四国IL徳島に加入したペドロ・アルバレスは昨季のキューバリーグ最多勝

 ソフトバンクのリバン・モイネロ、中日のライデル・マルティネスら数多の好投手を輩出するキューバ。そんな野球大国からまた一人、この夏に来日した右腕がいる。2021-22シーズンの国内リーグで11勝3敗、防御率2.90の好成績を収め、最多勝に輝いたペドロ・アルバレス投手だ。しかし、新天地に選んだのはNPBではなく四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスだった。

 青空が広がる徳島市民吉野川運動広場(南岸グラウンド)。吉野川の広大な河川敷に簡易なバックネットとベンチを設置した練習場で、キューバ代表歴もある27歳は、NPB入りを目指す若手選手たちとともに汗を流していた。2019年にはペルーのリマで行われたパンアメリカン競技大会に出場、来年3月の「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」に選出される可能性も秘めている。

 そんなアルバレスは「日本でプレーしたかった」と、長らく来日を熱望していたというのだ。キューバのナショナル・ニュースでも扱われる日本のプロ野球の映像を見て「日本の投手はコントロールがよくて、テクニックもある。世界的に見て、投手の育成がしっかりしている」と感じた。そして代理人やソフトバンクのモイネロ、アルフレド・デスパイネ、中日のジャリエル・ロドリゲスらに相談。「日本のレベルは高いから刺激になるよ」との助言を受け、自身初の海外挑戦の舞台に選んだ。

 しかしペナントレース真っ只中にいきなりNPBとはいかず、8月10日に徳島への入団が発表された。「契約が取れるなら、NPBでプレーしたい」と先を見据えたアピールの場と位置づけ、独立リーグの中でも施設などの環境が充実している徳島を選んだ。合流して間もない8月12日には、見る者の度肝を抜く圧巻の3者連続三振デビュー。四国ILの後期シーズンでは5試合登板で12回を投げ、防御率2.25、被打率.182、17奪三振、6四球と噂に違わぬ実力を存分に見せつけた。

オフの日は好まずトレーニング、理由は「日本に野球をしに来ているから」

 投球スタイルは「自信があるのはコントロール。あとは変化球とのコンビネーションと打者との駆け引き」と語る通りの技巧派だ。スライダーとカーブに加え、シンカーのような軌道で沈んでいく魔球、チェンジアップで打者を手玉に取る。直球の最速は93マイル(約149キロ)だが、「コンディションが整ってくれば、スピードももっと出る」と不敵な笑みを浮かべる。

 さらには、異国で活躍するために何よりも重要な勤勉さを兼ね備える。オフを好まず、体幹のトレーニングや整骨院での体のケアに充て、休日に「ジムに連れていってほしい」と球団スタッフに連絡を入れて驚かせているという。「自分は日本に野球をしに来ているので、どうやったらいい成績を残せるか、いいコンディションにできるか。丸一日休むよりも、コンディションを整えつつトレーニングしたいんだ」と野球一筋の理由を明かす。

 それでも「日本人のほうが絶対に真面目だよ。練習時間が長いし、キューバなんか比じゃないよ」と謙虚に笑う。「短い時間でパッとやるのがラテンの文化というか練習なんだ」と質にもこだわっているようだ。まだ来日して2か月にも満たないが、食生活も問題なし。「日本食は美味しいものがいっぱいあるし、特にお米が気に入っている。唐揚げも好き、醤油もいいね」と楽しそうに話す適応力の高さには目を見張る。

 アルバレスの活躍もあり、徳島は後期シーズンを優勝。前期優勝の高知との年間総合優勝決定戦に臨んだが、惜しくも敗れて怒涛の来日1年目が幕を閉じた。オフにはNPBとの契約を目指すが「それが叶わなかったとしたら、もう1回徳島でプレーしたい。同僚もすごく優しくて、徳島が気に入っているんです」と明かした。キューバ最多勝の実績に加え、日本での経験も得た右腕の動向に注目だ。(工藤慶大 / Keita Kudo)