今秋の党大会で異例の3期目続投を狙う中国の習近平国家主席は「ゼロコロナ政策」を掲げている。その影響から、今年春に上海で実施されたのが「ロックダウン」だ。中国では新型コロナの感染が再拡大し、いまも各地でロックダウンが相次いでいる。

【画像】配給の卵からヒヨコが孵化している様子

 しかし、「中国のロックダウンは日本人の想像よりもはるかにヤバかった」と証言するのは、6月まで上海に在住していた高木雅彦さん(仮名、39歳)だ。もともと高木さんは都内で飲食店を経営していたが、3年前に上海に渡り、中国人オーナーのもとで日本人ビジネスマンや中国人富裕層向け高級焼き鳥店の店長をしていた。

 いったい「上海ロックダウン」のどういう部分がヤバかったのだろうか。ロックダウンが解除された後に日本に帰国した高木さんに話を聞いた。(取材・文=押尾ダン/清談社)

◆◆◆

救急車は呼んでも来てくれない

――上海のロックダウンは相当大変だったそうですね。

高木 2年前にイギリスやフランスでロックダウンが実施されたじゃないですか。欧州はロックダウンといっても、運動するための外出は認められていたし、生活必需品の購入や病院への通院などもOKだった。でも、中国はまったく違います。

 本当に家から一歩も外に出てはダメなんですよ。上海のマンションは敷地内にいくつもの棟があり、刑務所みたいに高さ3メートルの壁で囲われているんですが、入り口にバリケードが設置され、数人の警備員が見張っているので、外に出たくても絶対に出られない。マンションの敷地内を歩くことすら禁止されていたんです。


マンションの入り口に設置されたバリケード。(高木さん提供)

――じゃあ、コンビニに食料を買いに行ったり、持病のある人が病院に診察に行ったりすることもダメなんですか。

高木 事前に申請し、政府の許可を得ていなければ病院に行くのもダメです。そもそも、医師や看護師も家から出られないので病院自体がやっていません。救急車を呼んでもきてくれない。

 幸い僕自身の健康状態は良好で、ロックダウン中に体調を崩すこともありませんでしたが、持病のある人や臨月の妊婦さんなどはどうしていたんだろうと、人ごとながら心配になりました。

――病院まで閉めさせるというのはすごい話ですね。

高木 中国のやり方は徹底しています。あの国に何年か住んでいると、「まあ、そういうこともあるよね」と思うだけ。ロックダウンで病院にいけないために命を落とした人もいると思います。

政府配給の卵からヒヨコが孵化する衝撃

――いっさい外出できないのなら、食べ物に困ったはずです。ロックダウン中の水や食料は政府が配給してくれたんですか。

高木 配給はあることはあったんですが、2週間に一度だけなので、全然足りませんでした。しかも、配給される食料の衛生管理がいい加減だったりして、本当にメチャクチャなんです。

 これは僕が撮った動画なんですが、配給の物資を積んだ政府のワゴン車を見ると、住民に配給されるはずの卵からヒヨコが生まれていたんです。しかも、よく見たら、上段のトレーだけじゃなく、二段目のトレーの卵もヒヨコが孵化していた。

――衝撃的な動画です。こんなヤバい卵を政府が配給したんですか?

高木 「冗談だろ?」って思うじゃないですか。でも、中国ではこんな冗談みたいな出来事が普通に起きる。日本だったら鶏卵の生産・出荷・流通の段階できちんと衛生管理を行うのが当たり前ですが、中国はその衛生管理のプロセスがテキトーなんです。

――たしかに、どういう管理をしているのか謎すぎます。

高木 僕は上海にいたとき、中心地の浦西(プーシィ)で高級焼き鳥店の店長をしていたんですが、出入りする食品業者もかなりヤバかったです。豚肉を頼むと、きちんと処理されていない20〜30キロの豚をスーパーの袋に入れて、小汚いヨレヨレのTシャツを着た業者が店の入り口にドンと無造作に置いていくんです。

 従業員も鶏肉のレバーを仕込んだ包丁とまな板で、平気でほかの食材を処理しようとする。いくら注意しても、見ていなければ何度も同じことをするんです。中国は食の安全に関しては本当にいい加減です。

