任意保険への加入は、車を運転する人にとって最低限の責務といえます。しかし、車を使った生活が当たり前になった現代においても、任意保険に未加入のドライバーがいるのです。

任意保険に未加入の車と事故があった場合、どのような対応をすればいいのでしょうか。大手国内自動車保険代理店を営む筆者が、実例を交えて解説していきます。

任意保険会社は相手方との交渉をしてくれる

車の事故はいつどこで起こるか誰にも予測がつきません。事故に遭った直後は気が動転してどのような対応すればよいかわからずにいます。

一般的に、事故発生直後から最終的な示談まで対応してくれるのが、自身の加入する任意保険の保険会社です。

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任意保険は、損害の賠償だけではなく、相手方との交渉を、保険契約者(事故当時者)に代わって行ってくれる役割を持っています。事故が発生した場合は、事故当時者の保険会社同士が話を行い、示談まで進めてくれるのです。

しかし、事故の相手が任意保険に加入していないことで、保険会社同士での話し合いが行えず、場合によっては事態が急転することがあります。

相手が任意保険未加入で起こった大問題とは?

過去に筆者が取り扱った任意保険未加入に関連した事案を紹介します。

「停車中、車をぶつけられた。相手は任意保険に未加入のようだ、どうすればよいか?」という相談をAさんから受けました。

Aさんの車にぶつかった相手は、自賠責保険と任意保険は同じものと誤認していたようで、任意保険には未加入のまま運転を行っていたということです。

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不幸中の幸いですが、この事故で発生した損害はAさんの車だけでしたので、相手側から修理代10万円が振り込まれ、Aさんも示談に応じました。

しかし、乗員に怪我等があれば、スムーズに示談することはできなかったでしょう。自賠責保険と任意保険を誤認し、未加入のままで運転しているケースは、意外にも多いものです。

また、責任割合が自分:相手=0:10の事故では、自身の加入する任意保険の保険会社が、事故対応に介入することが難しくなります。相手方との交渉が進まなければ、損傷した車を直すこともできません。

自身で車両保険に加入していれば、まずは自分の車両保険を使用して車を直し、その修理費用は保険会社が加害者側へ代理請求するという方法を取れる場合もありますが、適用させるためのハードルは高いでしょう。

自分自身が任意保険に加入していても、相手が未加入の場合には、こうした問題が多くのケースで発生するのです。

悲惨な事故の結末からみる任意保険の重要性

悲惨な交通事故で尊い命が奪われるだけでなく、任意保険の未加入が原因で、さらに事態が混乱することがあります。

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2018年10月2日、無職の女性(48)が埼玉県飯能市で、無車検・無保険の車を酒気帯び状態かつ法定速度の3倍以上の速度で運転し、女性をはねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)や道路運送車両法違反などの罪に問われました。(事故の詳しい内容についてはこちら)

判決は2022年7月12日にさいたま地方裁判所で、被告に懲役8年(求刑・懲役10年)が言い渡されました。裁判長は量刑について「前科のない者による危険運転致死事案の中では重い部類に属する」と述べています。

加害者の運転していた車は、車検と自賠責保険の両方が期限切れの状態、さらに酒気帯び運転と大幅な速度超過が加わっています。遺族への謝罪は無く、無保険・無職であることから、賠償も行われていません。

任意保険加入は当たり前と考えるべき

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車社会の現代において、任意保険への加入はモラルであり、安心安全な自動車運行を行うための義務とも言えます。

しかし、任意保険は自賠責保険に比べると割高で、「事故を起こさなければ加入する必要がない」と認識しているドライバーが少なからずいるのも事実です。

今回取り上げた悲惨な事故から、「任意保険に加入していない車ほど危険運転を犯す確率が高い」という印象を受ける人も多いことでしょう。

相手側の補償は当たり前のことですが、自分の補償という観点からも、車を所有する際には任意保険への加入は絶対条件と考えるべきでしょう。