ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第74回は、編集者として活躍する藤田華子さんが、ゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)をコンセプトとしたカフェ&バー〈æ(アッシュ)〉のバーテンダー・大渕修一さんと、バリスタ・石谷貴之さんに話を伺いました。
〈SG Group〉といえば、「世界のベストバー50」で日本最高位の称号を持つ実力派。6店舗目としてオープンしたカフェ&バー〈æ〉は、“ごみゼロの日”である今年の5月30日に、渋谷・神南にできました。世界トップレベルのコーヒーとコーヒーカクテルを提供しながら「ゼロウェイスト」(廃棄物ゼロ)を目指す〈æ〉という店名には、「灰まで使い切る」という意味が込められているそう。消耗品を一切使用せず、物流や食品生産の循環まで見直し、妥協せずに動き続ける姿は、大きく難しい課題に取り組んでいるにも関わらず、いきいきと楽しそう。
バーテンダー・大渕修一さん。バーテンダーでありながら、バリスタとしても活動。2つの領域をシームレスに横断する。バリスタ・石谷貴之さん。2度の日本チャンピオンを獲得するなど、コーヒーシーンにおいて数々の実績をおさめる。
ーー日本だけではなく、海外でも話題のスポットをいくつも誕生させている〈SG Group〉。新店がゼロウェイストをテーマにしたカフェ&バーと聞き驚きました。
大渕さん:もともとは代表の後閑信吾が、廃棄処分問題に取り組みたいと思っていたそうなんです。これだけ環境問題が注目されている中で、私たち飲食店もサステナブルやエシカルという視点を持つのは当然の流れだと。でも、既存の店のテーマをゼロウェイストに変更するのはなかなかハードルが高いので、新しく作る店舗、またこの店の規模感だったらできるんじゃないかというのが始まりです。
ーー色々なタイミングが重なったんですね。お2人は、環境問題への関心は?
石谷さん:ゼロウェイストは、聞いたことがあるなという感じでした(笑)。でも、コーヒーって基本的に一度お湯に通してしまったら終わりなので、店舗では毎日3〜4kgもコーヒーかすの残渣が出ます。そのゴミの量は業界的に課題だったので、何かしたいとは考えていました。
ハイボール。水出しコーヒーを作った後の出がらしに水をさっとくぐらせ、チェリーウィスキーを作る際に活用。マティーニ。柑橘の皮や余ったトニックウォーターを煮詰めてベルモットに。廃棄していたオリーブとレモンピールを生まれ変わらせたオリーブジンを添えて。ブレンドは、浅煎りと深入りを用意。「マシーンの技術が発達するなかでも、ブレンドはバリスタの個性を表現できるツール」と石谷さん。イタリアのエスプレッソマシーン。水も、電気使用量も削減でき環境に優しい。日本で初導入。
ーー実際、どのようにコーヒーのかすを使っているのですか?
石谷さん:たとえば「コーヒーチェリーカヌレ」。カヌレって、フランスで料理を作る際に卵黄が余ってしまうからと作られたサステナブルな精神のお菓子なんです。コーヒーチェリーのタネを焙煎したものがコーヒーなんですが、外の果肉を捨てずに濾過濃縮して作られたエキスをカヌレに入れています。
ーーメニューの「Zero-Waste Classics」は、〈SG Group〉の各バーで出た副産物や残渣を活用したオリジナルのクラシックカクテルシリーズだそうですね。
大渕さん:今日ご用意した「ハイボール」や「マティーニ」にも、コーヒーチェリーウィスキーを使っています。
上段がマグカップ、下段が持ち帰り用のタンブラー。
ーー「ハイボール」、フルーティーで濃厚な味わいですね。炭酸のシュワシュワの中に、ほのかにコーヒーの香りがします…!
大渕さん:水出しコーヒーを作った後の出がらしに水をくぐらせると、コーヒーのフレイバーが残った水ができるんです。これをチェリーウイスキーを作る際に使っています。
石谷さん:バリスタ経験者からすると、出がらしは廃棄してしまうのが当たり前でした。でも捨ててしまうのがもったいないからもう一回使おうと考えられたのは、ゼロウェイストのコンセプトがあったからですね。
ーーゼロウェイストを叶えるため、いかに食品残渣をおいしく生まれ変わらせるか、手間とアイデアが詰まっていることがうかがえます。ちょっとネガティブな質問ですが、大変さや、不便さを感じることはありますか?
