7月最初の週末、KDDIで発生した通信障害は、発生から復旧まで86時間を要した(編集部撮影)

猛暑の週末に発生した大規模な通信障害は、日常の生活や経済活動に大きな影響を与えた。

7月2日未明、KDDIで発生した通信障害。影響が出た回線数は最大で約3195万に上り、完全復旧には4日近くも要した。携帯電話大手の通信障害としては、総務省が公表している2008年度以降で最大の規模となる。障害の発生から復旧までに86時間程度かかり、2021年10月に起きたNTTドコモの通信障害の約29時間を大きく上回る長さとなった。

「重大な事故」に該当

事の発端は、2日未明の定期的な通信設備のメンテナンス中に不具合が生じたことだ。その際、電話交換機などの通信設備にトラフィックが集中する現象が発生。音声通話もデータ通信もほとんど利用できない状態に陥った。


都内のauショップの入り口には、通信障害が続いていることを伝える紙が貼られていた(編集部撮影)

KDDIによると、復旧作業は西日本で3日11時、東日本で同日17時半に終了したが、以降も通常どおりの通信ができるかテストを実施することを理由に、通信制限を継続。確認作業に時間をかけたことで、完全な復旧宣言を出したのは5日の15時半になった。

金子恭之総務相は3日朝に開いた臨時の記者会見で、「電気通信事業法上の『重大な事故』に該当する」と言及。行政処分を辞さない考えを示した。

KDDIは5日時点で、事故原因を「調査中」としている。電気通信事業法によれば、110番など緊急通報を扱う通信サービスで、3万人以上の利用者が1時間以上通信を利用できない場合などが「重大な事故」と位置づけられている。

重大な事故となった場合、30日以内に総務省に調査報告書を提出することが義務づけられている。その後、事故原因の詳細や再発防止策が公表される見通しだ。

KDDIにとって、今回の通信障害の代償はどれほどのものか。KDDIの郄橋誠社長は、3日の会見で「個人・法人に対する補償を検討する」と表明した。

複数の証券アナリストは、利用できなかった期間分について個人向けに補償すれば、150億〜200億円程度の減益要因になると試算する(KDDIの2023年3月期の営業利益計画は1兆1000億円)。

また、被害を受けた法人顧客からの視線も厳しい。KDDIと社用携帯を法人契約する都内の食品卸企業からは「現時点で他社への乗り換えは考えていないが、今後の対策次第だ」との声が聞かれる。今回の通信障害を重くみた顧客が、ほかのキャリアに乗り換える可能性も出てくる。

IoTで広がる障害

ここ数年、KDDIに限らず大手キャリアでは通信障害が相次いでいる。ドコモは2021年10月に約1290万人、ソフトバンクは2018年12月に約3060万人に影響を与える大規模な通信障害を起こした。総務省によると、2020年度の重大な事故の件数は4件。ここ数年は3〜5件で推移しているものの、事故1件当たりの影響を受ける個人や法人の数が大きくなっている傾向がみられる。

通信業界に詳しいMM総研の横田英明研究部長は「(次世代通信規格の)5Gの社会実装が進んだり、次の6Gが出てきたりすると、接続するシステムが増える分だけ、通信障害が起きやすくなる」と指摘する。

その代表例がIoT。技術の進展により携帯電話と連係するサービスが増えるためだ。実際、昨秋のドコモの事故はIoT端末を起点に発生しており、音声通話・データ通信の領域にまで障害が広がった。総務省はドコモの件を重くみて、2021年11月には行政指導を行った。そして、当事者のドコモのみならず、KDDIやソフトバンクなどキャリア各社に対して、緊急点検を実施した。

当時、総務省は「緊急点検の結果、各社ともドコモが講ずる再発防止策と同等の措置が講じられている、または本件を踏まえた再発防止策を検討中であることを確認した(一部省略)」とリリースで発表している。

今回のKDDIの通信障害について、総務省電気通信技術システム課の担当者は「詳細な原因究明はこれからだが、事前準備などの点で、ドコモ事故と同じような失敗を犯している。KDDIの体制整備は不十分だった」と述べた。

KDDIの吉村和幸専務は4日の会見で「ドコモの経験を生かして対策に取り組んできたが、当初の想定よりも規模が大きく、範囲が広かった」と悔やんだ。

MM総研の横田氏は「緊急時にキャリア間で通信網を支え合う体制づくりが急務だ」と話す。デジタル化の進展で通信インフラの社会的重要性が高まる中、通信網を維持する仕組みづくりを再考する必要がある。

( 高野 馨太 : 東洋経済 記者)