2022年8月5日、ティザーサイトに登場した新型フィットRS。詳細は不明ながら今秋のマイナーチェンジで追加されることが発表された(写真:本田技研工業)
「ようやく出るのか!」
ホンダが2022年8月5日にアナウンスした「フィットRSの復活」について、そう思ったホンダファンやスポーツカー好きも多いだろう。2022年秋に予定されているコンパクトカー「フィット」のマイナーチェンジに合わせ、先代にも設定があったスポーツグレードのRSが再び登場することが正式に発表された。
先代のフィットRSは、2020年のフルモデルチェンジ時に廃止されたので、約2年ぶりの復活となる。とくに先代RSオーナーは、「どんな仕様になるのか?」と注目していることだろう。
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そこで、秋に登場する新生フィットRSについて、どんな仕様となり、どれほど期待できるポテンシャルを秘めているのか検証する。ホンダからは、まだ限定的な情報しか公開されておらず、今わかる範囲内となるが、可能な限り新型の素性に迫ってみたい。
スポーツグレード歴代フィットRSの歩み
2代目フィットRSのスタイリング(写真:本田技研工業)
フィットRSは、2007年10月に登場した2代目フィットから設定されたスポーツグレードだ。1.5L・i-VTECエンジンや専用サスペンションなどを搭載し、スポーティな外観デザインも採用。コンパクトな車体を活かした、ワインディングなどでの軽快な乗り味が魅力で、スポーツカー好きを中心に長年支持を受けてきたモデルだ。
3代目フィットRSのスタイリング(写真:本田技研工業)
新型RSのひとつ前、先代の3代目モデルに設定されたRSは2017年に登場し、2020年1月まで販売された。搭載する1.5L・直噴DOHC i-VTECエンジンは、最高出力を1.3Lガソリン車の100ps、1.5Lハイブリッド車の110psに対し、132psに設定。また、前後ダンパー、リアスプリング、ステアリングギアボックスの取り付け部など、各部の剛性を向上させてボディを補強し、しっかり感のあるハンドリング性能を実現したことも特徴だ。
大型のリヤスポイラーを採用し、スポーティなルックスの3代目フィットRS(写真:本田技研工業)
3代目フィットには、ハイブリッドモデルや4WD仕様の設定もあったが、RSはFF仕様の1.5Lガソリン車のみ。CVT搭載のオートマ車に加え、6速MT車も用意され、マニュアルシフトやアクセル・ブレーキ・クラッチの3ペダルを駆使し、クルマを自在に操る感覚を味わいたいユーザーに好評だった。なお、当時の価格(税込み)は208万8900円で、スポーツモデルとしては、比較的手が出しやすい価格設定であることも人気を呼んだ理由のひとつだ。
現時点での新型フィットRS情報
新型フィットRSについて、現状で発表されているのは最初のフロントまわりのアップと全体の写真2枚のみ(写真:本田技研工業)
一方の新型フィットRSは、前述のとおり、2022年秋に予定されているフィットのマイナーチェンジ時に追加される。BASIC(ベーシック)、HOME(ホーム)、LUXE(リュクス)、CROSSTAR(クロスター)といった各グレードには、新デザインを採用。従来あったNESS(ネス)は廃止され、代わりに追加されるのがRSだ。また、各グレードのハイブリッド車では、独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」のモーター出力をアップし、アクセルの応答性も向上。よりパワフルな走りになるという。
RSと同日に公開されたフィットe:HEV HOME(写真:本田技研工業)
フィット e:HEV LUXEの外観(写真:本田技研工業)
フィット e:HEV CROSSTARの外観。RS以外のグレードに関しても賛否両論あったフロントグリルが大きくなっているように感じる(写真:本田技研工業)
新設定となるRSの特徴は、まず、外観に専用のフロントグリルや前後バンパー、リアスポイラーなどを採用することで、よりスポーティなスタイルを実現していることだ。とくに現行フィットのフロントフェイスは、グリルレス風デザインを採用し、ややおとなしい印象だったこともあり賛否両論あった。
一方、新型RSでは、メッシュ形状のフロントグリルや大型化のエアインテーク部、フロントバンパー下部は立体的なリップスポイラー的デザインも採用する。よりスポーティな演出を施しただけでなく、存在感もかなり増した印象だ。現行フィットのフェイスデザインに物足りなさを感じていたユーザーであれば、なかなか好みの顔付きではないだろうか。