大渕さん:たしかに手間はかかりますが、楽しみながらできていますね。そもそも、色々な方の協力がないと叶わないことばかりなので「全部を自分たちで!」と思いすぎていないところもポイントかもしれません。何か解決できないことがあったら、そのことに詳しい企業にお問い合わせをして、パートナーになっていただく。
石谷さん:めずらしいところだと、私たちはテイクアウト用にカップを用意していません。何かしら容器をご持参いただくか、コーヒーハスクで作られたタンブラーをご購入いただく必要があるんです。とある会社がレンタル自転車や充電器のようにコーヒーカップのシェアを始めているので、それに登録しようかなと考えています。
ーーすごい徹底ぶり…!
石谷さん:実は、店舗にはゴミ箱もないんですよ。簡単に捨てないで、どうすればゴミを減らせるか考えるきっかけになっていますね。
ーータンブラーのほかに、販売されているグッズも環境にやさしい素材なんですか?
大渕さん:マグカップと取り皿は、「ボーンチャイナ」といって牛骨などの素材でできているんです。ボーンチャイナの原料の主成分が肥料として有効なことから、生産過程で生じる規格外品や破損品を肥料としてリサイクルする技術が詰まっています。
遊び心も込められたメッセージを背中に。和紙由来の制服。店内にもメッセージが。メニューもペーパーレス。
ーー真っ白なユニフォームも販売されています。店内の壁と、背中の「Fuck(ing) Waste(d)」というワードは?
大渕さん:白字がないと「ゴミ、ダサい」という意味になり、白字が入ると「ベロベロに酔った人」というスラングですね(笑)。後閑のNY時代からの友人であり、現在ファッションデザイナーとして環境問題に取り組むマリエさんがオリジナルでデザインしてくださいました。環境に配慮した和紙由来の繊維を用いたもので、最後は土に還すことができますし、触り心地も良くて。汚れたら、コーヒーかすで染めてみようと話しています。
ーー牛骨素材のマグカップに、和紙でできた制服。正解が見つけにくいテーマのなかで、ひとつひとつみなさんで手探りをしながら実現してきたんですか?
石谷さん:みんなでお店をやろうとなったときから、メンバーで問題を共有して「こういうのあったらいいよね、こうしたいよね」というものを実現してきた感じです。いまは農園の方と協力して、コーヒーかすを実験的に畑に撒いてもらい、そこで育った野菜や食材をまた〈SG Group〉で使うという取り組みをしています。今後はもっとその循環の輪を大きくしたいですし、近い目標として、そんな最初のきっかけ作りをこのお店ができたらいいなと思います。
大渕さん:これは最近動き出したプロジェクトなのですが、持続可能な方法で農園を営む〈ふじいずナチュラルファーム〉さんにコーヒーかすを引き取ってもらい、土に混ぜたら野菜がどのように育っていくのかを一緒に研究していくパートナーになってくださいました。廃棄されたコーヒー豆の活用も、まだまだ課題があるんです。
ーー口にしたら、驚くほどどれもおいしい。そこには地球のためになるストーリーがあるって、素敵です。
石谷さん:SNSをきっかけに来てくださる方が多いんですけど、おいしいと思って食べたカヌレが実はサステナブルなものなんですよとお話ししたりします。知らず知らずにそういうものと関わっていたんだなと気づいてもらえると嬉しいです。
大渕さん:「こういう視点を持ってください」とか、押しつけることはしたくないんです。私たちの活動をちょっとずつ知っていただくことで、街を歩いたり、買い物をするときに、視点が少し変わるーーそれが理想ですね。
〈æ(アッシュ)〉
東京都渋谷区神南1-5-2 川村ビル1F10:00〜23:00火休https://www.instagram.com/ash_jinnan/
外部リンクHanako.tokyo