少子化の本当の原因は、「晩婚化」ではないようです(写真:kapinon/PIXTA)

2021年の合計特殊出生率が1.30に低下し、戦後最低だった2005年の1.26に迫る勢いで少子化が進行しています。

相変わらず少子化危機論を展開するメディアも多いのですが、当連載で繰り返しお伝えしている通り、そもそも合計特殊出生率の対象年齢である女性の15〜49歳の絶対人口が減っている「少母化」である以上、出生数が減るのはわかりきった話です(参考:少子化問題に決定的に欠けている「少母化」視点)。

婚姻数が減れば自動的に出生数は減る

婚姻数も2018年の令和婚効果を除けば、減少の一途をたどっており、婚外子の少ない日本においては、婚姻数が減れば自動的に出生数は減ります。


この連載の一覧はこちら

離婚を考慮しない「発生結婚出生数(婚姻数に対してどれくらいの出生があったか)」でみれば、1990年代以降ずっと1.5人で変わらず推移しています。

つまり、婚姻数を1つ増やすということは計算上1.5人の子どもが生まれるということを意味します。逆に、婚姻が1組減れば1.5人の出生数が減るわけです。


つまり、少子化とは「母親となる対象の女性人口の減少」と「婚姻数の減少」の2つの減少によってもたらされている構造上の問題であるということです。

政府や自治体の少子化対策に関しては、長年「子育て支援の充実」ばかりに目がいき、本来の「婚姻数が減れば出生は減る」という根本問題には触れられてきませんでした。

もちろん、「子育て支援」そのものを否定するものではないですが、「子育て支援を充実させれば少子化は解決する」という論理は的外れであることは今までの少子化対策が証明しています。そもそも子育て支援は少子化があろうとなかろうとやるべきものでもあります。

しかし、さすがに問題の本質を無視し続けることはできないようになったのか、最近の白書や政府の提言の中に、「少子化対策としての婚姻支援」という文言が最初に語られるようになりました。課題の抽出としてそれは間違ってはいないと思います。

”晩婚化”は起きていない

よくいわれるのが、「未婚化ではなく晩婚化だ」というものです。確かに平均初婚年齢の推移をみれば、皆婚時代だった1980年には夫27.8歳、妻25.2歳だったのに対して、2020年には夫31.0歳、妻29.4歳となっており、晩婚化しているといえます。

しかし、正確には「晩婚化など起きていない」のです。

晩婚化としてしまうと「初婚の年齢が後ろ倒しになったので、いずれ結婚はするだろう」という安易な誤解を招きます。そうした間違いのもとになっているものが、政府もメディアも揃って喧伝している「結婚したいが9割」という嘘にあります。

過去記事(参考:「独身の9割が結婚したい」説の根本的な誤解)で詳しく解説しているのでここでは結論だけ述べますが、1980年代から「結婚に前向きな若者は5割程度しかいない」というのが事実です。

「結婚したいが9割」を金科玉条のごとく唱える人は、「結婚意欲はあるのだから、何らかの結婚支援策を講じれば婚姻数はあがるはず」と前提を取り違えた間違った論法に陥ります。そんなことで婚姻数はあがりません。

それどころか、「意欲はあるのに結婚できないのはおかしい。これは本人の努力が足りないからだ。草食化したのではないか」などという筋違いな方向に結論づけられたりするわけです。

皆婚時代も現代も恋人がいる割合は大体3割で変わらない「恋愛強者3割の法則」があります(参考:最近の若者は「恋愛離れ・草食化」という大誤解)。では、なぜ、恋愛している若者は3割しかいないのに1980年代まで皆婚できたのか、という問いに対しては「結婚の社会的お膳立てシステムがあったから」に他なりません。

もっとも婚姻数が多かった1972年と2015年とを比較した場合、46万組の減少ですが、これはお見合いと職場結婚というお膳立てシステムによる結婚数を合算した減少分と完全に一致します。つまり婚姻数の減少はこれら2つのお膳立ての減少分だったと言えるのです(参考:100年前の日本人が「全員結婚」できた理由)。

さて、そのうえで、現在の婚姻数激減現象の注視すべきポイントはどこかを抽出してみましょう。

1980年から20年ごとの年齢別未婚人口に対する初婚達成率を男女別年齢別に比較したのが以下のグラフです。初婚達成率とは、当該年齢ごとに初婚数を未婚人口で割ったものです。


