SNSの主役である「Z世代」はどんな価値観を持っているのか。新刊『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)の著者で、マーケティングアナリストの原田曜平さんは「おじさん世代とは、生き方も働き方もまるで違う。たとえば『若者は親がウザいはずだ』というのは通用しない」という――。(後編/全2回)
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■バズる広告には必ず「そう、それ!」が含まれている

Z世代に「面白い」と思ってもらい、バズを生み出してもらえるSNS広告をつくるにはどうすればいいのか。それには、最近の若者がぐっとくるツボ=インサイトをつくことです。

インサイトとは潜在的な消費ニーズといってもいいでしょう。心のなかでモヤモヤとして言語化できていないニーズをつかれたとき、人は「そう、それ!」と膝を打ちます。

あらゆる売れる商品、売れる広告には「そう、それ!」が含まれているのですが、とくにZ世代の若者たちに刺さろうと思うならば、Z世代独特のインサイトを知る必要があります。

ここでは、私の最新著『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)でも取り上げた、若者インサイトの例をいくつか紹介します。そのインサイトをうまくつき、バズった広告の例とあわせて見ていきましょう。

■Z世代の若者は新しいものに飛びつかない

私たち「おじさん」世代とは、生き方も働き方もまるで違うのがZ世代ですが、価値観も大きく異なります。

いま小4の私の娘は『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』をひと目みて、「今までのパパの本で売れると思ったものはないけど、この本は売れるよ」といいました。厳しい一言ですが、彼ら彼女らにしかわからない、バズのツボがあるのは確かです。

例えば、Z世代の若者には「普遍的価値欲求」というインサイトがあります。普遍的価値=いつの時代でも変わらないものを好む傾向が、Z世代には強くあります。裏を返せば、若者だからといって新しいものに飛びつかないのが、Z世代の特徴です。

なぜ、こんなことが起きているのでしょう。

それは、若者たちと一緒に同じ生活をしてみるとわかります。

若者たちは、広告にしても商品にしても、「まがいもの」に取り囲まれています。広告といえば、かつてはテレビ広告が中心。何千万円という予算が投じられた、質の高いものばかりでした。ところがテレビ離れが進み、若者たちが目にするのはネット広告ばかりに。

もちろん、ネット広告にも質の高いものはたくさんあります。しかしネット広告は「素人でも作成できる」のが売りでもあり、予算はなく、平均的な質の低さは否めません。商品も同じです。かつて新商品といえば、大企業が出すものであり、「いいもの」であることが約束されていました。ところが今は、新商品といっても大企業が出すものとは限りません。「初めて名前を聞いた海外メーカーから商品を取り寄せてみたら、すぐに壊れた」といった、残念な体験をすることも少なくないのです。

こうなると若者たちは、新しいもの=いいものだとは、思えなくなります。

■社会の潮流とは逆をいく“非効率な姿”がバズっている

必然的に、企業に求められる広告戦略もかわってきます。私をふくめ、高度成長期やバブル期を知っている「おじさん」世代は、広告でも製品でも「若者が好みそうな新しい価値を提示しよう」と躍起になっていました。しかし今若者たちが牽かれるのは、むしろ歴史があるもの、いつの時代も変わらない普遍的な価値なのです。

たとえばTikTok上では、菓子職人や時計職人などが、昔ながらの仕事の裏側や作業風景を短尺の動画で紹介した映像がバズっています。

このように、長年不変なものこそがクールと感じるのが、現代の若者たちなのです

「無駄の価値」を訴える広告もバズっています。動画配信サービスのU-NEXTはこんなYouTube動画を打ちました。中年の主人公が、10代の頃に集めていた映画のビデオテープを母親に捨てられそうになったことをきっかけに、映画に熱中していた時間の価値を再確認する――。社会の潮流とは逆をいく「非効率な姿」をポジティブに描いた広告です。

デジタル化・効率化が叫ばれる社会に生まれたZ世代はとかく「無駄を省いて行動する」ことを強いられてきました。おそらくその反動なのでしょう。「一見無駄に見える行動や時間のなかに価値がある」というアプローチの広告が、Z世代には刺さるのです。

