携帯型武器の完成形としての「手裏剣」

忍者の武器」と聞いて、大抵の人が真っ先に思い浮かべる手裏剣。

映画や漫画などで、忍者がシュシュッと放つスタイルが有名ですが、実際はどのような武器だったのでしょうか?

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実は手裏剣は、忍者の主たる攻撃の手段というわけではありませんでした。足止めや敵を混乱させるために使われることが多かったとされています。

もともと、武士が短刀や針などの武器を相手に投げつけて追手から振り切る「遁術(とんじゅつ)」というものがありました(ちなみによく忍者系エンタメ作品で使われる「土遁の術」「火遁の術」もこれに由来します)。しかし短刀は重くかさばるため、たくさんの数を携帯することはできません。針であれば攻撃力が足りず、投擲の仕方にも工夫が必要です。

これらの携帯武器の利便性はそのままに、攻撃力を改良したのが手裏剣だったのです。

手裏剣は折り紙でも人気の題材

ところで、敵の足止めを目的にする手裏剣術のことを留手裏剣(とめしゅりけん)といいます。つまり、もともと手裏剣という言葉は武器そのものではなく、一種の「剣術」だったわけです。

この留手裏剣には忍手裏剣(しのびしゅりけん)、静定剣(せいじょうけん)、乱定剣(らんじょうけん)がありました。

まるでマンガ!さまざまな使い方

先に挙げた留手裏剣の3種類について説明すると、まず「忍手裏剣」は忍者が手裏剣を打って敵を足止めするもの。私たちがすぐに思い浮かべる、あの手裏剣シュッシュッという技ですね。

次に「静定剣」は手裏剣ではなく、短刀などの刃物を投擲することです。

また「乱定剣」は茶わんややかん、砂や灰など、身の回りの物を投げつけて危機を脱する手裏剣術です。

物品を投げつけて逃げるなんて、やぶれかぶれの行動のようですが、実は戦闘術の一種として位置づけられていたのです。

私たちが想像する手裏剣とは全然違いますが、いずれにしても「敵を振り切る」ことが目的になっているのがわかりますね。

さらに、手裏剣は防弾チョッキのように使われてもいました。基本的に手裏剣は袋に入れて腰にさげて携帯しましたが、数枚は胸に忍ばせて防弾や防刃にしていたのです。

懐に忍ばせておいた金属によって敵の攻撃を防ぐなんて、まさにマンガですね。

土産物屋でも「手裏剣」は大人気(Wikipediaより)

もちろん武器として使用することもあります。そのような手裏剣術は責手裏剣(せめしゅりけん)と呼ばれ、手裏剣自体にも殺傷力を増す工夫が施されました。

たとえば松明や火薬を使用した火勢剣(かせいけん)、目つぶしや眠り薬などで相手の無力化を狙う薬剣(やくけん)、毒を使う毒剣(どくけん)があります。

中でも毒剣は手裏剣の刃に毒を塗って敵の命を仕留めるもので、暗殺目的で使用されていました。

使われた毒は、トリカブトなどの猛毒のほかに、不衛生な糞尿を塗って敵に破傷風を負わせることもあったようです。

どれをとってもマンガのような使い方ですが、昔の人も考えることは同じだったのでしょう。

棒手裏剣の難しさ

手裏剣の形にもさまざまなものがあります。手裏剣と聞いてよく思い出される平べったい形のものを平型手裏剣といい、棒状のものを棒手裏剣といいます。

さまざまな忍具

 

平型手裏剣は手裏剣に回転をかけやすく、初心者でも投擲しやすいというメリットがあります。一方、短刀に比べるとはるかに軽量化された武器であるとはいえ、鉄の塊なので重さがあり、何枚も携帯すると任務に支障をきたすというデメリットがありました。

そこで、さらに携帯性を高めたものが棒手裏剣です。

棒手裏剣は鉄の棒の先端を尖らせた形状になっています。細く軽くなったことで何本も携帯することができ、殺傷力も上がりました。

また、投擲の際に風を切る音も少なくなったため、相手に使用を悟られないという利点があったようです。

しかし、棒手裏剣は平型手裏剣に比べると投擲が難しく、狙った箇所に打ち込めるようになるには鍛練が必要でした。

私たちがエンタテインメント作品で慣れ親しんできた手裏剣ですが、使用に際してはかなりの試行錯誤があったんですね。

参考資料

刀剣ワールド三菱マテリアル株式会社