セオリー(左)とストライプス(右)、2つのテイストを用意する(筆者撮影)

お洒落なツートーンカラーが街中で目立つダイハツ「ムーヴ キャンバス」が、2016年の登場以来、初となるフルモデルチェンジを実施。2022年7月13日より発売された。

ムーヴ キャンバスは、ダイハツが「これまでになかった軽の新たな市場を開拓したクルマ」と自負するモデルで、まさに唯一無二の存在感がある。


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トールワゴン(全高1600mm台)のスライドドア車というパッケージングで見れば、スズキ「ワゴンRスマイル」が2021年8月に参入してきたが、ムーヴ キャンバスには独自の世界観があり、ワゴンRスマイルは“実質的なライバル車ではない”という解釈もできるだろう。

ムーヴ キャンバスの独自の世界感は、ひとことで言えば「可愛さ」である。ダイハツはこの「可愛さ」をどうやって創造し、また発展させようとしているのか。

千葉県内で行われた報道陣向けのムーヴ キャンバス公道試乗会に参加し、ダイハツ関係各位からダイハツがこだわる「可愛さ」について詳しく聞いた。

軽自動車は「母親と共用」の時代へ

まずは、女性の商品企画担当者に、初代ムーヴ キャンバスの開発の狙いを振り返ってもらった。

社会背景として、初代ムーヴ キャンバスが誕生した2010年代の日本は、結婚しない人生を選択する人の増加や晩婚化が進んでいく中で、20〜30代でも実家で両親や家族と暮らす独身女性が多くなっていた。

そんな中で、「娘は母親と仲が良い場合が多く、親子でクルマを共有することが珍しくなくなっていた」とダイハツは分析する。


初代「ムーヴ キャンバス」(写真:ダイハツ工業)

当時、ダイハツの軽はスーパートールワゴン(全高1700mm台)の「タント」、トールワゴンの「ムーヴ」、そして“第3のエコカー”というキャッチコピーで登場した「ミライース」が売れ筋だった。

ムーヴ キャンバスは、その中でいわゆる“ライフスタイル系”の派生車として登場。結果的に大成功を収めた。月販目標5000台に対して6年間の月平均は5600台、累計販売台数は約38万台にのぼった。

購入者の89%が女性で、年齢層では若年層が35%、子育て世代が26%、子離れ世代が28%だったという。ここでの“若年層”について、ダイハツでは「20代から未婚の40代まで」と定義している。

こうした数字と若い女性の軽自動車人気を考えれば、ムーヴ キャンバスのユーザー属性は、感覚として違和感はないだろう。なぜならば、日常生活の中で、買い物や子どもの送り迎えなどで軽自動車を使っている若い女性の姿をよく目にするからだ。

ところが、軽自動車市場の全体を俯瞰すると、ユーザーの実態はそうしたイメージとはまったく違う。


「スライドドアワゴン=ファミリー」というイメージだが……(筆者撮影)

一般社団法人 日本自動車工業会は2022年3月、「軽自動車の使用実態調査報告書」を公開した。これは2年に1度行う、大規模な市場調査だ。その中で、軽乗用系ユーザーの属性について「中心ユーザーは、60代以上と女性で変わらず、高齢化が進展」と市場現状を表現している。

具体的には、男女比は「32対68」と女性が多く、世代別でもっとも多いのは60代で24%、次いで70代以上(21%)、50代(19%)、40代(18%)、30代(11%)と続き、20代以下は7%にとどまる。

こうした世代の比率は、トールワゴンに絞って見ても概ね同じ傾向であるが、これがスーパートールワゴンになると、40代と50代がともに22%ともっとも多く、次いで、60代(19%)、70代以上(16%)で、若い世代は30代(15%)、20代(6%)と低い比率になっている。

いずれにしても、若い世代で軽自動車に乗っている人は“かなり少ない”というのが軽市場の実態なのだ。その中で、ムーヴ キャンバスのユーザー属性は、異例だと言えるだろう。

キャンバスユーザーの「若さの秘訣」は?

2代目ムーヴ キャンバスの開発を担当し、タントやSUVの「タフト」も手がけている、くるま開発本部 製品企画部エグゼクティブチーフエンジニア 部長級の小村明紀氏に、ムーヴ キャンバスユーザーの“若さの秘訣”を聞いてみた。

すると「訴求についても、一般的なクルマと同じ手法だった。CMでは若い世代に人気の女性タレントを起用し、店舗での商品展開で若い世代に馴染みやすくするような工夫があったとは思うが……」と、ズバリと言える答えはなさそうだった。


初代から継承する、ひと目で印象に残るデザイン(筆者撮影)

一方で、「街中で見て“あのクルマは何だろう”と、最初はダイハツ車だと認識せず、そのあと販売店に来て購入する人も珍しくなかった」「ネットで“可愛い 軽自動車”で検索すると、ムーヴ キャンバスがトップに表示される場合も多い」という事実は認識したうえで、「(たとえば若い女性が)クルマを初めて買うときに、何らかの情報を取ろうとする中で、(ネットやSNSからの)情報が購買に結びついたのではないか」という考えも示した。

