2020年の男性育休取得率は12.65%だ。制度が存在しても利用されていない実態がある。小児科医の森戸やすみさんは「子供を小児科に連れてくる父親は以前より増えている。男性が育児をしやすい社会の風潮をつくることが大切だ」という――。
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■小児科に子供を連れてくる父親が増えている

その昔、小児科外来にお子さんを連れてくる保護者といえば、ほとんどがお母さんでした。土曜日になると、たまにお父さんがお子さんを連れてくることもありましたが、とても少数派。お父さんに、お子さんの症状や来院理由などをお聞きしても「妻に聞かないとわかりません」などと、何も答えていただけないことも多かったのです。お母さんに「土曜日なんだから連れていって」と言われて、ただ来院されていただけだったのかもしれません。

ところが、10年前くらいから小児科外来にお子さんを連れてくるお父さんが明らかに少しずつ増えてきました。しかも、お子さんの症状や来院理由、咳や鼻水や排泄の状況、食欲の有無、夜は眠れているのかどうかなども、詳しく話してくださるので、とても驚きました。また、小さなお子さんの場合は膝に乗せて診察しやすいようにしてくださったり、予防接種の時は腕を出してくださったり、その手慣れた様子から普段からしっかり子育てされていることがうかがえます。

さらに最近は、もっと顕著です。「いつもなら夜中は授乳する午前3時頃に1度だけしか起きないのに、昨日はずっと咳をしていて、あまり眠れていませんでした」とか「今の体重は12.3kgです」などと教えてくださるお父さんがたくさん増えて、小児科医としてはとても助かります。スマホで生活記録をつけて、ご両親で共有されている方も多いですね。

■日本は「妻」の家事・育児負担が大きい

しかし、日本ではまだ女性が子育てや家事を担うことがほとんどです。その程度は、他国に比べて突出しています。6歳未満の子供を持つ夫婦が、家事や育児にどのくらいの時間を使っているのかを国際比較した表があります。日本、アメリカ、ヨーロッパでは1日平均8時間を夫婦で分担しているようです。そんななか、日本だけが妻の家事・育児関連時間が7時間34分と突出して長く、反対に夫の時間は1時間23分とあまりにも短いのがわかります。

図表=厚生労働省「男女共同参画白書 平成30年度版」

そもそも、日本は労働時間が長いことも問題です。成果よりも頑張ったかどうか、どのくらいの時間をかけたかなどが重視される文化がありますね。また仕事自体は終わったのに、上司や同僚の手前、早く帰れないということもよくあります。最近は「働き方改革」が推奨されていますが、結局はタイムカードを押さずに休日出勤している、サービス残業しているという話も聞きます。

ちなみに私たち医療者の業界も出遅れています。例えば、交代勤務において申し送りをしたり準備をしたりする時間が時間外労働にカウントされない医療機関があります。また医師に限って言えば、1日勤務をした後に当直で夜中も働き、そのまま翌日も夕方まで勤務していることがあるのです。時間外労働の上限を遥かに超えて働く医師が多いのは当然の成り行きでしょう。

■2020年の男性育休取得率は12.65%

さらに、2020年の男性の育児休業取得率は12.65%でした(※1)。1996年には0.12%だったので(※2)、10倍も増加してはいますが、女性の育休取得率は81.6%なので、まだまだ開きは大きいのです。しかも、男性の育休は最多が8週間以内、女性は1年までが最多で、期間にも大きな違いがありますね(※3)。

※1 厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」(2021年7月30日)
※2 厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」(2020年12月14日)
※3 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成30年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(2019年2月)

ちなみに1996年の女性の育休取得率は49.1%で(※2)、2020年は81.6%なのですが、これは「昔の女性は子供が生まれてからも産前のような働き方を続けていた」ということではまったくなく、退職して産後は復職しなかったということですね。いまだに子供が生まれてから働き方を大きく変えるのは、女性が多いでしょう。

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■「現実的には取りづらい」男性育休をめぐる風潮

このように育休でさえ男女差があるのは、父親が悪いというわけではありません。「子育ては面倒だから誰かがやってくれるなら押し付けたい」と思っている人は、実際にはとても少ないでしょう。それよりも「家族が増える」という人生の貴重な機会を見逃したくない、子供の劇的な成長期に居合わせて一緒に時間を過ごしたいという男性は、女性同様にたくさんいます。

また母親が父親の育児参加を希望していないわけでもないでしょう。育休が取れないお父さんが多い中、育児はお母さんのワンオペになってしまい、つらすぎていっそ離婚したいというほどギリギリで頑張っている女性もたくさんいます。

育児中の女性が孤独や取り残されたような気持ちを感じたり、女性ばかりが家事・育児を負担するような状況は問題です。それなのに両親が同じように育児ができないのは、社会の問題が大きいと言えます。育休は男性も取得可能ですが、現実的には取りづらい風潮があるのです。

■充実しているのに利用されていない日本の育児休業制度

そこで日本政府は、この状況を改善するために「育児・介護休業法」を改正しました。2022年4月からは育児休業を取得しやすくするために、事業主は育児休業・産後パパ育休に関する研修を行ったり、相談窓口を作ったりしなくてはいけません。また、妊娠・出産を申し出た本人やその配偶者に対して、育休の意向を聞かなくてはいけません。これは有期雇用労働者に対してもそうです。

