富士24時間レース2022に参戦した「MAZDA2 Bio concept」(筆者撮影)

次世代バイオディーゼル燃料とは何なのか。また、ミドリムシを原料とする次世代バイオディーゼル燃料とは、どういうことなのか。

マツダは、2020年から、「CX-5」を使って広島で産学官連携による次世代バイオディーゼル燃料の公道実験を続けてきた。

2022年は、国内レースの「スーパー耐久」シリーズに「MAZDA2 Bio concept」として、「MAZDA2」のSKYACTIV-Dエンジン搭載モデルを改良したレーシングカーに次世代バイオディーゼル燃料を使ってフル参戦している。使用しているのは、100%バイオ由来の次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」だ。


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こうして着々と実用化が進む次世代バイオディーゼル燃料だが、一般的な理解はあまり進んでいない印象がある。

なぜならば、2021年後半からメディアによく登場するようになった「カーボンニュートラル燃料」「合成燃料」「e-フューエル」といった言葉がひとり歩きしてしまい、次世代バイオディーゼル燃料を含めた新しい技術による輸送用燃料の全体像や、それぞれの燃料の特徴がつかみにくいからだ

そこで、サステオの製造施設であるユーグレナ社「バイオ燃料製造実証プラント」(神奈川県横浜市鶴見区)を取材し、実際にどのようなプロセスで製造されているのかをユーグレナ社の関係者に詳しく聞いてみた。

2025年に本格的な量産を目指す

バイオ燃料製造実証プラントは、周辺に製鉄などの大規模な設備や国の研究機関などがある京浜工業地帯の一角にある。


今回、マツダ「CX-5」に乗ってユーグレナ社のバイオ燃料製造実証プラントを訪れた(筆者撮影)

この土地はAGCの関連施設の一部で、敷地は7800平米と燃料精製施設としては比較的こぢんまりしている印象だ。神奈川県や横浜市などからの助成等を受け、総額58億円を投じて2018年10月に竣工した。

ここはあくまでも実証試験が目的であり、竣工から5〜10年後までの期間に限定した運用を基本として、2025年には本格的な量産に向けた実用機への転換を目指している。現在の稼働は1回あたり2カ月間で、これを年5回行い、生産能力は日産5バレル(年産約125kL相当)と、一般的な石油精製所と比べるとかなり少ない。

人員は総勢24人で、稼働中は24時間を交代制で対応し、製造技術については、Chevron Lummus Global社とARA社からのライセンス生産に基づく、「Biofuels ISOCONVERSION Process(略称BICプロセス)」にもとづいて行われる。

ジェット燃料については、国際認証機関であるASTM(アメリカン・ソサエティ・フォー・テスティング・アンド・マテリアル)インターナショナルが規定するD7566規格のANNEX6という製造方法で行う。

世界的に見て、ANNEX6は大学などの研究室レベルでの実験はほかにも例があるが、原料から「ASTM D7566 Annex6」の規格を満たすJETを一気通貫で製造できるのは、現時点では鶴見の実証プラントのみだという。

製造プロセスは4段階

具体的な製造内容については、実証製造部 プロセス管理課長 兼 実証プラント副工場長の草次宏昌(くさつぐひろまさ)氏から、使用する材料や精製される実物のサンプルを見ながら詳しい説明を受けた。


バイオ燃料製造実証プラントにて草次宏昌氏(筆者撮影)

原料は大きく2つある。1つは、ユーグレナが沖縄県石垣島で生産している、微細藻類のミドリムシ由来の油脂(ミドリムシワックス)だ。ミドリムシは100種類以上あり、ビタミンやカルシウムを含むものなどさまざまな特徴を持つものがあるが、今回の実証では油脂を含むミドリムシを使う。

もう1つは、家庭や店舗などから出た天ぷら油などの廃食用油だ。この中には、未使用で賞味期限切れした油なども一部含まれる。


バイオ燃料の原料であるミドリムシワックスと廃食用油のサンプル(筆者撮影)

精製工程は4段階だ。第1段階は「原料前処理」で、油脂を加水分解し、リンや金属分といった不純物を除去する。固形廃棄物の排出はなく、製品収率のロスは0.5%未満だという。

第2段階は「水熱処理」。加水分解した油脂を、シクロパラフィンや芳香族化合物を含む低分子量の燃料に適した合成油へと変換する。

第3段階は「水素化」で、酸素原子・2重結合を除去して、純粋な液体炭化水素製品へ転換する工程。

第4段階は「蒸留」で、水素化された製品を、沸点に基づきナフサ、ASTM D7566 Annex6に適合したジェット燃料、JIS K2204に適合した軽油成分へ精製する工程(非化学変換工程)だ。

4つの工程、それぞれで精製されるサンプル品を見たが、第1段階では茶色っぽい液体が、第2段階を経ると一気に黒い液体となり、第3段階では黄色がかった透明度がある液体となった。最終的に蒸留されたナフサ、ジェット燃料、バイオディーゼル燃料は、透明な液体だ。