写真はヴェゼルで採用されている減速セレクター(写真:本田技研工業)
また、RSのe:HEVでは、SUVモデルの「ヴェゼル」などにも採用されている「減速セレクター」も装備する。アクセルペダルを離したときの減速の強さを調整できる機能で、ステアリング奧の左右にあるパドルシフトタイプのセレクターを使うことで、ハンドルから手を離さずに好みの減速度を選択できる。急な坂道などで頻繁にブレーキペダルを踏まずに減速できるほか、コーナー進入時などにブレーキと組み合わせて減速度を上げていけば、車速がより落ちやすくなり、まるでシフトダウンをしているような感じを味わえる。なお、ヴェゼルの場合、減速度の調整は4段階となっている。
加えて、新型RSには、ドライブモードスイッチも採用し、道路状況や好みに応じた出力特性の選択も可能だ。一般道で快適・スムーズな「NORMALモード」、ワインディングで俊敏・ダイレクトな加速を感じる「SPORTモード」、高速道路でなめらかな高速クルーズを楽しむ「ECONモード」といった3タイプを用意する。
ちなみにRSをはじめ、フィットの全グレードにはガソリン車も設定する。e:HEV車も含め、詳細は不明だが、現行モデルではガソリン車が1.3L・i-VTECエンジン、e:HEV車は1.5L・i-VTECエンジンに2モーターを組み合わせたラインナップとなっている。今回は、あくまでマイナーチェンジのため、おそらくパワートレインについては、現行とほぼ同じままであろうが、RSのガソリン車には1.5Lエンジンが搭載される可能性もあるだろう。
新型フィットRS、ありか、なしか?
以上が新型フィットRSについて、今わかる範囲の情報だが、気になるのが、先代RSに設定があった6速MT仕様を新型でも採用するか否かだ。前述のとおり、RSのようなスポーツグレードの場合、マニュアルシフトやアクセル・ブレーキ・クラッチの3ペダルを駆使し、クルマを自在に操る感覚を味わいたいスポーツカー好きは多い。
6速マニュアルを設定している現行のN-ONE RS(写真:本田技研工業)
あくまでも私見だが、恐らくガソリン車には6速MT仕様が出る可能性は十分にあると思う。それは、2020年11月にモデルチェンジを受けた軽自動車「N-ONE」のRSにも、CVT車のほかに6速MT車を設定しているからだ。FFターボエンジンとMTを装備したこの仕様は、1980年代に一斉を風靡した、いわゆる「ホットハッチ」を彷彿とさせる。実用的なハッチバック車にハイパワーエンジンを搭載したモデルのことで、若者を中心に多くの支持を得たジャンルだ。当時を知るファンであれば、コンパクトのハッチバック車であるフィットRSにも、当然そうした雰囲気や装備を望むユーザーは多いだろう。
先代フィットRSでも、そうしたユーザーの多くが6速MT車を選んだと聞く。おそらく、販売台数的には、マイナーチェンジを受けるほかのグレードのほうが多いだろうが、スポーツカーが好きで、長年ホンダ車に乗り続けるコアなファンも大切な顧客だ。かりに少数派であっても、そうしたユーザーの期待には、ぜひ応えてほしい。
タイプRとともにRSはファンの期待に応えられるか
2022年9月発売予定の新型シビック タイプR(写真:本田技研工業)
ホンダは、やはり6速MT車の設定があった軽自動車のオープンカー「S660」の生産を2022年3月で終了している。一方で、2022年9月には現行シビックのスポーツバージョン「シビック タイプR」を発売する予定だ。シビック タイプRも2022年07月21日のワールドプレミアで公開された画像を見ると、MT仕様となるようだが、価格はかなり高くなるだろう。生産終了となった先代のシビック タイプRが税込み475万2000円だったから、新型ではさらに価格がアップされることが予想される。
新型フィットRSは、まだ価格も発表されていないが、先代モデルは前述したとおり、208万8900円。おそらく、新型RSについても価格はアップされるだろう。だが、それでも200万円台を維持することは十分にありうる。比較的リーズナブルな価格で買えるスポーツモデルを望む層が一定数いることを考えれば、6速MT車の設定とともに、価格面でも可能な限りファンの期待に応えてくれることを望みたい。
(平塚 直樹 : ライター&エディター)
外部リンク東洋経済オンライン