この記事をまとめると

■2022年6月、衆議院で自賠責保険に関する改正法が可決された

■一台あたり最大150円の値上がりが予想される

■値上がりする理由について理解するには、賦課金について知る必要がある

一台あたり最大150円の値上がりが予想される

 自動車諸税の負担が他国に比べて大きい点などから、日本政府は自動車ユーザーを実際以上に富裕層と考え、まるで“打ち出の小づち”のように捉えているという批判は前々からあるわけだが、そんな自動車ユーザーの負担がまた増えることになりそうだ。

 2022年6月、自賠責保険に関する改正法が衆議院で可決され、一台あたり最大150円の値上がりが予想される状況になっているのだ。

 自賠責保険、正確には自動車損害賠償責任保険というのは強制保険と呼ばれることもあるが、原付から大型バスまで日本の公道を走るためには加入が義務付けられている保険で、交通事故による死傷者に対する最低限の補償を行うための保険という位置づけになっている。

 そうした背景もあって、自賠責保険はビジネスとして儲けてはいけない建付けだ。簡単にいえば毎年の保険収支において儲からないような保険料に設定することが求められている。保険料+事務管理費=支払った保障金といったイメージだ。

 衝突被害軽減ブレーキの普及などにより、日本の交通事故は毎年減っているのはご存じのとおり。事故が少なければ死傷者も減るわけで、おのずと自賠責保険料も下がっている。

 具体的には交通事故の多かった昭和60年には4万1850円(自家用車2年)だった保険料は、現在では2万0010円と半額以下になっているのだ。事故を起こさなければ、保険料が下がり、ユーザーがハッピーになるという状況なのである。

 そんな自賠責保険が値上がりする理由について理解するには、自賠責保険に含まれる賦課金の存在について知る必要があるだろう。

 冒頭、自賠責保険は加入が義務付けられていると記したが、保険加入を確認するのは基本的に車検時となっている。つまり車検を通していない車両は、無保険車となり、そうしたクルマが人身事故を起こした場合、当然ながら保険料は支払われない。そうした加害者が自賠責保険に加入していないケースや、ひき逃げなど加害者が特定できていない場合に、自賠責保険に変わって政府が被害者を救済する制度がある。

 それが自動車損賠賠償保障事業と呼ばれるもので、その救済に使われる予算の原資となっているのが、自賠責保険に含まれる賦課金というわけだ。その賦課金は、自家用車1台当たり16円/年となっている。

政府が主張しているのは自賠責保険の積立金不足

 今回の法改正では、この賦課金が現状では足りないということで、この部分を最大150円程度まで一気に値上げしようというわけだ。

 理由のひとつとしては、交通事故死者が減少している一方で、介護料受給資格者は微増しているという点が挙げられる。車両・医療の技術発展により交通事故による死者が激減しているのはご存じの通りだが、重度後遺障害者は減っているわけではなく、つまり自動車損賠賠償保障事業から支払われる介護料も増えているといえる。

 無保険車によって被害者となった人には何の罪もなく、政府が補償事業を行うというのは否定すべきことではない。その原資として自賠責保険に十数円の賦課金が含まれているという点においては理解できるといえる。とはいえ、賦課金をいきなり150円に増額しようというのはあまりに乱暴だ。

 その背景として政府が主張しているのは自賠責保険の積立金不足だ。補償事業に使われる予算は、積立金の運用益によって賄われるというのが原則だが、積立金が足りないために種銭となる積立金自体を取り崩すことになっているという。種銭が減れば運用益も減るわけで、補償事業が持続できなくなるのは明らかだ。そのために賦課金を増額するというわけだ。

 しかし、そもそも積立金がこうして危機的状況になったのは、1994〜1995年に自賠責保険の積立金を国の一般会計に、最大1兆1200億円が繰り入れられたことにある。後に、一般会計から自賠責保険の積立金へと返還されているが、いまだ6000億円超が返還されていない。

 仮に、6000億円を年利4%で運用すれば運用益は240億円となる。一方で、日本でナンバーをつけている車両の台数は約8200万台であり、一台あたり150円の賦課金を負担させたとしても123億円にしかならない。

 旧大蔵省が一般会計に算入したままとなっている6000億円を自賠責保険の積立金として返還して、それを運用すれば賦課金の増額などせずとも足りてしまう計算となる。

 合理的かつ倫理的に考えれば、財務省が借りた金を返して、適切に運用すれば賦課金の増額(≒自賠責保険の値上げ)は不要だ。こんな簡単な計算ができない国会議員は何のために存在しているのか大いに疑問だ。