3日間飲まず食わずで過ごした日本人ビジネスマン

――政府の配給が2週間に1度だけで、しかも配給される物資がそのありさまだとすると、食べ物はどうしたんですか。

高木 最初、僕らは「ロックダウンは5日間」と聞いていたんですよ。だから5日分の食料だけを確保しておいたんですが、最終的にロックダウンは2カ月間に及んだので、当然、食料は全然足りません。「ヤバい、食べ物がない!」ってあせりました。

 そこで、あの手この手を使って食べ物を入手しました。たとえば、あるときマンションの窓から外を見ると、白い防護服を着た医療従事者が座って弁当を食べていたんです。そこで、部屋に居候させていた店の中国人従業員に「あの弁当を売ってもらえるよう交渉してこい」と行かせました。僕は中国語が話せないので。

――マンション棟の外に出てはいけないはずですが。

高木 生きるか死ぬかの瀬戸際なので、そんなルールを守っている場合じゃなかったです。その医療従事者も事情がわかっているので、彼ら用の弁当を10個ぐらい持ってきてくれました。ただし、親切でやってくれたわけじゃなく、当然のように手を差し出してきました。これは「金を払え」っていう意味です。

 しかも、それがすごいボッタクリ料金なんですよ。中国のコンビニ弁当は1個17元ぐらいなんですが、その医療従事者が要求してきたのは1個50元。10個で500元(日本円で約1万円)です。背に腹は代えられないので言い値を払いましたが……。

――ほかの住民は食料をどうやって調達していたんですか。

高木 外に出られなかったのでわかりませんが、居候させていた中国人従業員の友人たちはツテをたどり、市場価格の3〜5倍の値段で食料を手に入れていました。飲み水もないので、水道水を大量に鍋で煮沸消毒し、それをペットボトルに入れて冷蔵庫で冷やして飲んだり。本当にガチのサバイバル生活でした。

――中国政府はゼロコロナ政策のためにロックダウンを実施する一方、市民の食料とかはいっさい考えてくれないんですね。

高木 まったくお構いなし。日本から工場を視察しにきたある日本人ビジネスマンはホテルに戻ることも許されず、2カ月間のロックダウン中、ずっと工場で生活していたそうです。その間、食べ物をどうしていたのかはわかりませんが、ロックダウン解除後にその人に会ったらガリガリにやせ細っていました。

検査を受けないと、QRコードが赤色になり生活できない

――もはやロックダウンというより、戦時中の戒厳令です。食べ物だけじゃなく、メンタル面もきつかったと思います。

高木 ロックダウンは8週間続きましたが、3週目から5週目ぐらいが精神的に一番きつかったですね。しかも、ロックダウンが解除される前も解除された後もそうなんですが、中国では市民がPCR検査をほぼ毎日受けなくちゃいけないんです。

 検査を受けて陰性だと携帯のQRコードが緑色になって買い物ができるんですが、受けていないとQRコードが赤色になって、どの店や施設にも入ることができなくなる。中国はキャッシュレス決済などのIT分野では日本と比べ物にならないくらい先進的で、政府がQRコードを使って国民を管理しているんです。

――それほどIT分野では進んでいるのに、食品の衛生管理などでは信じられないほど遅れているのが中国の面白い点です。

高木 そうですね。たしかに中国政府のやり方はメチャクチャですし、中国人もいい加減な人が多いんですが、彼らはとにかく陽気です。ロックダウン中もバカみたいに明るいんですよ。

 だから、ロックダウン解除後に久しぶりに日本に帰ってきたら、街や電車内のピリピリした雰囲気に驚きました。みんなきちんとマスクをして、電車内でも気味が悪いほどシーンとしていて……。その点に関しては中国が懐かしくなりましたね。

◆◆◆

 民主主義国家のロックダウンとはあまりにもかけ離れた上海のロックダウン──。習近平国家主席のゼロコロナ政策が続く以上は、今後も中国各地で同じような目に遭う住民が増えそうだ。

※2022/10/11 20:10……一部表現を修正しました。

(清談社)