眼鏡チェーンのオンデーズは、インドの同業と経営統合を発表した(写真:オンデーズ提供)

国内外に約460店舗を展開する眼鏡チェーンのOWNDAYS(オンデーズ)が、インドの同業で2010年創業のLenskart(レンズカート)との経営統合を発表した。レンズカートがオンデーズの株式の過半を取得することから、「日本企業がインドのスタートアップの傘下入り」と話題になっているが、オンデーズの田中修治社長は「小売業界の競争は国境が簡単に破られる。“え、インド企業に買われたの?”など、面白おかしく言われることもあるが、そんな単純な世界ではなくなっている」と話す。

多額の債務を抱えて経営難に陥っていた眼鏡チェーンのオンデーズを、2008年に買い取って再建した田中修治社長。オンデーズは同業他社と「ファッション性」「グローバル展開」で差別化を図り、2013年のシンガポール進出を皮切りに、海外進出を加速。海外店舗数はすでに国内を上回っている状況だ。

今回の経営統合は、オンデーズの株式の過半数を保有していたLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン系の投資会社と、三井物産企業投資が全株式をレンズカートに売却することで実現する。

オンデーズはリモートでの視力測定など、DX(デジタルトランスフォーメーション)に力を入れている。だが、コロナ禍で自力でDXを進めることに限界を感じていた。今回経営統合をするレンズカートはエンジニアを400〜500人擁するテクノロジー企業でもある。田中社長はこの点に魅力を感じたという。

早くから自社でのデジタル化にも着手


オンデーズを2008年に買収し、再建した田中修治社長。ファーウェイと共同開発したスマートグラスをかけている(写真:今井康一撮影)

オンデーズがデジタル化に最初に取り組んだのは、赤字経営からの脱却が見えた2010年ごろだ。iPhone4が発売され、スマートフォンを持つ人が増えた時代だ。

「買い物もコンテンツの視聴もスマホで完結するようになり、いずれは自分たちもこのスマホの画面に入っていかなければならないと考えた」(田中社長)

そこで田中社長は、自社でデジタル化に着手。ECサイトやPOSシステム、基幹システムを内製していった。だが10年かけてシステムが一通り形になったところで、新型コロナウイルスの流行が始まった。

「それまで日本の小売業界や外食業界は、デジタルが競争力の差にはなっていなかったが、コロナ禍では明暗を分けるカギになった」(田中社長)

オンデーズはECサイトを持っていたものの、経営は依然として店舗が中心だった。2020年4月の緊急事態宣言で店舗が閉まり、経営資源を見直す中で「自社でデジタル技術を押さえていないから、日本の多くの小売りや外食が競争力を持てない」と痛感したという。

「ECに誘客しようと思っても、システムの構築や運営を外注していると施策を実行するにも時間がかかる。ECを作るだけでは足りず、店舗、製品も含めてDXを徹底し、取得できるデータを分析して生かすことが今後10年の勝負を分ける要になるとわかっていた。けれどもIT企業でもメーカーでもない僕たちは、テクノロジーの専門家をそろえられない。DXの必要性と、自前でやることの限界の両方を認識した」と田中社長は語る。

一方でレンズカートは、ECに強みを持つ。同店舗のアプリは、ユーザの輪郭データを読み取り、個々人に似合う眼鏡を表示する。バーチャルでの試着も可能で、1〜2日で眼鏡が自宅に届く。レンズカートは、インドを中心にシンガポールやドバイなどにも進出し、1100以上の店舗も展開している。

同社の共同創業者でCEOのPeyush Bansalと田中社長は5年以上の親交があった。田中社長は個人的な近さだけでなく、レンズカートの技術面でのプレゼンを聞いたときに、「手を組めばアジアでナンバーワンになれる」とイメージができたという。

ファーウェイとも製品を共同開発


田中修治(たなかしゅうじ)/1977年埼玉県生まれ。10代の頃から起業家として活動し、企業再生案件を中心に事業を拡大。2008年に眼鏡の製造販売を手がける小売りチェーン、オンデーズの筆頭株主となり、同年から現職。2013年にシンガポール法人、2014年に台湾法人を設立。著書に『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』がある(写真:今井康一撮影)

