9月3日のサッカーJリーグの試合で、両手をあげて無抵抗のアビスパ福岡・ゴールキーパーの横を、名古屋グランパス選手が蹴ったボールが通過してゴールという一幕が。この前に、福岡の選手に「紳士協定」を破るプレーがあったのが発端だが、各スポーツ競技にはルールブックにはない不文律が多く存在する―。

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 スポーツにはルールブックには明記されていない『紳士協定』や『暗黙のルール』と呼ばれるものがある。なぜなのか。日本スポーツマンシップ協会代表理事の中村聡宏さんに話を聞いた。

「スポーツはどうやったら楽しめるかという考え方が根底にあります。ルールブックに書かれていること以外の部分でスポーツマンシップにのっとって、お互いにこうしたほうが楽しめるよねと築き上げられた慣習が暗黙のルールや紳士協定と呼ばれます」

 野球、特にメジャーリーグには暗黙のルールが多い。日米で取材をしてきたスポーツライターの梅田香子さんはこう話す。

「メジャーではアンリトゥンルール(不文律)と呼ばれています。日本では知られていないものもあるので、メジャーに挑戦する日本人が現在ほど多くなかった時代には、知らずにやってしまって、報復として死球を受けるということも多かったです」

 具体的にはどのようなものが存在しているのか。

イチローは盗塁で報復死球を受けた

●大差でリードしている状況でバントや盗塁をしない

 勝敗がほぼ決している状況でさらに1点を取りにいく攻撃は相手への敬意がないとされる。

「おおむね7点以上だと盗塁やバントはダメ。イチロー選手も大差の試合で盗塁をして、次の日の試合で死球をぶつけられていました。2018年に行われた18歳以下のワールドカップで、7点差の8回に盗塁をした選手がいたため、9回に先頭だった清宮幸太郎選手が死球を受けるということもありました」(梅田さん)

●大差でリードしている場面でカウント3ボール0ストライクから打ちにいかない

 四球を避けるため、ストライクを取りにきた球を大差で勝っている側のチームが打つのはダメ。日本ハムの新庄剛志監督もメッツ時代にこのタブーを犯してフルスイング。結果は空振りだったが、翌日の試合で死球を当てられた。

●ノーヒットノーラン、完全試合継続中にバントヒットを狙ってはいけない

 記録がかかっている投手に対して、卑怯な攻撃とされている。今年4月に大谷翔平選手がアストロズ戦に先発すると、5回まで1人のランナーも出さない完全投球。ところが、6回の相手の攻撃の際、先頭バッターがバントヒットを狙った。結果はファウルになったが、その打者に対して、味方であるはずのアストロズファンからもブーイングが浴びせられた。

●死球を当てても投手はマウンドで謝ってはいけない

 日本では死球を当ててしまったら、帽子を取るように子どものころから教えられているが、メジャーでは違う。

「松坂大輔選手がレッドソックス時代、死球を当てた後に帽子を取って謝ったところ、すごいブーイングが起きました。大谷選手が死球を当てたときは、暗黙のルールに従ってマウンドでは謝りませんでしたが、そのイニング後に、ベンチに戻るときにぶつけてしまった選手に謝りに行きました。大谷選手の気遣いに相手選手も“すばらしい”と感動していました」(梅田さん)

●投手、野手ともに過度なガッツポーズやパフォーマンスはしない

●2者連続本塁打の後の次の初球は打ってはいけない

選手がケガの際は1度プレーを止める

 では、野球と同じく人気スポーツであるサッカーの場合はどうなのか。

●選手がケガで倒れている場合、ボールを蹴り出して、一度プレーを止める。その後のスローインで相手にボールを返す

 Jリーグ福岡対名古屋の試合で問題となったのもこれを破ったことがきっかけだった。

 問題のシーンは前半21分。福岡に負傷者が出たため、名古屋の選手が一度プレーを止めようと外へ蹴り出した。ルール上、福岡のスローインで再開されるが、名古屋にボールを返すのがマナー。福岡のスローインをした選手は名古屋のゴールキーパーに渡そうとボールを投げたが、これを福岡の選手がカット。ゴール前にいた別の味方選手にパスを出してゴールを決めてしまった。ルール上ではまったく問題ないプレーではあるが、紳士協定を破る得点に名古屋の選手や監督が猛抗議。両チームの監督同士の話し合いの末、福岡は守備を放棄して、名古屋に1点を献上することになった。

●おおむね2点以上リードしている場面で、リフティングドリブルやヒールリフトなどの派手なプレーはしない

 南米の選手はこの不文律を重んじる傾向が強い。国際試合で日本人選手が洗礼を浴びたことがあった。2019年9月5日に行われた日本対パラグアイ戦。日本が2―0とリードしている前半終了間際に中島翔哉選手がリフティングをしながらボールを運んだ。これを挑発的なプレーと受け取ったパラグアイの選手が激怒。イエローカードが出るほどの激しいスライディングを中島選手にして報復した。試合後に中島選手は“ああいうプレーで気分を害した人がいるのだったら、全然それは目的にはしてないので謝りたいです。相手チームの選手は怒っていたので、謝りました”と謝罪したことを明かした。

●点差が開いた場面では負けているチームであっても、過度なスライディングなどの激しいプレーはしない

 試合の結果がほとんど決まっている状況でお互いに不用意なケガを避けるために危険なプレーはしない。

●以前所属していたチームとの試合ではゴールを決めても過度に喜ばない

 仲間であった選手や監督、チーム関係者やファンに敬意を示すため。

卓球やバスケ、相撲にも暗黙ルール

●卓球・完封で勝ってはいけない

 中国が発祥で対戦相手への敬意を込めて、10―0と完封で勝ちそうになったら、わざとサーブやレシーブをミスして相手に1点を与えるのがマナー。日本人では福原愛や伊藤美誠が完封勝ちをして物議を醸した。

バスケットボール・点差と残り時間から考えて、逆転が難しい時間であるガベージタイム(ゴミの時間)ではダンクなどの派手なプレーはしない

●相撲・立ち合い直後、張り手で相手をひるませて有利な差し身にいく張り差しは、格下の力士が横綱にするのはダメ。反対に横綱も張り差しやかち上げをするのも品格がないとされる

●ゴルフ・グリーン上で他人のライン(ボールの位置からカップに入れるために通るであろう軌道上)を踏まない

●自転車ロードレース・集団内で先頭を交代する

 先頭を交代せず、前の人を風よけに使って体力を温存したことで好成績を出したとしても、実力とは認められにくい。

 競技ごとに存在するルールブックにはないルール。正々堂々と楽しくプレーするためには知っておく必要がある“礼儀”なのだろう。

梅田香子 スポーツライターとして、野球以外にもフィギュアスケートやバスケットボールなど多くのスポーツに精通。現在はアメリカに在住し、大リーグを中心に取材活動を行う