そして当然、育休を取得する女性や男性に対して「男が育休を取るなんて迷惑だ」などというハラスメントをしてはいけません。育休取得状況の公表も義務化されましたが、これは従業員数が1000人を超えるような大きな会社だけです。また、育休が子供の出生前・出生後だけでなく、その後にも取れるようになりました。

実は日本の育児休業制度は、他の先進国に遜色のないほど充実しているのですが(※2)、制度としてあるということと、実際に利用できる人が多いということは別の問題だったわけです。今回の法改正で、やっと実際に利用できる人が増えることが期待されます。日本の少子化対策は急務ですし、女性ばかりに負担がかかる現状は改善しないといけません。女性を多く雇用する事業主にばかり育休制度を徹底させたら、会社は男性ばかり採用し女性は敬遠されてしまいます。男性を多く雇っている会社も、育児を支援する必要があるのです。

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■夫の家事・育児時間が長いほど、妻が仕事を続けている

2017年前後に出産をした女性のうち、約5割が出産・育児によって退職しています。その理由で一番多いものは「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで辞めた」というものでした(※3)。

実際、夫が平日に「家事・育児時間なし」の家庭では、半数以上の女性が仕事を辞めるか転職しています。妻にだけ負担が偏っているからです。夫が「4時間以上、家事・育児時間あり」と答えた家庭は、妻の75%が出産前と同じ仕事ができています(※2)。第2子以降の出生割合も、夫が家事・育児の時間が長いほど高いのです。

つまり、長時間労働を改め、男女ともに育児休業を取ることができたら、母親のワンオペ育児が減って、第2子以降を望む家庭も増えるでしょう。個々の家庭にとっていいだけでなく、女性の離職率が下がり事業主にもいいことです。

■男性が育休ですることは、女性と同じ

ところで、「マイクロアグレッション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 最近よく使われるようになった言葉で、意図しないほどの小さな攻撃、先入観、差別のことです。「男の子なんだから泣いてはいけない」とか「女の子は勉強を頑張らなくてもいい」といったようなことは、いくら本人のためを思って言ったのだとしても偏見ですし、よくないことですね。また「アンコンシャスバイアス」という言葉もあります。無意識の偏見や決めつけのことです。

子育ての中でも「男性が育休を取って何をするの?」、「子育てを手伝ってくれているお父さんに、お母さんは感謝しないといけませんね」というようなマイクロアグレッション、アンコンシャスバイアスがずっと以前からありました。父親が育休を取って行うことは、母親が育休を取ったときと同様に「育児」に決まっていますし、本来、育児は両親が共に行うものです。父親の子育てのことを「女性の仕事を男性が手伝っている」というのはおかしいですね。

写真=iStock.com/Rawf8
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■両親揃って子育てする時代はそこまで来ている

幕末から明治時代に日本に来た外国人たちは、日本人はとても子供をかわいがると書き残しています。父親が子供を肩車や抱っこで何かと面倒を見ながらどこにでも連れて行く様子、年長の男の子たちがそれぞれに妹・弟を見せ合って自慢し合う様子などについて書かれたものを読むと微笑ましく思います。日本の子育ての伝統は、いつの時代のどこを切り取るかで違います。少なくとも「男は外で仕事、女は家庭」は、日本でずっと続いている伝統とはいえません。たとえ伝統だったとしても必要に応じて変えていくべきですし、両親共に同じように子育てをする時代になってほしいです。

そして、両親共に子育てする時代は、もうそこまで来ているのではないでしょうか。その証拠に、小児科外来に来るお父さんは増えていますし、様々な若いお父さんたちは子育てについて積極的に関わっています。たとえば、タレントのryuchellさんは、旧来のアンコンシャスバイアスなしで、夫婦の役割分担をしている様子やお子さんとの関わり方をよく話していますね。テレビや雑誌のインタビューで、「家事育児で“手伝う”ではなく“シェアする”感覚を持つべき」などと発言していて、よくSNSで評判になっています。

■社会全体で男性が子育てしやすい風潮を作るのが大事

年配の男性芸能人がテレビ番組で「料理教室は結婚前に(嫁に)行ってほしいな〜 俺らの時代はそやで」「え〜作ってよ〜ご飯は(嫁が)作って〜」と言ったり、同じく年配の男性政治家が「0〜3歳児の赤ちゃんに『パパとママ、どっちが好きか』と聞けば、どう考えたって『ママがいい』に決まっている。お母さんたちに負担がいくことを前提とした社会制度で底上げをしていかないと、『男女平等参画社会だ』『男も育児だ』とか言っても、子どもにとっては迷惑な話かもしれない」と失言したり(※4)、そういう発言に日々あきれてきた私たちからすると、若い世代の変化はとても嬉しいものです。

※4 朝日新聞デジタル「萩生田氏「赤ちゃんはママがいいに決まっている」」(2018年5月27日)

最後に、制度を作るだけでなく、社会全体で男性が育児参加しやすい風潮を作っていくことも大事です。そうすれば女性に余裕ができるばかりでなく、子供にも家庭全体にも、さらには社会全体にもいい影響があるでしょう。少子高齢化で人材難の会社では、働き手が辞めてしまうことなく、事業主も職場の同僚達も助かります。まずは、お子さんについて夫婦で会話をたくさん持ち、一方だけでなく二人で情報を共有する、育休制度を利用する、アンコンシャスバイアスに気をつけるなど、できることから始めていきましょう。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。
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(小児科専門医 森戸 やすみ)