「レンズカートの規模は大きいけれど、インド以外にはあまり出ておらずECが中心だ。僕らは店舗の売り上げが大きく、海外市場の知見もある。店舗の運営ノウハウを手に入れたい彼らと、デジタルを強化したい僕らは補完性が高い。価格帯も違うため、それぞれのブランドの強みもぶつからない。東南アジアではレンズカートがマス層をカバーして、僕らがミドルアッパーラインを攻めることも可能だ」(田中社長)

オンデーズはレンズカート以外にも、多方面にわたってテクノロジー企業とのアライアンスを模索している。今年6月には中国の通信機器大手、ファーウェイ(華為技術)と共同開発したスマートグラスを発売した。

ファーウェイとのコラボには難色を示す声は少なかったものの、レンズカートとの経営統合については、「インドの会社に身売りするんですか?」という反応も少なからずあったという。

田中社長はその問いに対し、「買うとか買われたとか、単純な話ではないし、グローバル化でもっと複雑になっている」と答えた。

ブルームバーグの報道などによると、レンズカートは2019年にソフトバンク・ビジョン・ファンドから2億7500万ドル(約370億円)を調達。その後もアメリカの投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)から9500万ドル(約130億円)、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスやファルコン・エッジ・キャピタルを含む投資家から2億2000万ドル(約300億円)を調達した。

レンズカートに影響力を持つ出資企業も多国籍化しており、オンデーズの本拠地である日本や、同社が30店舗以上を出店するシンガポールの投資家もバックにいる。田中社長は、こうしたレンズカートを支える投資家も含めて、アライアンスの一環であると考えている。

小売業界はゲームチェンジが起きている

オンデーズがレンズカートと組む理由は、DX以外にもある。それは、小売業界のゲームチェンジだ。

「15〜20年前ならチェーン店で100店舗出したら、大企業だった。海外の企業が日本にどんどん入ってくることもなかったし、100〜200店舗出せれば国内では競争力があって優先的な地位が手に入った」(田中社長)


国内では200店舗、グローバルでは13カ国・地域に460店舗を展開(写真:オンデーズ提供)

オンデーズは2011年に福岡の商業施設に出店し、100店体制を達成した。その後も規模拡大を進め、国内約200店舗、グローバルでは13カ国・地域に460店舗を展開するまでに成長した。

しかし同社が一足先にグローバル化を進めた一方で、業界にもグローバル化の波が押し寄せた。それは競争がさらに激化し、新たなステージに入ったことも意味した。田中社長の危機感は強い。

「アパレルだと20年前はセシルマクビーやエゴイストが、国内大手だった。だがZARA、H&Mが上陸して、競争力を失っていった。海外企業が簡単に入ってくるようになり、数百店舗、数百億円の売り上げでは戦えなくなったのだ。眼鏡でも海外で数千店舗規模のチェーンが現れて日本に上陸すると、アパレルと同じ道をたどるかもしれない」

実際に、ヨーロッパでは巨大眼鏡チェーンが出現し、M&Aが活発化している。またアジア市場で戦うには、中国企業も大きな脅威になる。現地では2012年に創業し「眼鏡界のZARA」を目指すLOHO眼鏡が、製造直売+ECのモデルで急成長し、店舗も1000近くに広げている。

日本の無印良品やダイソー、ユニクロを意識し、今や世界100カ国に5000店舗を展開する名創優品(メイソウ)は、創業者が2013年に日本を旅行した際に雑貨店にメイドインチャイナの商品が並んでいるのを見て、「中国で商品を作れるなら、自分のほうがうまくやれる」と同社を立ち上げた経緯がある。眼鏡で同じことが起きても不思議ではなく、レンズカートとオンデーズもその危機感は共有しているだろう。

「5年で日本でナンバーワンになる」

一方で国内の競合の状況をみると、首位の眼鏡市場は2011年から10年で店舗数を1.5倍に増やし、2021年に1000店舗を超えた。価格破壊を起こしたJINSも2011年に120店舗だったのが、2021年には5倍の660店舗体制に拡大している。直近の売上高を見ると、眼鏡市場を運営するメガネトップは約822億円、JINSは約639億円で、1000店舗、1000億円が1つのメルクマールになりつつある。

オンデーズの2022年2月期の売上高は220億円で、上位2社に追いつくのは容易ではない。ただ田中社長は、「5年で日本でナンバーワンになる」と強調し、レンズカートとの統合が「限界突破」を果たすピースになるとの自信を見せた。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)