2021年度も混雑率ワースト1位となった日暮里・舎人ライナー。混雑そのものは大幅に緩和された(記者撮影)

コロナ禍の長期化によるテレワークの浸透などで様変わりした「通勤」のあり方。定期券代を支給しない企業も増えた。2010年代までは定員の2倍近い190%台も珍しくなかった通勤電車の混雑率は大幅に低下した。

国土交通省は7月22日、2021年度の都市鉄道混雑率調査結果を公表した。3大都市圏主要路線の平均混雑率は、東京圏が前年度比で1ポイント増の108%、名古屋圏が6ポイント増の110%、大阪圏が1ポイント増の104%と若干上昇した。一方で、前年度からさらにピーク時の輸送人員が5000人以上減った路線もあり、都市部の鉄道を支える「屋台骨」だった通勤利用が落ち込んだままほとんど戻っていない状況が明白となった。

2位に「西鉄貝塚線」、4位に「可部線」

混雑率は、ラッシュピーク時の1時間に最混雑区間を通る列車の輸送力(車両編成数×本数)と輸送人員(乗客数)に基づいて算出される。今回の調査結果に記載されているのは全国のJR、私鉄、地下鉄、モノレールなどのうち計236区間(同一路線の複数区間を計測している場合もあるため路線数は異なる)だ。


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2020年度はそれまでの「常連」だったJR総武線各駅停車や東京メトロ東西線などがワースト5から消え、代わりに地方路線が上位になる「大激変」があった。

今回の結果を集計すると、全国ワースト1位は前年度と同じ東京都営の新交通システム、日暮里・舎人ライナーの赤土小学校前→西日暮里間で、混雑率は144%。2位は西日本鉄道貝塚線の名島→貝塚間(福岡県)で140%、3位はJR武蔵野線の東浦和→南浦和間(埼玉県)で137%、4位はJR埼京線の板橋→池袋間(東京都)とJR可部線の可部→広島間(広島県)が132%で並んだ。可部線を除く4路線は前年度比で混雑率が上昇した。

1位の日暮里・舎人ライナーは、ピーク時の本数は前年度と変わらず、輸送人員が約200人増えたため混雑率は4ポイント増の144%となった。同線は最高で189%を記録した時期と比べれば大幅に緩和されたものの、2016年度以来混雑率ワースト5の常連路線。今年度から2024年度にかけて既存の車両12編成を定員の多い新型車に更新する予定で、輸送力の増強を図る。

2位の西鉄貝塚線は福岡郊外を走る約11kmの路線。電車が2両編成ということもあり実は以前から混雑率が高い路線の1つで、2019年度は158%と首都圏の路線以外では最高だった。4位の可部線は広島郊外の通勤路線で、コロナ禍でも利用者数が減っていないことから前年度に続きワースト5入りした。両線は大都市部の混雑率が大幅に下落する中で「高止まり」した形だ。どちらも1時間当たりの輸送力が1000〜2000人台と少なく、わずかな利用者数の増減が混雑率の数値に影響しやすいともいえる。

ワースト5路線のうち、輸送人員が1000人以上増えたのは4位タイのJR埼京線だ。同線は2020年度比で輸送人員が1390人増の3万6860人となった一方、輸送力は10両編成19本で変わらないため、混雑率は5ポイント増の132%となった。首都圏のJR線で輸送人員が1000人以上増えたのは常磐線快速(1800人)、中央線快速(1710人)と埼京線の3路線。前2線はもともとの輸送力が大きいため、相対的に小さい埼京線が混雑率では上位となった。

データを集計すると、全国で輸送人員が1000人以上増えたのは32区間で、最多はJR西日本の東海道線快速(京都線快速・新快速)茨木→新大阪間の約6100人。首都圏でもっとも多いのは東京メトロ日比谷線の三ノ輪→入谷間が約4800人だった。

逆に、前年度よりもさらに輸送人員が減少した路線もある。全国で最も減ったのは、以前は有数の混雑路線として知られた東急田園都市線だ。2021年度は前年度比で5600人ほど減って約4万5300人となり、2019年度の約7万3000人と比べると6割程度まで落ち込んだ。東急は目黒線、東横線もそれぞれ約5400人、約2100人減っている。同社は大手私鉄の中でもとくに定期客の減少率が高いが、これを裏付ける結果といえそうだ。

輸送力削減は続きそうだが…

一方、鉄道各社は輸送人員の落ち込みに対応するため、終電繰り上げや列車の減便などを相次いで実施している。同一路線・区間でも快速と各駅停車を別項目としている例や混雑時間帯が前年度と変わった区間、定員の算出方法の違いなどもあるため一概に減便・減車の影響とは言い切れないが、今回のデータを集計すると最混雑時間帯の輸送力が前年度比で500人分以上減ったのは計19区間あった。

今後も輸送力削減は各地の鉄道で続きそうだ。例えば東京メトロは8月のダイヤ改正で銀座線、丸ノ内線、東西線、千代田線を減便し、銀座線は日中6本減、朝7時台も渋谷方面行きを4本削減するなどの大ナタを振るう。

ただ、コロナ前に比べれば緩和されたとはいえ、朝夕ラッシュ時の混雑は引き続き都市鉄道の大きな課題だ。減便で混雑が悪化すれば、さらなる鉄道離れにもつながりかねない。

国土交通省は鉄道の運賃制度に関して、混雑時と閑散時で価格を変える「ダイナミックプライシング」の導入などに向けた具体的な検討を進めるとしている。コロナ禍前と同水準への利用回復が見込めない中、運賃などソフト面での対策でラッシュ時への集中を防ぎ、利用の平準化を図る施策の必要性はコスト削減の観点からもより高まっていくだろう。そのためには、地方都市など実際には混み合っているものの混雑率が公表されていない路線などを含めてラッシュの実態をさらに明らかにし、利用者の理解を得ることも重要だ。




(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)