「疲れたから甘いものを食べてリラックスしよう」「カフェインを取るとすっきりして疲れが取れる」……。これらは本当なのか。産業医で精神科医の井上智介さんは「よく言われている疲労回復やストレス解消の方法の中には、誤解も多い。逆にストレスの元になっていたり、本当は疲れているのに疲労を感じにくくするだけのものもある」という――。
写真=iStock.com/AngiePhotos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AngiePhotos

■「甘いもの」がストレスのもとに

「疲労回復やストレス解消にいい」と言われる食べものや行動はいくつかありますが、中には誤解もあります。

代表的なのが、「甘いもの」です。

仕事で頭を使い、脳が疲れると、チョコレートやアメ、グミなど甘いものを口にしたくなります。脳はエネルギー源として糖分(ブドウ糖)をたくさん消費するので、糖分を欲してしまうわけです。

しかし甘いものをたくさんとると、ストレス解消どころか、さらなるストレスを生み出す恐れがあります。

甘いもの、つまり糖分を大量に摂取すると血糖値が急上昇します。そして、それを下げるために、膵臓(すいぞう)は、血糖値を下げるためのホルモン「インスリン」を必要以上にたくさん分泌し、血糖値を急激に下げてしまうことがあります。血糖値が下がりすぎて低血糖状態になると、脳が必要とするエネルギー源の糖分が行き届かず、頭がぼーっとしたりしてしまいます。

こうした血糖値の乱高下によって、イライラして集中力が続かなくなったり、体に大きなストレスがかかって、さらに疲れを感じてしまうことになるのです。

しかし、甘いものを食べた直後に軽い運動をすると、血糖値の乱高下を防ぐことができます。軽いストレッチをしたり、デスクから離れて廊下や階段を歩いたりという程度でOKです。体を動かすと、胃腸以外にも全身の血の巡りがよくなって、胃腸での糖の吸収がゆっくりになるため血糖値の急激な上昇を抑えることができます。「甘いもの」と「軽い運動」をセットにすると、余計な疲れやストレスを防ぐことができるので、ぜひ覚えておいてください。

エナジードリンクにも注意

特に気をつけてほしいのが、エナジードリンクです。眠気覚ましとして朝食代わりにエナジードリンクを飲むという人も珍しくありませんが、エナジードリンクには、かなりの量の糖分とカフェインが入っています。

自動販売機でも買えるメジャーなエナジードリンクを例にとって調べてみると、糖質は約46g含まれています。角砂糖1個の糖質が4gですから、エナジードリンク1本あたりに、角砂糖11個分以上の糖質が入っていることになります。なかなかの量ですよね。それを短時間で飲むので、血糖値は急激に上昇するでしょう。血糖値の乱高下を招いてしまうので、体にストレスを与えることになってしまいます。

■カフェインは「疲労を感じにくくさせる」だけ

同じエナジードリンクを見ると、カフェインが約140mg入っていました。マグカップ1杯分のコーヒーより少し多いくらいです。

そもそもカフェインは交感神経を刺激して覚醒させる作用がありますが、疲労回復にはききません。

カフェインは、脳が疲労すると生成される「アデノシン」という物質と、構造式が非常に似ています。アデノシンは、アデノシン受容体に結合すると、覚醒作用のあるヒスタミンの放出を抑制するので、眠くなります。アデノシンが鍵だとすると、アデノシン受容体は鍵穴の関係です。

ところが、カフェインが先にこのアデノシン受容体という鍵穴に結合することで、アデノシンの結合を邪魔してしまいます。このため、ヒスタミンの放出が抑制されず、眠気を感じにくくなるのです。

カフェインを摂取すると、ちょっとスッキリしたと感じるのは、このためです。しかし、あくまでも眠気を感じにくくなるだけで、疲労が回復されたわけではありません。つまり、本当は疲労がたまって、アデノシンが増えているにもかかわらず、カフェインのせいで、そこに気づけないということです。

エナジードリンクは、含まれる糖分やカフェインの作用を考えると、「ここぞ」という時に使うのはよいのですが、毎日漫然と何となく飲むものではないといえます。特徴を知って、上手に使ってほしいと思います。

■休日の寝だめは体内時計を狂わせる

産業医をしていると、「平日は忙しいので、休日に寝だめをしている」というビジネスパーソンにもよく出会います。でも、実はこれも、やめた方がいい行動です。休日に寝だめをすると、リフレッシュするどころか、余計にストレスがたまります。

そもそも人間の体は、寝だめができるようにはできていません。睡眠には「借金」はできても、「貯金」はできないのです。

休日に「寝だめ」をしようとたくさん寝てしまうとどうなるか。昼まで寝てしまうと、体内時計のリズムが乱れてしまい、夜になっても自然な睡魔が訪れません。さらに、次の出勤時に、体が時差ボケのようになってしまい、結局朝から疲れや倦怠(けんたい)感を感じたままになってしまうのです。

疲れを残さないためには、平日と休日の睡眠時間のズレは2時間までにとどめましょう。例えば平日朝6時に起きる人は、休日は朝8時までなら寝てもOKです。10時まででは寝すぎです。

どうしても眠気が取れない場合は、昼寝をしましょう。朝寝はプラス2時間までにとどめ、昼寝で普段の睡眠不足の負債を返済します。ただし、昼寝もしすぎると夜の睡眠に影響するので、昼寝をするなら午後3時までにして、30分以内に抑えましょう。

やはり、大切なのは平日の過ごし方です。平日にきちんと自分にとって必要な睡眠をとって、借金を抱えないことが重要です。

写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

■「タバコでストレス解消」は幻想

特に喫煙者は、タバコについても誤解をしている人が多いように思います。「タバコを吸うとストレス解消になる」というのは幻想です。これは、体の依存と心の依存、両方の理由があります。

ふだんタバコを吸っている人は、ニコチンが切れると、イライラする、集中力がなくなる、気分が落ち込むなど、「離脱症状」といわれる禁断症状が出ます。これが体の依存です。

そんなふうに離脱症状でイライラしているときにタバコを吸うと、ニコチンが体に入って、不快な気持ちが解消されます。イライラがおさまって、タバコはストレス解消に効くと思ってしまいますが、これは単に、離脱症状を緩和させているにすぎず、ストレス解消になっているわけではありません。ただ、それを知らずに「タバコはストレス解消に最適だ」と思うと、より心の依存が強くなっていくのです。

タバコは、急にやめようとしても離脱症状が強く出てしまい、それに耐えられずに結局また吸ってしまうことが多いものです。ですから、やめたい人は禁煙外来がおすすめです。病院なら薬を使って、体に入ってくるニコチンの量を徐々に減らしていくことで離脱症状を緩和させながら、より禁煙の成功率を高めることができます。

■楽しい、心地いいと実感できるか

ストレス解消の方法には、唯一の正解というのはありません。

いくらメディアで「○○はストレス解消に最強」「これならエビデンスがあります」と言っていても、自分に合わなければストレス発散の効果はあがりません。

「運動がいい」と言われても、運動が大嫌いな人にとっては、逆にストレスになってしまうでしょうし、続きません。サウナも、「気持ちがいい」と感じる人がいれば、「しんどくて不快」と感じる人もいます。

自分が「楽しい」「心地いい」という気持ちが持てる方法は、人によって違います。映画、観劇、お笑い、運動、温泉、サウナ……、自分に合ったものを探して、上手にストレス解消してほしいと思います。

----------
井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。
----------

(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)