2022年4月から成田市の消防長を務める青野氏。直撃に応じる足取りはしっかりしていたが……

「青野消防長の行動には呆れます。トップとしての自覚があるのかどうか……」

 と憤るのは、成田市消防本部に務める職員だ。

 人口13万人を擁し、日本最大の国際空港が位置する成田市。その消防のトップを務めるのが、青野穣消防長だ。

「うちの消防は問題が多いんです。2020年に複数の職員が職場で仮想通貨への投資を勧誘していたことで処分を受けているし、2022年2月にはAEDのバッテリーが切れていたせいで、搬送中の女性が死亡する事件が起きています」(前出・職員)

 そんな成田市消防本部を立て直すべく、青野氏は2022年4月にトップに就任した。

 だが着任早々、部下たちが呆れる前代未聞の醜態をさらしていたのだ。

「6月11日、土曜日のことでした。その日の夕方、市内の木造住宅で火災が発生し、救急車1台と消防車6台が現場に急行。必死に消火作業がおこなわれました」(同前)

 一方、市内で部下のX課長を含む数人と、休日の酒席を楽しんでいたのが、青野氏だ。

「火災が発生した際は、消防長をはじめ全職員に通知が届きます。当然、青野氏も知っていたはずです」(同前)

 結局、火災現場の住宅は全焼した。

「20時過ぎにほぼ鎮火できたものの、再燃させないために放水活動を続け、全員が現場を撤収できたのは0時近くでした」(別の職員)

“トップ”からの迷惑すぎる“出動要請”がきたのは、いまだに現場で放水作業が続く最中のことだった。

「青野さんが酩酊し、帰宅途中に成田駅の階段で転倒。意識を失ったと、X課長から119番通報があったのです」(同前)

 通報を受けた、ちば消防共同指令センターは、成田消防署のポンプ車に、出動を命じた。

「専門用語でPA連携というのですが、このとき患者の搬送などを消防隊員が支援するために、救急車と一緒に最新鋭のポンプ車も出動したんです。ただでさえ火災で出払って大変なのに、貴重な1台がトップを救うために急行しました」(同前)

 救急車に乗せられた青野氏は意識が戻り、軽傷だったため病院には搬送せず、家族が迎えに来て帰宅したという。

 だが、現場ではその際、ひと悶着あったという。

「ポンプ車まで来るとは思っていなかったのか、119番した当のX課長が消防隊に向かって『お前らまで来るんじゃねえ。見せ物じゃねえぞ』と怒鳴りました。ひどいですよ。しかも青野氏は8月末にAEDの件で会見を開いたのですが、自分の“不祥事”にはふれませんでした」(別の職員)

 青野氏の見解やいかに。出勤するところを直撃すると「すぐに仕事に行くので、申し訳ない」と立ち去ったが、数時間後、青野氏から電話がかかってきた。

 6月11日の“迷惑利用”について、X課長の“怒号”は聞いていないとしつつ「軽率だったと思います。反省しております」と語った。しかし「処分の対象になるようなことではない」と考えたため、誰にも報告していないという。

 成田市消防本部にX課長の暴言について尋ねると、「そのような発言は発していない」と否定した。

 消防本部内に、トップの青野氏を糺せる人間がいないのは当然のこと。そこで任命権者である、成田市の小泉一成市長に問い合わせた。

「市民の生命と財産を守ることを本務とする消防を司る消防長として、その職責に対する自覚を含め一連の行動が適切であったかについては、今後、事実関係を詳細に確認し、厳正に対応してまいります」

 と、ぴりりとした回答だ。

 一連の事件を、元麻布消防署長で公益財団法人市民防災研究所の理事・坂口隆夫氏はこう断ずる。

「勤務時間外に飲酒をすることも、怪我をして救急車を呼ぶことも問題はありません。しかし、深酒をしたせいで救急車まで呼ぶような事態になったのは、自覚に欠ける行動ですよ。消防長が現場に出る必要がある大火事が発生する可能性は常にありますからね」

 職員たちが消防長に向ける冷ややかな目は、火事すら消せそうだ。