自分の歯を健康に保つために、毎日の歯磨きはとても重要です。基本的には、1日3回の食事のタイミングにあわせて、歯磨きも「朝・昼・夜」の3回行うという人が多いと思います。しかし中には、「忙しくて歯を磨く時間がない」「磨くのを忘れがち」「起床後、朝食の前にも磨くから…」「何か食べると歯を磨かずにはいられない」といったさまざまな事情や理由で、歯磨きの回数が「1日1〜2回」と少なかったり、逆に「1日4〜5回以上」と多かったりする人もいるようです。

 望ましい歯磨きの回数やタイミング、「少ない」「多い」回数がもたらし得る歯への影響について、高谷秀雄歯科クリニック(宇都宮市)院長で歯科医師の高谷秀雄さんに聞きました。

1回目は「起床後すぐの歯磨き」

Q.「1日1回」や「1日2回」といった、一般的に「少ない」とされる回数の歯磨きでは、歯へのどんな影響が考えられますか。

高谷さん「口内の環境は食事だけでなく、ストレスや喫煙などによっても悪化していきます。口内環境は適切な歯磨きによってリセットできますが、1日3回ならば多過ぎず、十分な効果が期待できると考えられます。それより回数が少ないと、口内環境が悪い時間が長くなるため、必然的にデメリットしかありません。

ただし、“食後の歯磨き”という習慣には、勘違いされやすいポイントが2つあります。1つ目は『起床後すぐの歯磨き』です。就寝中は口内環境が悪化しているので、起きたらまずリセットしましょう。つまり、『朝食を抜いたから』といっても歯磨きは必要なのです。『朝食は軽めに取る』という人が多いと思うので、起床後にしっかり歯磨きをして、朝食後には軽く歯磨きをする程度でよいでしょう。

そして2つ目は、『食後は口内が落ち着くまで歯磨きを控えること』で、私はこれをおすすめしています。食後は口内が酸性に変化していますが、これは唾液の循環などによって30分程度で落ち着きます。酸性中に歯磨きをしても効果が薄れ、場合によっては悪化させてしまう恐れもあります。食後すぐに歯磨きをしたい場合は、先に水道水でうがいをして口内の食べカスを洗い流すことにより、ブラッシングの効率を高めると考えます」

Q.一方で、「1日4回」や「1日5回」、またはそれ以上といった、一般的に「多い」とされる回数の歯磨きについてはどうでしょうか。

高谷さん「何事も『過ぎたるはなお及ばざるがごとし』です。歯磨きにおいても質と量のバランスが大事であり、過度なブラッシングは歯肉(歯茎)を傷める恐れもあります。せっけんで頻繁に手を洗うと手荒れの原因になりますが、歯磨きも同じと考えると想像しやすいと思います。

また、歯科医師の目線で見ると、歯磨きが上手な人は少ないです。歯に問題が起きたときしか歯医者にかからない人が多いからかもしれませんが、虫歯になったことがある人はすなわち、歯磨き習慣に問題があるともいえます。

ちなみに、洗口液でのゆすぎ過ぎにも注意です。爽快感が癖になってしまう他、接客などの職業柄、洗口液の使用回数が多くなる人がいますが、実際は飲み込んではいけないほどの薬品なので、過度に使用することは逆効果にもなり得ます」

Q.ということは、やはり歯磨きは「1日3回」が望ましいのでしょうか。

高谷さん「はい、歯磨きは『1日3回』『1回あたり、最低10分間程度』が適度といえます。これは、1日に食事を3回取る場合において推奨する回数なので、実際は『食事の回数=歯磨きの回数』が最適です。ただし先述の通り、朝の起床後すぐは、朝食を取るかどうかにかかわらず歯磨きが必要なので、これを1回目と考えるとよいと思います」

Q.ちなみに、「少な過ぎる」回数と、「多過ぎる」回数の目安はありますか。

高谷さん「食事をした回数より、歯磨きの回数が少なければ、それは『少な過ぎる』といえるでしょう。食事後、何ら口腔ケアを行わずにそのまま過ごしても、歯にとって何もいいことはありません。

逆に、歯磨きの回数が多過ぎるケースは『オーバーブラッシング』といい、食事回数に比べて多く歯磨きをしている人は、歯肉が傷ついていることが多いです。歯磨きは歯肉をマッサージする効果もあるため、過度に行うことは逆効果となります。マッサージチェアに、1日に何度も座ることを想像してみるとよいでしょう。肩こりを解消するどころか、逆に痛めてしまいかねないのと同じです。

とはいえ、歯磨きは、回数だけをこなしても仕方ありません。それよりも、毎回の歯磨きテクニックを向上させる方が効果的です。小さな子どもが、毎食後に歯磨きをしても虫歯になってしまうのは、うまく磨けていないからです。染色液などを用いながら、磨き残しに気を付けて歯磨きをしてみてはいかがでしょうか」