要するに、ムーヴ キャンバスは、ダイハツの当初の目論見以上に、「可愛いクルマだからよく売れた」ということだ。

この「可愛さ」とは、見た目の可愛らしさ。特に大胆なツートーンのボディカラーが大部分を占めている。これはユーザー、販売店、そしてダイハツの共通認識だ。そこで2代目ムーヴ キャンバスでは、初代のアイコンにもなったツートーンボディカラーの仕様を「ストライプス」、モノトーンを「セオリー」として差別化を図った。


落ち着いた雰囲気としたモノトーンボディカラーの「セオリー」(筆者撮影)

デザイン担当者は、「クルマにあまり興味のない女性にとっても、ストライプスはとても印象に残る、街中でクルマが埋もれないデザイン手法だ」と指摘する。

ストライプスのようなツートーンボディカラーの起源を探れば、1960年代から1970年代にかけてグローバルで販売された、フォルクスワーゲンの商用バン「タイプ2(2代目トランスポーター)」を連想する人も少なくないだろう。ダイハツのデザイン担当者は「ストライプスは普遍的でタイムレスなデザイン手法だ」と表現する。

近年でも、キャンピングカーなどのカスタマイズカーでは、ストライプス的なデザイン手法が用いられることがあるが、大量生産車では比較的、珍しいデザインである。多くの場合、ツートーンカラーは、ボディ部分とルーフ部分でのツートーンとなっている。

ターボエンジン登場だけでは

そうした中で、ムーヴ キャンバスに初のフルモデルチェンジで最重要視されたのが、「可愛さのチューニング」だという。

クルマ本来の性能としてみれば、タントやタフトで採用した新型車体であるDNGAの熟成や、これまでになかったターボエンジンの導入などで、快適性や走行性能は大きく向上している。しかし、ムーヴ キャンバスにとって、それだけでは正常進化とは呼べないのだ。


「ムーヴ キャンバス」として初搭載となるターボエンジン(筆者撮影)

外観デザインについては、新たなる可能性をいろいろ検討した結果、「デザインテイストとして大きく引っ越していないところに落ち着いた」(小村氏)という。具体的には、「甘い可愛さ」から「洗練された可愛さ」へのチューニングだ。

デザイン担当者は「甘い可愛さが『私、可愛いでしょ』と周囲にアピールするイメージなのに対して、近年はより健やかにすっきりとした可愛さが、クルマに限らずさまざまなプロダクトで求められるようになっている」と言い、この理解を開発陣で共有してきたと説明する。

結果的に、初代では“あどけなさが残っていた顔”が“ちょっと大人っぽい”印象に変わった。ただし、鼻(ダイハツロゴ)がなくなったことへの対応をかなり気にしたという。

商品企画関係者は「2代目では、車名の認知度を上げたいという視点で鼻ではなく、CANBUSというロゴに変更した。しかし、鼻が好きというお客様も少なくないため、オプション設定としている」と、可愛さに対するフォローアップを欠かさない。


オプションパッケージ「Relex+」を装着したストライプス(筆者撮影)

ストライプスについては、外観はキープコンセプトだが、インテリアはガラッと変わっている。

初代での実際の使われ方を調査すると、コロナ禍になる前から車を止めて車内で飲食する機会が多かったり、フィギュアやぬいぐるみなどを車内に飾ったりするケースが少なくなかったという。

そこで、トレー形状にするのが一般的なダッシュボードを、思い切ってテーブル形状とした。デザイン担当者は「ちゃんとした綺麗な机で、綺麗な部屋に仕立ててあげたかった」という可愛さへの配慮を見せた。


ストライプスのインテリア(筆者撮影)

月間販売8000台もいけるか?

「可愛さのチューニング」を施したストライプスに加えて、新たなるチャレンジを実行したのが、モノトーンカラー仕様となる「セオリー」だ。

モノトーンのボディカラーは初代にもあったが「ツートーンが主流で、モノトーンはベースグレードのように思われてしまい、存在感が薄かった」という。

そこで、2代目は「母娘だけでなく、父娘や母息子まで」とターゲットユーザーを拡げるために、モノトーン車を独立した仕様として設定。「自分の価値観や、大人としての持論がある、自分へのこだわりを大切にする人」という意味で、セオリーと命名した。


シックなカラーとなるセオリーのインテリア(筆者撮影)

ストライブスとセオリーの販売比率のイメージについて、商品企画担当者は「期待を込めて5:5」と見込む。

初代では、ツートーンとモノトーンカラー(主に特別仕様車)の比率は7:3だったというから、それをベースに5:5という数字を考えると、月間4000台×2仕様=8000台がモデルライフを通じて達成できる計算だ。なお、ダイハツの立てた2代目の月間販売目標は6500台である。

「ひとめぼれ」での購入動機が多いというムーヴ キャンバス。果たして、セオリーに「ひとめぼれ」以上の価値を感じるユーザーはどれほど増えるのか。今後の動向をじっくり見守っていきたい。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)