【AFP=時事】英国のエリザベス女王(Queen Elizabeth II)が死去し、人々が長時間にわたっていら立つこともなく弔問のために並び続けた様子には、英国らしさがよく表れていた──。

「これが私たち英国人のやり方なのです。雨の中でも絶対に並びますから」。テムズ川(River Thames)沿いの長蛇の列にいた29歳の男性はそうAFPに話した。

 市民が並び始めたのは、9月14日午後に一般弔問が始まる48時間以上前。

 15日早朝、女王のひつぎが安置されている国会議事堂のウェストミンスターホール(Westminster Hall)の尖塔(せんとう)が見える位置までようやく進んだ女性は、「みんなハッピーで、とても親切です」と話した。

 ひつぎの前で写真を撮影したり歩き回ったりすることは厳しく禁じられていたため、ようやくたどり着いても、その場で女王との最後のお別れをする時間は数秒しかない。

 それでも、列をなす人々は楽しそうに、周りの人と食べ物を分け合いながら静かにおしゃべりに興じていた。

 行列の様子はユーチューブ(YouTube)などでライブ配信された。あるツイッター(Twitter)ユーザーは「英国人は、生まれてきてからずっとこの行列に備えて訓練してきた。いわば行列のラスボスだ」と投稿。

「この行列には英国人の良さがよく表れている」と書き込んだユーザーもいた。

■戦時中に生まれた「神話」

 列を乱さずに並び続けることは、フェアプレーや礼儀正しさという概念とともに英国人が自ら考える国民性の一面とされてきた。

 テニスのウィンブルドン選手権(The Championships Wimbledon)や野外音楽祭のグラストンベリー・フェスティバル(Glastonbury festival)で入場に何時間も待たされるのも、運営側の不手際というより「体験」や「伝統」の一つと見なされている。

 英国人の国民性をテーマにした1946年刊行のベストセラー書「How to be an Alien(外国人になる方法)」の著者で、ハンガリー生まれの英国移民ジョージ・マイクス(George Mikes)は「冷静沈着な英国人が情熱を傾ける」のが行列をつくることだとして、「英国人はたとえ一人でも整列し始める」と述べている。

 英ケント大学(University of Kent)の社会史家ケイト・ブラッドリー(Kate Bradley)氏はAFPに、第2次世界大戦(World War II)中の配給制度で、パンやバターなどを手に入れるために長い列をつくった頃から、行列を英国人らしさとする一種の神話ができあがったと指摘する。

「戦前にも人々は列はつくっていましたが、戦時中は辛抱することが美徳とされるようになったのです」

■それでもやはり行列にはいらいら

 ブラッドリー氏ら専門家は、現代の英国では世界のどの国とも同じように、人々は大抵いらいらしながら並んでいると指摘。整列するのは英国人だけとか、誰もがきちんと並んでいるなどと考えるのは間違いだと強調する。

 英リバプール・ジョン・ムーアズ大学(Liverpool John Moores University)の歴史学者ジョー・モラン(Joe Moran)氏は、戦時中に配給が行われていた際も暴動を鎮圧するために警察が出動する事態があり、並んでいる人同士の口論は絶えなかったと話す。

「個人的には、5分以上並ぶのは耐えられませんね」とブラッドリー氏。

「他の国でも行列はできるのに、英国人はよそよそしくて堅苦しく、控えめというイメージを示すのに行列はぴったりなのです」

 エリザベス女王の弔問の際には、行列につきものの「割り込み」の軽減にテクノロジーが役立った。

 並んだ人々には自分の位置が分かる電子ブレスレットが配られ、仮設トイレに行ったり、食べ物などを買いに行ったりする時に列を離れても、簡単に元の場所に戻れるようになっていた。

【翻訳編集】AFPBB News

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