【識者コラム】4-2-3-1は鎌田が好調だからこそ生きる

 日本代表は9月23日、鎌田大地と三笘薫のゴールでアメリカを2-0で下した。

 もっとも、これはワールドカップ(W杯)に向けての調整試合。勝利は喜ばしいが、それで終わっていい試合ではない。そこで、この試合で森保一監督がどんなテストをしたのか、そして、その出来はどうだったか。7つのポイントに絞って整理しておく。

■1:4-2-3-1、3-4-3(あるいは5-4-1)

 2021年10月12日のW杯アジア最終予選オーストラリア戦以降、日本代表がメインとして使ってきた4-3-3は、遠藤航、守田英正、田中碧の3人が中盤を務めることが多かった。この組み合わせでは3人それぞれがボランチを本職にしており、3ボランチ気味になる。そのため守備の破綻は少なくなったが、攻撃の組み立てではうしろが重くなる問題も生じていた。

 そこで4-2-3-1に戻し、1トップとトップ下で積極的にアメリカの守備陣にプレスをかけることでコースを限定し、その結果、ボランチの2人がパスカットからショートカウンターを仕掛けられようになった。

 これは鎌田大地の守備力が計算できるものであり、なおかつ1トップやトップ下が消耗したとしても5人交代制を生かして入れ替えることができるからということもあるだろう。

 森保監督はW杯アジア最終予選でも鎌田のトップ下を2回試したが、当時の鎌田はコンディション不良で今回のような良さを発揮することができなかった。鎌田の復調が4-2-3-1を採用するベースになったと言えるだろう。

 W杯アジア最終予選からE-1選手権の前までで、トップ下に起用された選手は鎌田と久保建英が4回、南野拓実と大迫勇也が1回ずつ。2次予選の時は南野がトップ下でゴールを量産していたが、このポジションで結果を出し、なおかつ現在好調なのは鎌田のみ。となると、鎌田への依存が大きいと言えるだろう。

 後半41分、日本は原口元気を投入して3-4-3(5-4-1)にシステム変更した。森保監督は過去、3バックの使い方を「よりサイドで相手を押し込みたい場合に採用する」としていたが、今回は試合終盤に逃げ切る形として使っている。

 6月10日のガーナ戦でも途中で3バックに変化させたが、この時は大勝しているところでの3-5-2。となると、逃げ切りの形はもっと長い時間試して問題点を洗い出しても良かった。

左サイドの連係は根本的な問題解消には至らず

■2:右サイドのコンビネーション

 前半は伊東純也が内側、酒井宏樹が外側のレーンを使うパターンを試し、後半、堂安律に交代するまでは伊東が外に開いて、後半は右サイドバック(SB)を務めた冨安健洋がインナーラップするパターンを試した。

 これまでの日本代表のパターンを分析すれば、当然相手は伊東を厳しくマークすることが予想され、それにどう対応するかという試みだったはず。今までは伊東が前で張って酒井がうしろを抑えるか、あるいはインナーラップしているパターンが多かったので、伊東と酒井とのコンビにバリエーションが加わった。

 そして回数は多くなかったものの、冨安がインナーラップして変化を付ける攻撃は、冨安のプレーの幅の広さから相手にとって大きな脅威になることを想像させた。ただし、W杯でもう2試合が残っているのみ。右SBとして冨安、伊東とのコンビを試すには時間はない。効果的なのは分かったが、使われるとしたらスクランブルの時、ということになるのではないだろうか。

■3:左サイドのコンビネーション

 一度も試したことがなかった久保の左FW(サイドハーフ)起用は、現在も左サイドの最適解が見つかっていないことを示唆した。

 これまでは南野が内側に入ってプレーするため、長友佑都を左SBとして使い、オーバーラップや南野が空けた穴をカバーさせていた。だが、久保は南野に比べてより外側からプレーすることが多く、そのため左SBは守備力の高い中山雄太が使われた。そして久保が中央に進出した場合は、鎌田がポジションチェンジして補っている。もっとも鎌田が開くパターンで崩せたものの、左サイドのみのコンビネーションではなかなか崩せなかった。

 三笘が投入されてからは、守備の負担を減らして三笘の個人技を生かすいつもの陣形にシフトし、実際にそれで結果を出した。だが、三笘がより効果的なのは相手が疲れてきた後半に投入された時。そう考えると、これまで最多の人数がテストされた左サイドはまだ根本的な問題解決には至っていない。

 ちなみに、ワールドカップアジア最終予選から6月の親善試合4試合までで試された選手は以下のとおりになる。

南野拓実:9回
三笘 薫:7回
原口元気:3回
浅野拓磨:3回
古橋亨梧:3回
前田大然:1回
中山雄太:1回

前線からのプレスをかいくぐられた場合、ロングフィードを連発された場合は次回へ

■4:「相手の嫌がる守備からの攻撃」

 森保監督が常々口にする「相手の嫌がる守備からの攻撃」は、この試合に限っては上手くいった。FWとトップ下、両サイドのFWが相手のパスコースを限定し、ボランチがボールを奪ってはショートカウンターを仕掛ける。アメリカは日本の仕掛ける網をくぐり抜けることができなかった。

 だが問題は、1トップが攻撃の核として機能しなかったという点だ。献身的な動きを見せたものの、味方選手のコースを作るばかりになってシュートの場面に顔を出せない。果たして、この点は起用する選手を変えれば解決できるのか、あるいはチーム全体でゴールを奪うということにして割り切るのか、決断が必要になるだろう。

 また、もう1つの懸念はボールを奪ったあとの動きにある。ダイレクトでボールをつなぐことで相手のプレスをかわしていたが、1試合続けるとなると活動量が必要となる。アメリカ戦が行われたデュッセルドルフの気温は21.5度だったが、11月のドーハの最高気温は26度から29度。どこかで上手くペースを落とさなければ1試合持つことはない。

■5:センターバックの組み合わせ

 CBは前半は吉田麻也と冨安、後半は吉田と伊藤洋輝という組み合わせを試した。だが、吉田がいない組み合わせを試していない。今シーズンのここまでの吉田の出来を考えると、冨安と伊藤という組み合わせこそ試すべきだったのではないだろうか。

■6:GKまで含めた相手プレスのかわし方

 アメリカのプレスが弱かったこともあるが、日本守備陣に圧力をかけられた時、パスをつないでかわし続けた。これはすべて練習どおりで、進歩も見られる。あとはさらに相手の強度が高くなった時を想定しておけるかどうかだろう。

■7:この試合ではできなかったこと

 アメリカ戦で日本がテストできなかったことは2つある。1つは前線からのプレスをかいくぐられて中盤を突破されること。W杯ではアメリカ戦のようにパスカットできることは多くないだろう。プレスをかわされて戻りながら守備をするという場面が出てくるだろうが、そのテストは行えなかった。

 また、最終ラインに向かって何度もロングフィードを出される、日本が不得手とする攻撃パターンにも晒されなかった。本番なら当然相手は狙ってくるはず。森保監督は当然対応策を練っていると思うが、練習試合で試したかったのではないだろうか。

 以上、大まかにアメリカ戦を振り返ってみた。9月27日のエクアドル戦ではまた別のテストが行われ、新たな課題が出てくるはずだ。今回の2試合で出たすべての問題点が11月の事前合宿で解決できる量であることを祈るばかりだ。(森雅史 / Masafumi Mori)