■「仲良し親子」の過剰ぶりを描け

SNSが私たちにもたらした変化は数々ありますが、そのうち最大のものは人間関係ではないでしょうか。

例えば、LINEで親子がつながるようになり、コミュニケーション量が増えたことで単純に親子関係が仲良くなっています。友人関係も変わりました。一昔前なら、学校の卒業とともに関係がリセットされたものですが、今ではSNSでずっとつながっていられます。

このような「親しい人間関係の変化」という若者インサイトをきちんと描けないと、SNS広告・SNS広報は「時代遅れ」感が一気に出てしまいます。

若者たちの新しい人間関係をリアルに描いた広告をいくつかご紹介します。なかにはテレビCMもありますが、そこに隠れているインサイトはSNS広告へも応用が効きます。

例えば「過剰な親子のコミュニケーション」を描いたCMがバズっています。PayPayのテレビCMは次のようなものでした。男友達とカフェで勉強をする娘。カフェの外を通りかかった父親は、娘に「カフェ代 がんばれ!」というメッセージと共に、ペイペイで1000円を送金。メインコピーは「そのお金は、お金以上だ」――。

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■「若い子は親を疎ましく思うはず」はもう古い

私たち「おじさん」の感覚からすると、この親子の仲の良さは相当「過剰」です。というのも、かつて親子関係はもっと距離が遠いものでした。思春期になると子どもは親を疎ましく思うのが普通。特に娘は父親に嫌悪感をいだき、距離をとりたがる傾向がありました。

ところが、Z世代は違います。Z世代は親に反抗しないどころか親と親しくしたいのです。この感覚を見誤り、「若い子は親を疎ましく思うはずだ」と思いこんでいると、Z世代に刺さる広告はつくれません。むしろ、過剰なぐらいに仲の良さを強調する必要があります。

同様に、孫と祖父母の関係も親しくなっています。「若者が詳しいデジタル機器やサービスについて祖父母に教える」シーンを描いた広告などは象徴的です。昔なら、孫が祖父母に教わるばかりでしたが、今では孫が優位に。また、頑固できびしい祖父母が減り、孫にやさしい祖父母が増えました。

■「もう中学生」に見るやわらかコミュニケーション

もう1つ、人間関係全般にかかる傾向として押さえておきたいのは、「やわらかコミュニケーション」というインサイトです。

原田曜平『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)

Z世代は人にやさしい、やわらかいコミュニケーションが大好きです。SNS上での言い争いや炎上騒ぎを目にしているZ世代は、その反動で人の価値を否定しない、衝突を避けるコミュニケーションを身につけています。

「否定しないツッコミ」でお笑いコンビの「ぺこぱ」がブレイクしたのは象徴的ですし、「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎も、敵である鬼に同情し、涙を流しました。

最新の事例で言えば、芸人の「もう中学生」さんの大ブレイクだと思います。独特なボケはおじさんたちの理解を超えているかもしれませんが、いつも一生懸命でかわいらしく、なにより絶対に人を傷つけないやわらかさがあります。こうした時代の空気のせいか、毒舌で再ブレイクした有吉弘行さんも相当やわらかくなっているように見受けられます。

■毒舌にもかかわらず“ひろゆき”が人気の理由

こうなると、広告にも柔らかさが求められます。何かを否定する広告は敬遠され、むしろ競合商品まで肯定するやわらかさが好感を呼んでいます。例えば、山形のお米「雪若丸」のテレビCMです。俳優の田中圭さんが「日本のお米でおいしくないものはない」が「あえていうなら雪若丸が好き」と語るものです。雪若丸をアピールしながらも、そのライバルである日本のお米全般を褒めているところが、やわらかさの所以です。

そんなことを言うと、「じゃあ、“ひろゆき”の人気の高さはどう説明するんだ? 毒舌で人気じゃないか」とツッコミを受けてしまうかもしれません。なるほど確かに、Z世代の若い子はひろゆきさんが大好きです。

しかし私の分析では、ひろゆきさんもまたやさしいのです。毒舌といえば毒舌ですし、面と向かって誰かを論破する強さもありますが、彼が戦いをしかけるのは、いつも自分より強い誰かなのです。

最近は、企業の社員が出演して自社をPRするYouTube動画が増えています。そんな場面でも、やわらかい言葉づかいを心がけましょう。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。
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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平)