「怖くて受診できなかった」「そんなに食べてない、飲んでない!」日々糖尿病診療をしていると、治療を行うにあたり“患者さんの自分なりの節制”によって非常に困ることがよくあると言います。専門医であるめじろ内科クリニック院長・久野伸夫医師が、日々のリアルな体験に基づいて解説します。

最も重要なのは「血糖コントロール」

最近、久しぶりにリメイク版のゴッドファーザー Part III を見ていて、アルパチーノ演ずるマイケル・コルレオーネが低血糖発作を起こし、オレンジジュースとお菓子を慌てて摂るシーンや、妹が用意したインスリンと思われる小瓶から注射器に吸ったものをお腹に注射する場面が目にとまりました。映画にこうした場面が登場することにびっくりするとともに、糖尿病医としてはこの映画の登場人物のリアル感が増してしまいました。

さて日々糖尿病の診療をしていると困ってしまうことが多々あります。血糖値のコントロールさえ良ければ多くは許容できるものの、その最も重要な血糖コントロールが、医師が期待している程良くはならない患者さんがいることです。血糖コントロールが悪いままだと合併症がどうしても避けられません。そのままずっと放っておくと、程度や時間的な個人差はあるものの、失明したり、透析になったり、神経障害から壊疽になって四肢の指や足の切断を余儀なくされます。

7年で眼底出血、失明も。5年後、人口透析に

これまでの私の診療経験からすると、HbA1cが8%以上で無治療のままだと、最短7年で眼底出血して失明になります。まず目が見えなくなり眼科を受診して、糖尿病かもと眼科医に疑われて内科に回ってきます。HbA1cが大体7.0%以上のまま20〜30年経つと、検尿で蛋白尿が認められるようになり、その後採血での血清クレアチニン値が異常になると、約5年後に人工透析になります。

その段になって、「蛋白尿が結構出ているし血清クレアチニンも異常値になってきたから、あと5年ぐらいで透析になるかも」と話すと、「そんな話聞いてないよ!」と急に怒り出してしまうのです。ずっと前から診察の時に聞かされているはずなのに、と思ってしまいます。

また透析は嫌だからと急に食事療法や運動療法を頑張り出す方もいます。内心「ちょっと始めるのが遅いのだけど…」と思ってしまいますが、少しでも透析になる期間が延ばせればと応援して継続してもらいます。

手足先が壊死…意外に多い「怖くて受診できなかった」という人

神経障害は、HbA1cが7%以上で大体3年経つと、かかとのアキレス腱反射というものが無くなります。小学生の時に膝頭の下をたたくと足が無意識に跳ね上がる脚気反射のかかとバージョンです。ひどい場合ですと受診時に“あっ!”と落胆してしまうのですが、指や足先が炭のように黒ずんで壊死になって受診される方もいます。

受診されるときのHbA1cは8%以上ある方が多く、経過では最初に手の指先や足先からしびれが起こり、数年後に感覚が鈍くなり、切り傷などの痛みに鈍感となって、そこからばい菌が入り感染を起こして、骨が溶けてしまうガス壊疽を起こしたり、糖尿病の動脈硬化から来る血行障害と相まって壊疽を起こしたりします。「怖くて受診できなかった」と言われるのですが、もっと早く受診していてくれれば、と思うことがあります。

これらの合併症で将来困らないように、と治療をしているつもりですがなかなか上手くいきません。自分の診療の未熟さもありますが、糖尿病治療の難しさは患者さん自身が3大欲求の一つである“食欲”と対峙しなければならないことです。どんな強い薬を使っても食事の量が多ければ糖尿病は良くなりません。一方で、弱い薬でも適切な食事量であれば良い血糖値を維持することができます。

多くの患者さんの節制は“自分なり”

ちょっと責任逃れかもしれませんが、実際思うところは患者さんの努力と医師の指導や薬の加減は50:50のように思います。「つい出されると食べちゃうんだよね〜、残すのはもったいないから」とか、「お米は減らせるんだけど、パンは大好きで止められないわ〜」とか、「美味しいものが一杯あるからね、仕方ないよ」とか、食べなければ落ちるはずだけど体重90kg維持している人が「そんなに食べてないんだけどな〜」など、その通りかもしれませんが、診療しながらため息が出てしまいます。

それに糖尿病の悪化因子は食事だけではありません。アルコールも大敵です。「そんなに飲んでないよ〜」と飲んべいさんは言いますが、減らしたつもりでも日本酒換算で3合以上は飲んでいたりします。食事の減らし方もお酒の節制も、治療に必要なレベルではなく、“自分なり”になのですから良くはなりません。

食事が駄目でも運動ならばと思うのですが、「忙しくて運動する暇が無いんだよな〜」とか、梅雨時だと「雨が降っていて外に出られないからね〜」とか、夏になると「最近暑くて。外に出て熱中症になると困るからね〜」、また、冬になると「寒くて外に出られないわよ。風邪引いちゃうじゃない」など。そしてこのコロナ禍では「外出して感染すると困るからね」と、いつなら運動できるのだろう、と思ってしまうことが多々あります。

日々糖尿病診療に当たっている医師の多くは、同じような気持ちで診療していると思います。糖尿病患者さんには患者さんなりの言い分があるかもしれません。好きでなった病気でもないのですから。しかし、病気になったからにはどうにもなりません。気持ちを切り替えて、少しでも将来起こりうる合併症を避けられるよう、治療に努めていただきたいと心から思います。この内容を少しでも参考にしていただいて、前向きに治療に当たっていただければ幸いです。

久野 伸夫

めじろ内科クリニック 院長

日本糖尿病学会専門医