今年で45回目となる「24時間テレビ 愛は地球を救う」(日本テレビ)が8月27、28日に放送される。コラムニストの木村隆志さんは「出演者の報酬と募金の問題をグレーにし続けている限り、『偽善』『感動ポルノ』などの声は消えないだろう。だが、多額の募金を集められて、視聴率がとれるのだから、放送をやめるという選択肢はない」という――。
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日本テレビ(=2020年5月29日、東京都港区) - 写真=時事通信フォト

■NHKも「感動ポルノ」と批判する番組

今年も8月27日・28日に「24時間テレビ45 愛は地球を救う」(日本テレビ)が放送される。はたして、あなたの気持ちは「待ってました」という期待か、「けっきょく今年もやるの?」という落胆か。

同番組は以前から「出演者はギャラをもらっているんでしょ?」などとチャリティ番組としての立ち位置を指摘され続けていたが、特に2010年代後半は「バリバラ」(NHK Eテレ)の「感動ポルノ」論争もあって批判が沸騰。さらに2020年以降はコロナ禍の感染予防や国民感情も加わって、ネット上が「24時間テレビ」の話題になると否定的な声で覆い尽くされる状態が定番化している。

そんな世間のムードを感じ取ったからなのか、いつの間にか同番組への寄付金は「福祉」「環境」「災害復興」の3点に使われるように変わっていた。実際、主要目的に福祉だけでなく環境保護や復興支援を打ち出すことで、「感動ポルノ」という批判は薄れたかもしれないが、それでも「24時間テレビ」への否定的な声が収まったわけではない。

日本テレビが同番組を放送し続ける意味にはどんなものがあるのか。二十数年前から現在まで、テレビ業界や番組関係者から聞いてきた声を交えながら、その理由を掘り下げていく。

■ビジネス的にやめる選択肢はない

なぜ「24時間テレビ」を放送しているのか。最もシンプルな答えは、「多額の募金を集められて、視聴率がとれるから」だろう。コロナ禍に突入して以降も、募金額9億円弱、世帯視聴率2桁超えを達成し続けているのだから、その影響力が衰えたとは言えず、これだけでも十分な放送意義がある。

ネット上に批判が飛び交う状態が続いても、スポンサーはつき、キャスティングへの影響もごくわずか。募金額と視聴率が大幅に下がらず、スポンサーやキャストから嫌われていない以上、ビジネス的に民放局が「放送をやめる」という選択肢を選ぶ必然性は低い。

■なぜジャニーズばかり起用されるのか

もちろん日本テレビとしては、その募金額と視聴率を保つための策を打ち続けている。その最たるところがジャニーズ事務所の所属タレント起用だろう。たとえば今回も、ジャニーズのタレントがメインパーソナリティーとして視聴率に貢献するだけでなく、募金行動の促進や、チャリTシャツ、LINEスタンプ、スマホARアプリなどの売上増が期待できる。

芸能界に人気者は多くても、「ジャニーズ事務所のタレントの物販力はずば抜けている」というのが民放各局の見方。ファンたちの「○○のために」「○○の実績になるなら」「○○に恥はかかせられない」という献身性は高く、ジャニーズ事務所のタレントを起用しておけば、募金と視聴率の両面で大失敗は考えづらくなる。

さらに日本テレビ全体で見ても、編成戦略を進める上でジャニーズ事務所との関係も保つことは重要であり、「24時間テレビ」はそのための貴重なツール。ネット上で「忖度(そんたく)」「接待」などと言われたところで、ジャニーズの起用をやめる理由にはなり得ず、大勢に影響はない。

ちなみに今年のメインパーソナリティーを務めるのは、ジャニーズのYouTubeユニット・ジャにのちゃんねる(二宮和也、中丸雄一、山田涼介、菊池風磨)の4人。登録者数343万人を誇るだけに、テレビの視聴者に加えて「ネット中心の生活を送る若年層をどれだけ連れてこられるか」を期待されている。

いずれにしてもジャニーズファンの若年層と、チャリティー番組を好む中高年層の両方が狙える「24時間テレビ」は、批判的な人の想像を上回るほど安定感のある番組なのだ。

■社内外の人々を団結させる一体感

とりわけ放送することへの批判が大きかったコロナ禍1年目の2020年は、無観客、ソーシャルディスタンス、スタッフやセットの縮小、キャッシュレス募金、バーチャル募金メンバー、場所を伏せた募金ラン、深夜帯の事前収録など、さまざまな点で対策を進め、制作サイドは「新しい日常での1回目の放送」であることを懸命にアピールしていた。

裏を返せば、それぐらいしなければ放送できないほど反発が大きかったのだが、だからこそ当時は日本テレビ内や系列局の中でも、放送自粛を望む人の声がいくつか聞こえてきた。ところが放送を終えたあとにあらためて話を聞くと、一転して「やってよかった」という声が返ってくる。

