粉薬とは異なり、一定量の服用や持ち運びが簡単な錠剤やカプセル剤に関する新しい研究結果が発表されました。この研究によると、服用者の姿勢によって錠剤の吸収が妨げられるケースがあり、姿勢によっては錠剤が溶けるのに1時間以上の差が生じることもあるそうです。

Computational modeling of drug dissolution in the human stomach: Effects of posture and gastroparesis on drug bioavailability: Physics of Fluids: Vol 34, No 8

https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0096877

You're Probably Taking Your Pills Wrong, New Study Finds : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/youre-probably-taking-your-pills-wrong-new-study-finds

ジョンズ・ホプキンズ大学の研究者が、錠剤やカプセル剤が人間の体内でどのようにして溶け、腸内で吸収されるかをシミュレーションするという研究を実施しました。この研究によると、錠剤を最速で吸収するための理想的な姿勢は、背筋を伸ばして座るのではなく、「体を右に傾けること」だそうです。

ジョンズ・ホプキンズ大学で流体力学について研究しているコンピューターサイエンティストであり、この研究に携わったRajat Mittal氏は、「自分の薬の飲み方が正しいか間違っているかを考えたことはありませんでしたが、今では錠剤を飲むたび必ず正しい姿勢について考えるようになりました」と語っています。

即時性には劣るものの非侵襲的であるということで注射よりもはるかに重宝される錠剤やカプセル剤といった経口薬は、胃で溶かし、腸で体内に吸収されるよう設計されています。ビタミン剤などの吸収速度を気にする人はいないかもしれませんが、錠剤やカプセル剤などの経口薬の吸収速度は、「鎮痛効果が現れるまでの時間」や「血圧を安定させるまでの時間」にも関わるため、非常に重要です。

Mittal氏ら研究チームは、34歳男性の高解像度ボディスキャン画像をベースに人間の胃のコンピューターモデルを作成。Mittal氏ら研究チームが作成したコンピューターモデルは「StomachSim」と呼ばれており、流体力学および生体力学を用い、錠剤が消化管を移動して栄養の吸収が始まる小腸の先端部分である十二指腸にたどり着くまでをシミュレートしています。なお、StomachSimを用いたシミュレーションでは4つの異なる姿勢で、「薬剤が十二指腸に届き吸収されるまで」が検証されています。

検証された姿勢は「背筋を伸ばして座るもしくは立つ」「体を右に傾けて座るもしくは体を右に倒して横になる」「体を左に傾けて座るもしくは体を左に倒して横になる」「体を後ろに倒して座るもしくは寝る」の4つ。シミュレーションの結果、「体を右に傾けて座るもしくは体を右に倒して横になる」という姿勢では、薬剤が胃の最も深い部分に滑り込み、「背筋を伸ばして座るもしくは立つ」という姿勢と比べ、薬剤が2倍の速さで溶けることが判明しています。これに対して、「体を左に傾けて座るもしくは体を左に倒して横になる」という姿勢では、「背筋を伸ばして座るもしくは立つ」という姿勢と比べ、薬剤が溶けて十二指腸で吸収されるまで最大5倍の時間がかかることが明らかになりました。

そのため、Mittal氏は「年配の人、座りがちな人、寝たきりの人にとって、左と右のどちらに体を傾けたり倒したりして薬を飲むかは、大きな影響を与える可能性があります」と言及しています。なお、過去の研究でも、「体を右方向に傾けることで食べ物を腸に排出する速度が速くなる」ことが明らかになっています。

さらに、研究チームは胃の動きが悪くなる胃不全麻痺と呼ばれる症状にある場合、錠剤の吸収で何が起きるについてもシミュレートしています。この結果、胃の消化力がわずかに減少しただけでも、姿勢の変化と同様に、錠剤やカプセル剤を溶かして十二指腸に排出するまでの速度に顕著な違いが生まれることが判明しました。

なお、科学系メディアのScienceAlertは「当然、薬物や食べ物が胃・腸・血流に乗るまでには多くのことが起こります。そして、コンピューターシミュレーションは、有用ではあるものの、複雑なプロセスを非常に単純化したものであることも念頭に入れておいてください」と記しています。実際、胃の中にある液体・ガス・食べ物も消化に影響を与える可能性がありますが、研究チームはこれらを考慮してStomachSimを構築したわけではありません。