「晩婚化」ではなく、「若年の非婚化」

男性は25〜34歳、女性は25〜29歳での初婚達成率が激減していますが、実は35歳以上でみるとほぼ変化はありません。時に女性に関しては、40年前も今も35歳以上の初婚達成率は完全に一致しています。これを見る限り、男女とも「晩婚化」ではなく、「若年の非婚化」というべきでしょう。

確かに実数として晩婚数は増えていますが、それに伴って中年未婚人口も増えているため達成率は変わらないのです。少なくとも「晩婚化」というのであれば、中高年の結婚比率が上昇していないとおかしい。

言い換えるならば、昨今の婚姻数の激減は、かつて婚姻数を支えていた若者たちが結婚をしなくなったから、もしくはしたくてもできなくなったからであり、決して単純に後ろ倒しにしたわけではないということです。

特に、女性の25〜29歳の初婚達成率の激減ぶりは目を見張るものがあります。当該年齢の年間あたりの初婚達成率は1980年から2020年にかけて3分の1にまで減少しています。晩婚化というのであれば、これが30〜34歳で多少なりとも上昇していなければおかしいのに、上昇どころか逆に減少しています。

こうした背景には、女性の進学率と就業率の上昇は決して無縁ではないでしょう。1980年代には10%台だった女性の4年制大学進学率は2021年には50%を超えました。

女性の就業率と「まだ結婚は早い」という判断

労働力調査によれば1983年まで5割未満だった25〜34歳女性の就業率も2020年には約8割弱にまで増えています。かつてもっとも結婚をした年代で学業や仕事に邁進することで、「結婚はまだ先でいい」と考えてしまうのも無理のない話でしょう。

しかし、『恋愛結婚の人は大概25歳で出会っている残酷現実』の記事で紹介した通り、恋愛結婚の中央値年齢は女性で28.0歳、男性でも29.2歳と男女とも結婚する人の半分は20代のうちに結婚しています。さらにいうなら、その歳までに結婚している男女というのは、男性で24.8歳、女性では23.6歳までに結婚相手と出会っているわけです。


もちろん、個人差はありますが、あくまで統計的には、大卒で考えれば、就職して2〜3年以内に将来の結婚相手と出会っていないと、20代のうちに結婚することは難しいということになります。

むしろ今の感覚からすれば、「1980年はよくそんなに早く結婚に踏み切れたものだ」と思うかもしれません。しかし、「まだ20代だから結婚は早い」という判断が、最終的には「晩婚化」ではなく婚姻数の減少という結果に帰結してしまう可能性は否めません。

とはいえ、20代半ばで将来の結婚相手に出会うといっても、ここ2年半の若者にとってはコロナ禍で、大学生であれば同級生とも直接会うことも許されず、サークル活動もできず、ひたすら自宅でリモート授業を受け続ける毎日では恋愛相手どころか友達すら出会えていません。

新社会人にしても同様で、2年以上同期と飲みに行ったことすらない人も多いでしょう。

若者にとってこの20代前半の時期は、たとえ将来結婚する相手ではなかったとしても、人と出会い、恋愛し、時には失恋し、傷つき、そして恋愛経験値を積んでまた違う誰かと出会うという貴重な時期でした。

それは中高年の大人たちの2年とは比較にならないほど密度の濃い2年間だったはずです。ある意味これは、若者に対する強力な「恋愛ロックダウン」政策だと思います。

出会いの機会を大人が奪った

これの何が深刻かというと、婚姻の半数を占める20代での結婚カップルが今後激減する可能性があるということです。結婚に至る出会いの機会を政府や大人たちが奪ったのだから当然です。

冒頭の話に戻ると、少子化とは婚姻数の減少の影響が大きく、婚姻数が1つ減れば自動的に子どもの数は1.5人ずつ減ります。ただでさえ、婚姻減の実態は晩婚化などではなく、若者の非婚化にあります。

加えて、『「不本意未婚」結婚したいのにできない若者の真実』の記事でも書いた通り、2015〜2019年においては、結婚したいと希望する20〜34歳の若者の6割しかそれが実現できていないという現状があります。そこには、若者、特に男性側の給料や雇用に絡む経済的不安要素も大きい。

お見合いやと職場結婚という社会的お膳立てシステムの消滅によって、出会いの機会も減っているうえに、今回の「恋愛ロックダウン」という仕打ちをしておいて、やれ「若者の恋愛離れ」で「デート離れ」だなどと勝手なことを言う。若者にしてみれば「これでどうしろというんだ?」と言いたくもなるでしょう。

この「恋愛ロックダウン」による影響は、これからの3〜4年後の大幅な婚姻減と出生減として顕在化するかもしれません。

(荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト)