将来的に子供の中学受験を考えている家庭はどんな準備をしたらいいのか。プロ家庭教師集団・名門指導会代表の西村則康さんは「小3の秋までに、小4の計算と漢字の予習をするといい。また、家庭の親子の会話を注意することで国語の文章読解の問題正答率が高まる」という――(後編/全2回)。

※本稿は、『プレジデントFamily 中学受験大百科2022』の一部を再編集したものです。

前編(導入編、実体験編)から続く

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■勉強編 4年生の計算と漢字まで予習を

応用問題は家で取り組まなくていい

低学年からやっておくべき計算と漢字の予習とは、どういうものなのか。目安としては3年生の秋までに1年半先の4年生の分野まで終わらせておくと、入塾テストにも入塾後の受験勉強にもいい効果がある。

「入塾テストの算数では図形の問題はあまり難しいものは出ませんが、かっこがある四則計算など4年生で習う分野が出題されます。それに塾に入ってしまうと丁寧に算数の計算を勉強する余裕はないので、入塾前に予習しておくといいですよ。漢字も同様で、4年生で習う漢字は読みと書きの両方を予習しておきましょう」

1年半も先取りというと大変そうだが、市販のドリルで「4年生の計算」「4年生の漢字」といったものをやるという程度で十分だそうだ。

また計算はただ単に正解を早く出せるだけではなく、計算の意味も理解しておくことが肝心だ。

「『100は25が四つ集まっている』『15分が四つで60分になる』といった“数のイメージ”を身につけておいてほしいのです。『□×8=48』といった虫食い算をやるのもいいでしょう。クイズのように『答えが27になる九九はどれだろう?』とか、『4にいくつ足したら13になるかな?』とお子さんに質問してもいいですね」

■“てにをは”には気を付けて話そう

また、西村さんは鉛筆の正しい持ち方を入塾前に身につけさせてほしいとアドバイスする。

「あまり注目していない人が多いかもしれませんが、鉛筆の持ち方は大事です。私がお子さんの勉強を見るときにまず確認するのは鉛筆の持ち方です」

鉛筆を持つ手の親指が人さし指の上に重なり、鉛筆が垂直に立つような持ち方をしている子は多い。この持ち方では字がきれいに書けないばかりか疲れやすく、それがミスの原因にもなる。

「持ち方を直すと、書くスピードはもちろん、算数で図を描く際にも真っ直ぐに線を引けるようになります。矯正するのには数カ月かかることもあるので、入塾前にはやっておきましょう」

入塾テストの国語では課題文を読んで設問に答える文章読解問題が出る塾もある。こうした国語の文章への対策は日常会話で十分できると西村さんは言う。

「国語の文章読解力は、質問されたことに適切に答えるといったやりとりで育ちます。『今日何したの?』といった漠然とした質問ではなく、『今日の社会の授業で面白かった話のベスト1は何?』といった、子供が何を聞かれているのかわかりやすい質問をしましょう。そして大人の発話を短くすれば、子供は自然とたくさん話してくれるようになります。『黙っていなさい』と言われるようなおしゃべりな子ほど国語が得意です。子供が安心して言いたいことを発信できる環境をつくってやるといいです」

さらに子供と会話をする際には、「“てにをは”を意識して話すと、助詞の理解も進む」と西村さんは言う。

「今日、お昼何食べた?」ではなく「今日の・お昼ご飯に・何を・食べたの?」というように。“てにをは”を省略していると思い当たる方はぜひ試してみよう。

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■入塾準備編 小3から半年で、塾のテストに備えよう

3年生の秋から冬にかけて各塾は新4年生の入塾テストを開始する。西村さんは3年生の4月頃から準備をして「入塾テストで少しでもよい点数をとって上位クラスで入塾すること」をすすめている。

「どの塾も上位クラスにいい先生を配置しています。ハイレベルの塾に下位で入るよりも、少し塾のレベルを下げて上位クラスに入るほうがおすすめです」

では入塾テスト前に具体的にどんな準備をしておけばいいのだろう。

「3年生の1学期に、参考書の『小学3・4年 自由自在』の国語と算数から、3年生のところを解き、学校では習わない応用問題に慣れておきましょう。直前には私が大手塾の入塾テストを分析して作った問題集『中学受験 入塾テストで上位クラスに入るスタートダッシュ 算数・国語』を解くのもおすすめです」

■1日30分の学習習慣と親の覚悟

4年生から本格的な塾通いが始まると当然、宿題もすることになる。そうなると家での学習習慣を身につけておくことが大切になる。塾が始まって自然に習慣を身につけられる子もいるが、心配な場合は3年生から1日約30分の学習習慣をつけておこう。

「入塾前に毎日30分勉強できるなら、塾が始まって1時間と時間が延びても対応できるでしょう。学校の宿題と市販のドリルを合わせて30分机に向かう習慣をつけられるといいですね」

『プレジデントFamily 中学受験大百科2022』

一方で、西村さんは、こうした子供の準備と同時に「受験を始める親の覚悟」が必要だと語る。

「子供は大人のように、目標に向けて計画通りに物事を進めることはできません。それを織り込んで受験をサポートすることを家族で話し合うことが必要です。子供が『毎日勉強する』と言っても、『(そのときは)毎日勉強する(気分だった)』というようにかっこの言葉が隠れていると思ったほうがいい」

いざ塾が始まると、思うように成績が上がらなかったり、子供が勉強を嫌がったりすることもあるだろう。「そんな成績ならやめてしまえ」と叱るなど親がカッとなってしまう場面は少なくない。

「残念ながら、こうしたやりとりが頻発している家庭のお子さんの成績は上がりません。特に、親がクラスを上げることを目的にすると、子供は萎縮してしまいます。結果ではなく、過程を認めてやることが大事。計画の一部しかできなくても、少しでもやったことは前進している証拠。『やっているときの集中力はすごかった』などと褒めましょう。こうした積み重ねで親の意見にも耳を傾けてみようという気になるものです」

中学受験はやり方次第で、深い思考力、論理力、工夫する力や諦めない心など、その先の人生に役立つ力が育てられる貴重な機会になる。

「親御さんには『うちの子は大丈夫』といった根拠のない信頼を持ち続けてほしい。そのほうがお子さんはのびのび勉強に打ち込めます」

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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 文=加藤紀子)