原料から製品まで4つの段階を経て変化する様子がサンプルを見るとよくわかる(筆者撮影)

草次氏は「実際の実験運転は2019年1月に始めたが、蒸留までのプロセスが行えたのは、8回目の実験運転となった2020年5月が最初。さらに、ジェット燃料を含むすべての燃料まで蒸留できたのは、初回運転から2年後、13回目の実験運転となった2021年1月だった」と、これまでの苦悩を振り返った。現在は、安定した精製が可能になっているという。

こうして安定的に生産できるようになった「次世代バイオディーゼル燃料」だが、なにがどう「次世代」なのか。その定義について、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、「バイオ燃料には大きく3つの区分がある」としている。

世に出た順で見ると、第1世代はトウモロコシなど可食部に由来するもの。第2世代は、非食用の木材や草などを使用したものとなる。

第1世代と第2世代のバイオ燃料には、エタノールやバイオディーゼルなどがあるが、分子構造が石油由来の燃料とは違う。そのため、ガソリンやディーゼル燃料と混合する場合は、その比率に対して法的な制限があるのが実情だ。

一方、次世代バイオ燃料は炭化水素燃料であり、ガソリンやディーゼル燃料と分子構造が同じである。例えば、サステオはJIS(日本工業規格)で軽油と同じ扱いになっている。


軽油はディーゼルエンジンに使われる燃料だ(筆者撮影)

こうした各世代のバイオ燃料が、広義ではカーボンニュートラル燃料として認識されているのだ。また、カーボンニュートラル燃料の仲間である合成燃料(またはe-フューエル)とは、再生可能エネルギー由来の水素を使う場合の用語である。

トヨタが「富士24時間レース2022」でメディア向けに配布した資料には、「水素の由来が再生エネルギーではない場合、厳密にはe-フューエルとは呼べないが、こうした用語の使い方が市場で混乱している」との説明もあった

究極は「ミドリムシ100%」

では、次世代バイオ燃料は今後、日本でも普及するのだろうか。

IEA(国際エネルギー機関)では、バイオ燃料が2021年から2026年までに「グローバルで28%増加する」と予測している。その裏付けとして、アメリカとEUでカーボンニュートラルに向けた規制を強化する方針があるほか、中国やインドでも供給量の増加が見込まれていることがある。

中でもジェット燃料については、ICAO(国際民間航空機関)を中心としてSAF(サスティナブル・エビエーション・フューエル:持続可能な航空燃料)への転換を目指しており、次世代バイオ燃料の需要拡大が期待されている。

一方、日本では政府のグリーン成長戦略が、日本における次世代バイオ燃料市場の拡大に向けた追い風になっているのだが、燃料というくくりでは水素やアンモニアなどに比べると、次世代バイオ燃料についての方針は具体的になっていない。

そうした中、日本では石油大手が2021年から2022年にかけて相次いで、SAFへの対応などで次世代バイオ燃料の事業化に関する発表を行っている。ベンチャー企業であるユーグレナなどを含めて、日本でもやっと次世代バイオ燃料市場の拡大に向けた風が吹き始めた印象だ。


富士24時間レースのイベント内では次世代バイオディーゼル燃料車の試乗会も行われていた(筆者撮影)

次世代バイオディーゼル燃料については、さまざまな原料や製造方法があるが、原料となる廃油の獲得競争がすでに始まっているという。そのため、ユーグレナは油脂分を含むミドリムシを自社で培養することが、石油大手など他社との大きな差別化要因になると考えている。

究極は、100%ミドリムシ由来の次世代バイオ燃料を製造・供給することだと思うが、まずは現在の実証プラントで行っているような、既存ディーゼル燃料とサステオとの混合燃料が現実的だ。混合燃料の量産効果によって、コストを抑制する方向で事業を進めることになる。

身近になりつつあるバイオ燃料

最後にサステオの採用事例を紹介しよう。ジェット燃料では、2021年6月4日に国土交通省所有の飛行検査機でのフライト、同年6月29日にプライベートジェット「ホンダ ジェットエリート」、そして2022年3月16日には富士ドリームエアラインでのチャーターフライトなどで使用されている。

次世代バイオディーゼル燃料としては、2020年3月のいすゞ社員用バスを皮切りに、JRバス関東、ファミリーマートの配送トラック、セブンイレブンのペットボトル回収車、商船三井のタグボート等で採用された。

実証プラントでの供給量の関係などから、これら次世代バイオディーゼル燃料は通常のディーゼル燃料にサステオを10%混合した状態で供給している。現在、サステオの次世代バイオディーゼル燃料100%で走行しているのは、マツダがスーパー耐久シリーズで参戦するMAZDA2 Bio conceptだけだ。

ミドリムシ由来の次世代バイオディーゼル燃料は、将来性のある燃料の1つであるといえる。いつの間にか、こうした次世代バイオディーゼル燃料が身近になっている。そんな日も、そう遠くないかもしれない。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)