原油価格などの高騰を受け、各地の銭湯値上げが相次いでいますが、そのニュースには通常、いわゆる「スーパー銭湯」は出てきません。そもそも、「銭湯」と「スーパー銭湯」はどう違うのでしょうか。また、値上げを伝えるニュースの中で「物価統制令」という言葉が出てきますが、物価統制令とは何なのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

入浴料金の上限、知事が決めるのが「銭湯」

Q.銭湯とスーパー銭湯の法的な位置付けと、料金の面での違いを教えてください。

佐藤さん「公衆浴場法上、『銭湯』も『スーパー銭湯』も、どちらも『公衆浴場』であり、営業するにはどちらも都道府県知事の許可が必要です。そして、設置場所の配置の基準や、公衆浴場を営業する者が講じなければならない必要な措置の基準について、都道府県の条例で定めることになっています(同法2条3項、3条2項)。

これを受けて、各都道府県の条例では、一般に『公衆浴場』を(ア)普通公衆浴場(いわゆる銭湯)と(イ)その他の公衆浴場(スーパー銭湯や健康ランド、スポーツ施設併設の風呂など)に分け、それぞれ基準を定めています。

このうち、『普通公衆浴場』(銭湯)の入浴料金は、『物価統制令』に基づき、都道府県知事が最高限度額を指定する仕組みになっています。スーパー銭湯など『その他の公衆浴場』は銭湯と違い、物価統制令は適用されません」

Q.物価統制令とは何でしょうか。

佐藤さん「物価統制令とは、物価の統制に関する基本法令で、戦後間もない1946年にできた勅令ですが、現在も法律としての効力を有しています。第2次世界大戦後の経済混乱によるインフレ対策として定められ、『物価の安定を確保し、社会経済秩序を維持し、国民生活の安定を図ること』を目的としています。

銭湯は、自家風呂を持たない国民の公衆衛生を守り、地域のコミュニケーションの場にもなっていることから、公共的な施設として、今でも物価統制令の対象になっています」

Q.現在、物価統制令が適用されているものは銭湯のほかにあるのでしょうか。

佐藤さん「制定時はさまざまな物・サービスが対象でしたが、戦後の経済復興に伴い、物価統制令による価格統制は緩められ、1972年には米価が対象外とされ、現在では、銭湯の入浴料金のみが対象となっています」

Q.スーパー銭湯に物価統制令が適用されないのはなぜでしょうか。

佐藤さん「スーパー銭湯は娯楽の要素が強い施設とされ、地域住民の日常生活において保健衛生上必要な施設である銭湯とは区別されています」

Q.物価統制令以外の銭湯とスーパー銭湯の違いを教えてください。

佐藤さん「先述したように、設置場所の配置の基準や、公衆浴場を営業する者が講じなければならない必要な措置の基準が、都道府県の条例で定められています。

例えば、東京都の条例では、面積について、(ア)普通公衆浴場は、『浴室内の浴槽の床面積は、男女各4平方メートル以上』といった具体的な基準を設けていますが、(イ)その他の公衆浴場については、『浴室は、適当な広さのものを設けること』といった抽象的な基準になっています。

また、配置について、(ア)普通公衆浴場については、原則『既設の普通公衆浴場と300メートル以上の距離を保たなければならないこととする』と定めている一方、(イ)その他の公衆浴場については、こうした距離制限はなく、普通公衆浴場に変更しようとするときのみ、距離制限が適用されることになっています。

なお、距離制限については、営業の自由を侵害し、憲法に違反するのではないか、裁判で争われたことがありますが、『既存の公衆浴場業者の経営の安定化を図ることにより、自家風呂を持たない国民にとって必要不可欠な公共的施設である公衆浴場を維持・確保しようとしており、必要かつ合理的である』旨判断され、合憲との判断が下されています(最高裁1989年1月20日判決)」