では「やってよかった」と思う理由は何なのか。それはやはり前述した視聴率と募金額があってのことだが、もうひとつ挙げられるのが局内外の一体感。以前から社歴の長い人ほど、「24時間テレビ」のメリットに「同一部署内の団結と部署を超えた連携」を挙げる傾向があったが、コロナ禍という逆境下に見舞われたことでそれが深まったのかもしれない。

その団結や連携は全国各地の系列局も同様であるとともに、彼らにとっては「日本テレビとの関係性を保つ重要なイベント」とも言える。さらに、芸能事務所や福祉団体などとの団結や連携もあり、長い年月をかけて築いてきたものだけに「やっぱりやってよかった」「やめなくてよかった」と感じるのではないか。

■日テレ局員最大のアイデンティティー

ではライバル局は「24時間テレビ」の放送をどう見ているのか。放送内容については、ネット上と同じような否定的なスタンスの人が多く、「ウチではやれないし、やらない」という声をよく聞く。

また、“超長時間特番”の難しさを挙げる声も多い。かつて夏の超長時間特番と言えば、日本テレビの「24時間テレビ」とフジテレビの「FNS27時間テレビ」が双璧だったが、「FNS27時間テレビ」は2016年で夏の生放送をやめて、秋の収録放送に変更。2017年からの3年間は9月か11月に放送していたが、コロナ禍に突入した2020年はついに放送休止し、その決断はおおむね支持を集めた。

さらに翌2021年、フジテレビは放送時間を3分の1の約9時間に縮小した「FNSラフ&ミュージック〜歌と笑いの祭典〜」を生放送。同番組は今年も9月10日・11日に9時間生放送されるだけに、フジテレビは夏の“超長時間特番”をあきらめたのかもしれない。

これは「FNS27時間テレビ」がたびたび放送意義を問われていたことに加えて、コロナ禍の国民感情に合わせて番組を縮小させたということだろう。この点は日本テレビの「24時間テレビ」とは対照的であり、フジテレビをたたえる声も目立つ。

しかし、「FNS27時間テレビ」のようなバラエティーは世相や国民感情を踏まえる必要性がある一方、日本テレビの「24時間テレビ」は真逆。チャリティー番組である以上、「難しいことがあったときでも続ける」ことが自然な選択肢となり得る。「困っている人が多いのなら、それを助けようとするのが『24時間テレビ』だ」という思考回路なのではないか。

この3年間、長年番組に関わってきた上層部や管理職ほどそんな思いが強いことは、関係者たちから何度か聞いていた。実際に「ありがとう」という感謝の声をもらえることや、社内外とのやり取りが活性化することなども含め、関係者たちにとって「24時間テレビ」は「箱根駅伝」をしのぐ最大のアイデンティティーであり、やめることは考えづらいのだろう。

■唯一、称賛を集めた2020年の「募金ラン」

最後にもうひとつ挙げておきたいのは、メイン企画のチャリティーマラソンについて。長年、「なぜ走るのか意味不明」「真夏のマラソンは非常識」などと批判の標的となっていたが、2020年の「募金ラン」だけは好評だった。

写真=iStock.com/imacoconut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imacoconut

その理由は高橋尚子率いる「チームQ」が本当のチャリティーマラソンを行ったから。高橋はスタート前から「お金をいただく気持ちはないです」と断言し、逆に「1周5kmごとに自ら10万円募金する」という姿勢を明かしていた。けっきょく高橋、土屋太鳳、吉田沙保里、陣内貴美子、松本薫、野口みずきの6人は、放送終了ギリギリまで計236kmを走り、470万円を募金して感動を誘ったことは記憶に新しい。

しかし、昨年はこの募金システムを採用せず通常版に戻し、しかも10km×10組という断トツの過去最小距離で実施。しかもリレーの第1走とアンカーをジャニーズタレントに走らせる構成で「接待」などと厳しい声にさらされてしまった。今年はEXIT・兼近大樹が4年ぶりの単独ランに挑むことが発表されているが、批判され続けた過去の形に戻ろうとしているようにしか見えない。

チャリティーマラソンに限らず「チームQ」のような「報酬をもらわず募金する」という出演者が増えれば、「24時間テレビ」の放送意義を問う声は減るのではないか。当時、番組内で「“ランナーが走った分だけ募金する”という形は海外では一般的」と連呼していたが、そもそも視聴者の中には「ランナーに限らずチャリティー番組の出演者は無報酬で出演するのが海外では一般的」という見方をしている人が少なくない。

■なぜ募金の使い道をすべて公開しないのか

よほどの不祥事を起こさない限り日本テレビが「24時間テレビ」の放送をやめることは考えづらいが、出演者の報酬と募金の問題をグレーにし続けている限り、「偽善」「感動ポルノ」などの声は消えないだろう。

もしそれができないのなら、「これだけの報酬を払っていて、だからこれだけの募金が集められて、これに使うことができた」などとクリアに情報公開をすれば、それなりの理解を得られるのではないか。

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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。
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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)