「男同士は本来無関心なものだが、女は生まれつき敵同士である」

【写真】マウンティングで話題になった恋愛リアリティ番組といえば

女同士のマウンティング

 ドイツの哲学者ショーペン・ハウエルの言葉だ。しかし、当然ながら男も敵同士になるが、女性はより顕著なのだろうか。“女性による女性への”マウンティングを研究した論文が注目を集めている。

「私自身、なんとなく相手の発言にイラッとしたり、“これって褒めてくれているのかな?”と首をかしげるような、モヤッとした出来事がありました。例えば“今日もしっかりメイクしてるね”という言葉などです。

 褒められていると思う部分ももちろんありますが、もしかしてメイクが濃い・派手といったネガティブなことを言いたいのかなと勘ぐってしまう部分も……」

 そう話すのは、論文を執筆したお茶の水女子大学大学院で学ぶ森裕子さん。

「周りにこの話をすると、共感する人もいれば、他意はないと感じる人もいた。私が感じたこのモヤモヤに対して『マウンティング』という言葉があるのを見つけ、研究を始めました」(森さん、以下同)

 マウンティング。相手よりも立場が上であることを示す行為や振る舞い。森さんは、書籍やドラマなどからマウンティングに該当するエピソードを収集。

 具体的には、女性同士の争いが大きなテーマだったドラマ『ファースト・クラス』や『大奥』(共にフジテレビ系)、多数の女性が1人の男性を奪い合う恋愛リアリティーショー『バチェラー・ジャパン』(Amazonプライムビデオ)など。その例を紹介する。文末の( )内は森さんが論文で定義した“概念”名だ。

(1)飲み会でいつもとは違う服装をしている女性に→「今日は気合入ってますね〜」(貞淑さの誇示)
(2)産後すぐ仕事復帰した女性に→「子どもが3歳まではそばにいたほうがいい」(同)
(3)独身の友人に→「○○さん独身だから、イケメンを紹介するよ〜」(既婚の安定)
(4)誘いを断る際に→「夫が家にいてほしいって言うんだよね」(夫・彼氏の存在)
(5)恋愛の悩みを相談する女性に→「子どもを育ててると毎日が忙しくて、ちっちゃなことで悩んでるヒマはないかな〜」(子どもの存在)
(6)年下女性に→「あなたたち、キャーキャーしてられるのも今のうちよ」(年の功)
(7)主婦に→「主婦なんて中卒でもなれる」(学歴)
(8)非正規雇用の女性に→「いいな、頑張りが報われる人は。正社員はいくら頑張っても、お給料が変わらないんですよ」(キャリア)
(9)子どものお迎えを親に頼んだ友人に→「やっぱり実家近いの超得だよね〜」(苦労)
(10)地元に帰省した際に→「こんなオシャレな店ができたんだね」と感心したように言う(居住地)
(11)テレビドラマがおもしろかった話をした友人に→「テレビを見る時間に意味を見いだせない」(趣味・教養)
(12)友人のメイクや服装に対し→「素材はいいのにもったいない!」(ファッションセンス)
(13)友人のメイクや服装に対し→「かわいい系のオシャレをしたほうがモテる」(同)
(14)すっぴんの女性が→「みんなメイク盛ってるね〜!」(美しさ)
(15)アラサー女性に→「30過ぎての婚活はイタい」(若さ)
(16)ママ友などに→「私の旦那のほうが稼ぎがあるし」と誇る(男のセンス)

 “こんなのもマウンティングって言われちゃうの?”と思う人もいるかもしれない。そこにマウンティングの難しさ、そして研究対象をドラマや書籍といったフィクションを中心とした理由がある。

「実際に何人かのグループに話を聞くということも考えましたが、“私はマウンティングだと思う”、“私はそうは思わない”と人によって違いが出ます。“あるある”という空気と“違う!”という空気が生まれ、そこで新たな“傷つき”が生まれてしまうかもしれないと考えました」

 フィクションゆえに、マウンティング度合いはより強調された。

マウンティングは大きく3つに分類

 研究を進めると、女性による女性へのマウンティング発言は、大きく3つのカテゴリーに分類された。

(A)伝統的な女性としての地位・能力を誇示する(前出の例:1、2、3、4、5、6)
(B)自立した人間としての地位・能力を誇示する(前出の例:7、8、9、10、11)
(C)女性としての性的魅力を誇示する(前出の例:12、13、14、15、16)

 森さんは、「女性のマウンティングは男性よりも繰り返される」と話す。マウンティングにおける女性性とは何か。この3つのカテゴリーが関係する。

「この3つのカテゴリー間の関係は、ある部分では一方に勝てるけど、ある部分では負けるというように“三すくみ”の状態にあると考えます。

 例えば、《伝統的な女性としての地位・能力を誇示する》女性は、結婚し子どももおり、安定した生活を送っているが、《自立した人間としての地位・能力を誇示する》女性から見れば、夫や子どもの存在に縛られ、自由な生活を送れていない、という形です。

 そのため、“どちらが上か下か”を簡単に決定することが難しく、マウンティングが繰り返されてしまう。終わりがなく、勝ち負けが決まりにくいのかなと思います」

男性同士のマウンティングは?

 当然ながら男性同士でもマウンティングは起こりうる。

「女性の場合、3つのカテゴリーが“連動”していないと考えます。例えばバリバリ仕事をしつつ、お子さんを産んで良いお母さんをして……というのは少々大変で達成しづらいですよね。

 男性は、仕事で良い結果を出しながら、良い家庭を持つということは、同じ直線上にあるといえる。男性の場合、3つのカテゴリーは連動しており、すべてで優れた状態になることが可能だと思います。そのため男性同士のマウンティングはシンプルになったり、すぐ勝負がつきますが、女性の場合は複雑になると考えます」

 確かに男性の場合、“比較”し合うのは、幼少期であれば足の速さなど運動能力、少し成長すると容姿や学力などが加わり、大人になれば財力、仕事、結婚相手などだろう。

 人によってはそのすべてを獲得することが可能だ。生き方や考え方が多様になれど、女性の場合、“仕事”と“結婚・家庭”という面だけでも対立構造となってしまう風潮は現代でもある。

「女性の場合、3つのカテゴリーすべてで優れた状態となることは難しく、勝負がつきにくい構造にあるのではないかと思います」

 今回の論文はネットで話題となった。“マウンティングされた”という経験のある人が多いということの証左か。

「マウンティングは、人間として当然といいますか、コミュニケーションの1つの形ではあると思います。そのため“無くす”ということは難しい。

 マウンティングだと感じて、イラッとしたり、モヤッとした人が、そういったダメージに対するセルフケアや受け流せるようになる方法を今後研究していきたいと思っています」