最速を目指した軽量シングルシーター

ニュージーランドの自動車メーカー、ロダン・カーズ(Rodin Cars)は、文字通り「地上最速のクルマ」を目指す、新型のサーキット専用マシンを発表した。

【画像】ニュージーランドの小さな会社が「考える」最速マシン【ロダン・カーズのFZeroとFZedを写真で見る】 全26枚

新型「FZero」は、ハイブリッドの4.0L V10ターボガソリンエンジンをミドシップ搭載したシングルシーターである。現代のF1マシンよりも約50kg軽く、価格は180万ポンド(約2億9000万円)。サーキット走行を目的としたモデルで、「公道やレースの規制を受けない」ように開発された。


ロダンFZero    ロダン・カーズ

コンピュータ事業で財を成したオーストラリア人、デビッド・ディッカーCEOは、早ければ来年の夏に納車が始まり、初期ロットは27台に限定されると語っている。早ければ今年のクリスマスにもプロトタイプを走らせるという。

AUTOCARは、ドニントン・パーク・サーキットに新たに開設されたロダン・カーズの英国拠点を尋ね、ディッカーに話を聞いた。ディッカーは以前、ロータスT125をベースに「FZed」を製作したことで英国で注目を集めた。

彼はAUTOCARの取材に対し、新型FZeroの開発には「数年前から」取り組んできたが、レッドブルが最近発表したRB17に刺激を受け、今回の発表に至ったとしている。

「あのクルマは、わたし達に自信を与えてくれました」とディッカーは言う。「レッドブルが1台500万ポンド(約8億円)のクルマを50台も売れるというのなら、我々のクルマにもチャンスがあるに違いないと思ったのです。あとは、人々に喜ばれるクルマを作るだけです」

ディッカーは熱心なカーコレクターであり、フェラーリでサーキットを走るレーサーでもある。新型FZeroの開発では、細部に至るまで綿密にコントロールしている。FZeroはニュージーランド本社の工場で生産される予定だ。

ディッカーによると、V10エンジンはイングランド東部リンカンシャーに拠点を置くレース用エンジン開発企業、ニール・ブラウン・エンジニアリングが製作する特注のものを採用するが、それ以外のコンポーネントはほぼすべて自社製作される予定だという。

V10ハイブリッドで1000馬力超

このエンジンだけで最高出力1000ps/9000rpm、最大トルク92.6kg-m/7250rpmを発揮。さらに、176psの電気モーターをスターター、オルタネーター、電力回生装置として利用し、「トルクギャップを埋める」そうだ。

1176psに及ぶトータルパワーは、リカルド社製の新型8速ATを介して後輪に伝えられる。


ロダンFZero    ロダン・カーズ

F1風のカーボンファイバー製タブシャシーとレーススタイルの全輪独立サスペンションを採用。特殊な油圧式ハイトアジャスターにより、高速走行時の空力負荷がかかっても車高を維持するという。

CFDを駆使して開発されたボディは、オープンホイールよりもはるかに優れた空力効率と安定性をもたらすとディッカーは説明する。コックピットのキャノピーを閉じれば、オープンホイールにつきまとう高速走行時のバフェッティング(機体を叩く気流の渦)からドライバーを守り、ドライビング・エクスペリエンスを堪能できるようになる。

FZeroは、全長5.5m、全幅2.2m、ホイールベース3.0m、全高1.13mと、軽量でありながら意外にも大型である。空力のダウンフォースを高め、ドラッグを最小化するためだという。

エグゾーストマニホールドは3Dプリントされたチタン製で、チャージパイプとプレナムはカーボンファイバー製のコンポジット。ホイールは、OZレーシングがFZeroのために特別に製作した18インチの鍛造マグネシウム製である。

ちなみに、ロダン・カーズという社名は、「考える人」の彫像で知られるフランスの彫刻家オーギュスト・ロダンに由来する。ディッカーは、有名な彫刻家の名を自分の会社の名前にしたことについて、「自動車というのは、完全に人間の思考の産物です。動物の名前を使うなんて馬鹿げていますよ」とストレートに語っている。

資金に余裕があるからこそ実現できたクルマ

以下、ロダン・カーズ創設者デヴィッド・ディッカーへのインタビュー内容。

――究極のクルマを作ろうと思ったのはいつ頃ですか?

「2016年に『何が何でもやるんだ』と決意しましたが、それは資金があったからです。自分のライフスタイルを捨ててまでやるつもりはなかったので、ちゃんとしたバッファ(余裕)を持ちたかった。多くの人は、このようなプロジェクトを立ち上げると、持っているお金をすべて使ってしまうんです。失敗したら、おしまいですよ」

――なぜ今、発表したのでしょうか?


ロダン・カーズ創設者デヴィッド・ディッカー    AUTOCAR

「レッドブルのRB17がきっかけでしょう。ロダン・カーズは何年も前からこのプロトタイプ(FZero)に取り組んできましたが、レッドブルが500万ポンドのクルマを50台売れると考えているのなら、我々の出番もあるはずだと思いました。彼らは、わたし達に自信を与えてくれたのです」

――180万ポンドのクルマを作るために必要な資金は、どのように賄うのでしょう?

「まずはお金を稼がないといけません。わたしは、1978年にコンピュータの流通事業であるディッカー・データ社を立ち上げ、2011年に株式を公開しました。当初の目標は、1か月に10台のコンピュータを納品することでした。うまくいくとは思っていたのですが、予想以上にかなりうまくいきました。今では1日あたり800万〜900万ドル規模のビジネスに成長しました」

――ある意味、180万ポンドという価格は安いように思えます。どうしてそのような価格を実現できたのですか?

「大きな理由の1つは、スプリング、シール、ベアリング以外のすべてを自分たちで作ることです。ボルトも自分たちで作る。エンジンの鋳造もやるし、クランクシャフトも作る。クランクシャフトは、現在F1のサプライヤーが作っているもので2万3000ポンド(約375万円)もします。しかし、クランクシャフトを作るためのビレットは795ポンド(約13万円)です。そこだけでも、かなり節約できるんですよ」

――密閉式のコックピットにしたのは空力効率が理由なのでしょうか?

「もちろんその通りですが、他の理由もあります。オープンコックピットのクルマは、スピードが出ると頭が大きく動くので、運転しにくいのですが、キャノピーがあれば、静かに過ごすことができます。また、車内はエアコンが効いているので、どんな地域でも走らせることができます。中東やオーストラリアでは、それが大きな違いになります」

――現在生産しているFZedは、オープンホイールですよね。なぜ、FZeroではエンベロープ型のボディにしたのですか?

「フルボディにすることで、高速回転する車輪という怪物に対処しなくて済むからです。レギュレーションが許せば、F1は何年も前にフルボディにしていたはずです」

――公道走行可能な仕様も作るのでしょうか?

「公道向けのクルマについては何度も話し合ってきましたし、作る気もあります。ですが、まずこのFZeroの最初のロットを作って納車して、それから考えようと思います」