戦争の契機やそれが長引く理由にはさまざまなものがありますが、要因の1つに国家の方針を決める指導者の存在があります。歴代アメリカ大統領の性格とアメリカが参加した戦争の期間について調査した研究では、「大統領がナルシストだと戦争が長引きやすい」という関連があると示されました。

Looking Like a Winner: Leader Narcissism and War Duration - John P. Harden, 2022

https://doi.org/10.1177/00220027221123757

U.S. presidential narcissism linked to longer wars

https://news.osu.edu/us-presidential-narcissism-linked-to-longer-wars/

There's An Intriguing Link Between US Presidents And The Wars They Wage : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/theres-an-intriguing-link-between-us-presidents-and-the-wars-they-wage

研究当時はオハイオ州立大学の博士課程に在籍しており、記事作成時点ではリポン・カレッジで政治科学の助教を務めているジョン・ハーデン氏は、「アメリカ大統領の性格と戦争の期間」についての関連性を調査しました。

ハーデン氏は、1897年にアメリカ大統領に就任したウィリアム・マッキンリーから2009年まで大統領を務めたジョージ・W・ブッシュまで、合計19人の大統領の性格を過去のデータセットに基づいて評価しました。データセットを作った研究者は、大統領に関する著作を持つ歴史家や専門家の知識を利用して200以上の質問に基づく人格検査を完成させたとのことで、ハーデン氏はこれを基に「自己主張の強さ」「興奮を求める傾向」「謙虚さ」「コンプライアンス」「素直さ」というナルシシズムに関する5つの項目を分析したとのこと。



分析の結果、最もナルシシズムの傾向が強かったのは1963年〜1969年に大統領を務めたリンドン・ジョンソンであり、続いて1901年〜1909年のセオドア・ルーズベルト、1969年〜1974年のリチャード・ニクソンとなりました。

一方、最もナルシシズムの傾向が弱かったのは1897年〜1909年のウィリアム・マッキンリーであり、続いて1909年〜1913年のウィリアム・タフト、1923年〜1929年のカルビン・クーリッジという結果でした。

ハーデン氏は今回の研究における戦争を、「年間1000人以上の戦死者を出した2国間の持続的な戦闘」と定義し、調査期間中にアメリカが関与した11の戦争をピックアップ。大統領のナルシシズム傾向との相関関係を調べました。

その結果、マッキンリーやアイゼンハワーのようにナルシシズムの傾向が低いアメリカ大統領は、国家の利益を第一に考えて戦争をなるべく早く終結させる傾向がみられました。たとえば、アイゼンハワー大統領は1953年の就任後、行き詰まっていた朝鮮戦争を終結させる方向に動きました。一方でナルシシズムの傾向が高いルーズベルトやニクソンは、自分のニーズと国家の利益を切り離すのに苦労して戦争が長期化したとハーデン氏は主張しています。

全体的に、ナルシシズムのスコアが平均以下だった11人の大統領は、戦争継続日数が平均136日にとどまったのに対し、ナルシシズムのスコアが平均以上だった8人の大統領は、平均613日も戦争を継続させていました。もちろん、戦争継続には大統領の性格以外の要因も関わってきます。しかしハワード氏が、戦争が起きている場所の地形、その大統領が戦争を開始したのか前任から引き継いだのか、大統領の軍事経験や任期、議会のパワーバランスなどの要因を制御しても、依然として大統領のナルシシズムは戦争長期化に関連していたとのことです。



大統領のナルシシズムが戦争継続日数に影響する理由として、ハワード氏は「戦争終結時に大きな成果が得られることを期待する」「自国の戦闘能力や自分の能力に自信を持っている」「自己イメージを保護するため自らの間違いを認めにくく、間違った戦略をとってしまう」といったものを挙げています。

ハワード氏は、大統領が必ずしも戦時中にすべての証拠を合理的に見ているとは限らず、国益よりも自分のイメージに関心がある大統領もいると指摘。「ナルシシズムの傾向がある大統領は、他の大統領よりも自分のイメージを気にする時間が長くなります」「よりナルシストな大統領は、自分たちが勝ったと言える場合にのみ戦争を終了させる傾向があり、何らかの勝利宣言を行う方法を見つけるために戦争を拡大します」「こうした動機、特に膨れ上がった自己イメージを守りたいという欲求が、必要以上に戦争を長引かせる原因となっています」と述べました。