猛暑の中でもマスクを外さない人が少なくない日本に外国人が思うことは(写真:node/PIXTA)

海外では新型コロナウイルス感染予防のワクチン接種が進むにつれてマスク着用義務が緩和されつつある。例えば、アメリカでは連邦レベルでのマスク着用義務化が解除されたほか、イギリスやフランスでもマスク着用義務化が撤廃されている。

海外の人がマスクを外し、「コロナ前の生活」を一応取り戻しつつあるのを日本国内の外国人コミュニティの人々が目の当たりにしている中、日本がそれに続くべきかどうかについてはコミュニティ内で意見が分かれている。

居住者と観光客の区別ができていない

事実、新型コロナ危機に際しての日本の対応は、日本に住む外国人間で当初から論争の的となっており、「厳しすぎる」という意見もあれば、「いや、むしろ厳しくしてもしすぎることはない」という意見もある。加えて、新型コロナにかかわる措置は、過去においても、現在においても、日本在住の外国人を非難するような要素があると多くの人が感じている。

「日本人と同じように日本に住み、働き、税金を納めている外国人居住者と外国人観光客の区別ができていないのだと思います」と語るのは、30歳のデザイナー、エモリー高木さんだ。

ウイルスは明らかに誰一人区別せず感染する一方で、日本の厳しい措置がしばしば外国人を標的にしていると感じ、外国人コミュニティの多くの人と同様、高木さんも憤りを感じている。

「"フェイク科学”も出回りました。英語は日本語より呼吸量が多いから感染が広まりやすい、外国人は話すときに唾液を多く飛ばすから感染する、というような」と彼女は付け加える。

「こうしたフェイクをテレビで見た人は信じてしまいます。実際、私が街を歩いていると意地悪をされます。私は白人女性で率直に言えば、日本では好感を持たれることが多いですが、その私でさえ意地悪されるのですから、他の人種の外国人がどんな扱いを受けるか想像できます」

「個人的な意見ですが」と、高木さんは前置きしてこう語る。「日本政府は室内でのマスク着用についても対策を少々緩める必要があると思います。新型コロナ感染が広がり始めてすでに3年目になりますが、どんなに対策をしても結局感染する人は感染してしまう。最終的には多くの人が感染するのであれば、入国の規制も含めて見直すべきだと思います」。

本当に日本の対策は「厳しい」のか

対策のゆるい他国に比べて日本の厳しさについてどう思うか、という質問に対して、タニヤ・マッケンディさんは大笑いしてこう答えた。

「マスクの推奨はともかく、日本がどんな厳しい対策を行っているのですか?外国人の立ち入りを禁止する? 出国したら再入国させないとか? それが精々でしょう」と、大学で教鞭をとる45歳のマッケンディさんは話す。

「マスク着用だってパフォーマンスにすぎません。学校や職場ではマスクをつけていても、マスクを外して同僚や友人と飲みに行ったり、スポーツをしたり、できるところでは、みんな喜んではずしているでしょう」

彼女もまた、今回の危機に際しての日本政府の対応に大いに失望する1人だ。

「日本は感染者が少ないということで、海外メディアから称賛されました。マスクをつけて危機に対応した日本、と。マスクをつけることは日本らしさの象徴として取り上げられました。しかし、マスクはいいとして、ほかにはどんな対策が行われたでしょうか? 私はお酒とバーや居酒屋が非難されるのを見ました。風俗嬢が非難されるのを見ました。外国人が非難されるのを見ました。どれもスケープゴートです」

マッケンディさんはさらにこう続ける。

「日本では新型コロナがおとぎ話の怪物に仕立て上げられました。『私たちはとてもいい人間で、清潔で、マスクをしているから、怪物はやってこない』というようなことを政治家たちが国民に語ってきたのです。ほかにも、今回は日本人の文化水準の高さについて語られています。こうなると必ず外国人恐怖症が紛れ込みます。だから私は思い詰めているのです」

マスク着用は「美徳シグナリング」

ショーン・ブレヒトさんも、日本におけるマスク着用には、ある種の「美徳シグナリング(自分が正しい行為をしていることを人に示す行動)」のようなものがあると感じている。

55歳の写真家であるブレヒトさんはこう語る。「多くの日本人は、会社で当たり前のようにマスクをつけています。けれども、夜になれば友人何人かと集まって、4人がけのブースに10人すし詰めになって、酒を飲みながら一晩中大声で笑い、話し続けます。日本では、このルールが採用された理由と、生活のあらゆる場面に取り入れる方法を立ち止まって問うよりも、形式が先に立っているように感じられます」

「どっちつかずの対策というのが、この国の政府が取れる唯一の手なのだと思います」と彼は説明する。

「しかし、どっちつかずの対策では、避けられない事態を少し遅らせるだけだと私は思います。だから方針を決めるのです。2週間すべて(の施設など)を封鎖して感染者数が減るか調べるか、あるいは、パンデミックではなく、公衆衛生上の緊急事態としてオープンな対処をするかです。おかしな政策を中途半端にやっても、何の成果も上がらないと思います」

夜遊びが好きだという、34歳のブリトニー・ゲイツさんは、クラブやバーでマスクをしている人はほぼ見ないため、日本の「厳しい対策」がどれだけ意味があるのか疑問を持っているという。

「1カ月くらい前までは、ほとんどリモートではありますが、子どもに教える仕事をしているので、どこへ行くにもマスクをつけていました」とゲイツさん。

「でもそれでクラブなどに行くと、いろんな人から『なんでマスクつけてるの?』と聞かれるんです。それで『だって、子どもに教える仕事をしているし、マスクはつけないといけないんでしょう?コロナには感染したくないし』と答えていました」

日本の南部に住むというゲイツさんは、「若い人や夜遊びに行く人は、ほとんどマスクはしていません」と語る。「でも昼間は人の目があるからマスクを着用している。まさに美徳シグナリングですよ」。

対策が「足りない」と感じている人も

エリザベータ・クリポノワさんは、マスク着用に慣れた、健康で用心深い人々がいたために国内の死亡率が抑えられたことは、日本にとって幸運だったと考える。だが彼女は今、落胆している。感染者数が急増する中、日本政府がN95マスクの着用を強く勧めていれば、死者をかなり減らせたかもしれない、と考えるからだ。

福岡を拠点に活動する42歳のアーティスト、クリポノワはこう説明する。「現在の変異型はサージカルマスクでは抑えきれないほどの感染力が高いと思います。今相手にしているのは、これまでとは別種の怪物なのです」。

(バイエ・マクニール : 作家)