいほどに目にする電柱ですが、実はかつてに比べると、年間に設置される本数は減ってきています。

【画像】これは悲惨… 災害時の電柱被害の実態を見る!(16枚)

 全国に約3600万本ある電柱ですが、国土交通省は1986年から現在にかけて「無電柱化」を推進しています。

 具体的には、2018年から2020年の3年間に、距離にして約2400kmの無電柱化目標が設定されました。

 2400kmのうち、1400km分は無電柱化法に基づく初の法定計画として設定されたものです。

 残りの1000km分は、台風などの飛来物などにより電柱倒壊の危険性の高い市街地の緊急輸送道路を新たな対象に追加されたものであり「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」において、閣議決定されました。

 1960年代の高度経済成長期では、電柱は年間最大50万本が増設されていましたが、1980年代以降は20万本程度となり、2000年以降は10万本前後と大きく数を減らしています。

 直近では、年間約7.4万本の増加に留めたうえ、年間約0.5万本の電柱の撤去を実現しました。

 関東地域でいうと、東京23区を中心に電柱の数が減っており、そのほか大阪・名古屋の中央3区でも減少傾向をみせています。

 無電柱化を推進する理由について、国土交通省の道路局担当者は「『景観を乱すこと』『災害時の救援活動を妨げること』『通行を妨げること』の大きく分けて3つの指標がある」と説明します。

 電柱は、京都や奈良などを中心とする日本の古き良き景観を持つ街並みに、どうしても馴染みにくいというのが実情です。

 また電柱が歩道や車道の脇に設置されていることから、道幅の狭い場所では、歩行者が電柱を避けて車道にはみ出して通行したり、電柱がクルマ同士のすれ違いの妨げになったりしている様子もみられます。

 さらには災害時に倒壊することで、救援活動をおこなう警察や消防、救急の車両の交通を妨げる要因にもなり得るのです。

 こうした日本の交通状況を考慮しても、できる限り電柱を撤去することは、安全かつ円滑な交通につながるといえます。

 無電柱化では、飛来物などによって電柱が倒壊して周囲の建物を破壊するというリスクも低減され、周囲の建物を守れるというメリットもあります。

 国土交通省では2021年からの5年間で、さらに約4000kmの新たな無電柱化に着手することを計画目標として掲げており、前出の国土交通省担当者は、現在の進捗について次のように説明します。

「現状では、まず『災害時の救援活動を妨げること』の指標を優先した無電柱化を進めています。

 電柱は災害時などに倒壊のリスクがあり、万が一、そうしたトラブルが起きると、救援活動を円滑におこなえません。

 そうした緊急性を考慮して、現在では、各都道府県が市街地の緊急道路として指定している道路沿いの電柱を優先的に少なくしています」

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 2019年時点では「災害時の救援活動を妨げること」の指標に該当する電柱のうち、38%の無電柱化が進められており、2020年では、さらに41%まで進行したそうです。

 そして、現在は2026年までにその数値を52%まで引き上げられるよう、無電柱化の取り組みを進めているといいます。

無電柱化の整備手法と電柱新設の抑制について

 無電柱化の整備手法には、主に「電線類地中化」と「電線類地中化以外の無電柱化」のふたつがあります。

 電線類地中化とは、道路の地下空間を活用して、電線類をまとめて収容する無電化の整備手法です。沿道の各建物へは地下から電線類を引き込む仕組みになっています。

 そして、電線類地中化以外の無電柱化とは、無電柱化したい道りの脇道に電柱を配置し、そこから引き込む電線を沿道家屋の軒下、あるいは軒先に配置する整備手法です。

 また、無電柱化したい主要な通りの裏通りなどに電線類を配置し、主要な通りの沿道の需要家への引込みを裏通りからおこない、主要な通りを無電柱化する整備手法もあります。

 このように無電柱化が進められているものの、新たなインフラ整備のため、毎年、増設されている電柱がゼロにならないのも実情です。

 そのため国土交通省では電柱新設の抑制にも力を入れており、市街地開発事業等が実施される場合は、無電柱化法第12条の規定において電線管理者は「電柱又は電線を道路上において新たに設置しないようにする」としています。

電柱のない美しい街なみ(画像:国土交通省ホームページ)

 都市の再開発では、現在再開発中の地区の約9割が無電柱化を実施しており、引き続きこの取り組みを続ける方針をみせています。

 一方、区画整理をおこなっている地域の無電柱化は、約2割しか進んでおらず、取り組み地区の拡大が課題となっています。

 なかなか一朝一夕には進まない無電柱化ですが、国土交通省を中心に、国が力を入れ続けているのは事実で、近い将来には電柱を目にしなくなる日も来るかもしれません。

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 なお、無電柱化は海外でも取り組まれており、例えば、ロンドン・パリ・ベルリン・ニューヨーク・シンガポール・香港・台北・ジャカルタなど、さまざまな地域にみられ、日本に比べて進んでいる地域が多いのも実情です。
 
 今後、海外に足を運ぶ際には、電柱の少ない景観に注目してみるのも良いかもしれません。